8. うどんはフォークじゃ無理
「讃岐うどん一つ!」
「こっちも讃岐うどん三つくれ!」
「はーい!少々お待ちくださいねー!」
あれから讃岐うどんはフォンドールの名物メニューになった。
珍しい歯応えの麺と不思議な風味のダシがこの世界のお客さんの舌にも合ったようだ。
「ソフィア、私にも讃岐うどんもらえるかな。」
「アントン騎士団長さん。もちろんです!」
「僕らも一つずつください。」
「騎士の皆さんもいつもありがとうございます。それでは讃岐うどん五つお持ちしますね!」
常連客の騎士団の皆さんにも讃岐うどんは人気で、来てくれた人は必ず食べるほどの人気になっている。
本当の讃岐うどんはもっと美味しいんだけど……。
「もっとこだわった材料が手に入れば……。」
うどんなんてものがそもそもこの世界にはなくて、うどんに適した小麦粉も見つけられていない。
醤油とみりんも未だにもどきだし。
イリコや鰹節にもっと近い魚も探してみたい。
もっと讃岐うどんに合った材料で作ったら、前世で食べたみたいなすごく美味しい讃岐うどんができるのに。
「ソフィアー!讃岐うどんできたから運んで。」
「あ、はーい!」
熱々の讃岐うどんを騎士団の皆さんのところへ運ぶ。
ダシが熱いし重いから何度かに分けて運んでいくと、皆さん美味しそうに食べてくれている。
「ソフィアさん、これって少し太めの麺だからフォークだと食べにくいんだけど本場ではどんな風に食べるの?」
若い騎士ジャンさんが尋ねてきたので、前世の記憶を頼りに説明する。
「本場では、棒を二本使って挟んで食べるんですよ。ちょっと待っててくださいね!」
厨房から少しだけの讃岐うどんと、とりあえず良さそうな棒を二本取ってきて、騎士団の方々のテーブルで実演してみる。
箸なんてこの世界で使ったことはなかったけど、あの前世の記憶が戻ってからは時々私が知らないことでも出来たり知っていたりするので、なんとなくできる自信があった。
「こうやって『箸』という棒を使うんです。」
前世のおばあちゃんのように綺麗に持てた箸を使って、うどんを食べた。
「「おおーーー!!」」
気づくと店内のお客さんが騎士団のテーブルの周りに集まって視線は箸でうどんを食べる私に集中している。
……なんだか恥ずかしいんだけど。
「ソフィアちゃん!すごいな!そんなとこまでこだわって練習してんのか!」
「そうやって食べたら食べやすいんだな。」
「その箸ってやつ、試してみようかなー。」
お客さんたちも是非箸を使って食べたいと言うので、箸の持ち方をその場で皆に教えることとなった。
そんなにたくさん箸に使える棒がなくて困っていたら……常連客の一人が近所の店で、お肉を刺して焼くためのたくさんの木の棒を買ってきてくれて、皆で箸の持ち方を練習した。
「皆さんなかなか上手ですよ。練習したらきっと美味しいうどんを食べられます。」
箸を握れても、それでうどんを掴んで口に運ぶのはなかなか困難なようだったけど、皆楽しそうだしとても良かった。
「ソフィア、私は剣よりもこの箸という物を使う方が余程難しいと思う。しばらく練習が必要なようだ。」
「ふふっ……完璧人間のアントン騎士団長さんも、そんなことあるんですね!」
「当たり前だ。私は完璧な人間ではないよ。」
「そうですか?よく騎士団の皆さんがそう話されてますから。」
「なんだそれは。」
鋭い眼光を周りの騎士の皆さんに向けたアントン騎士団長さん、すぐにフッと表情を緩めて青い目を細めた。
そして笑顔になって、「また練習しておく。」と言ってくれた。
それから、フォンドールでは讃岐うどんを出す時にフォークと箸を揃えて出すことになった。
はじめはなかなか上手く食べられなかった常連客たちも、通っている間に上手く食べられるようになって喜ばれた。