バリカタ伸ばしなラーメン屋
モチーフ「看板娘」
「いらっしゃいませ」
気持ちのいい声が響き渡る。声の主はポニーテールの髪を靡かせ、華奢な体でどんぶりを持って動き回っていた。カウンターに座る真面目そうなサラリーマンも、テーブルに座る髪色が派手な大学生たちも、彼女を見て鼻の下を伸ばしている。なるほど、このラーメン屋が人気なのは、どんぶりからはみ出す魅惑のチャーシューのせいだけではなさそうだ。
「麺、伸びますよ?」
気づいたら彼女がおれの目の前にいた。信じられない。この世から遠近法は無くなったのか? ずっと彼女を見つめていたはずなのに、先程までの位置から顔の大きさが変わっていない。そもそもおれは彼女が近づいてきたことに気づかずに、見つめ続けていたというのか。
「あ、ありがとう」
伸びていたのはあいつらだけじゃなかった。良かったバリカタにしておいて。男足るものいついかなる時もバリカタだ。
最後の一滴まで残さず飲み干す。これは昼休み後の仕事も踏ん張れそうだ。ラーメン一杯分の料金じゃ申し訳ない。
店を出ると彼女がこちらへ走ってきた。やはり顔の大きさは変わらない。その小さくて綺麗な顔立ちにパッチリ開いた可愛らしい目を向けてくれるとは。いくらでも金を積みたくなる罪な顔だ。それにしてもお見送りなんてサービスが過ぎるぞ、神ラーメン店よ。
「金、払え」
「あ」
食券制じゃないの忘れてた。
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