5. 慣れないモテ期のせいで
店の中へ入ろうと足を進めたところで隣の肉屋の扉が開いた。
「ソフィア!」
「トーマス……。おはよ。」
「おはよう。……じゃなくて、さっき騎士団長と歩いてたけどどうかしたのか?」
意外と普通に話しかけてくるこの幼馴染に私も安心した。
「食器の買い出しに行ってて、荷物が重かったから休んでたらたまたま通りかかった騎士団長さんが荷物を持ってくれたの。」
「そっか……。」
短髪の黒髪をガシガシ掻きながらトーマスは何か考えている素振りをしている。
「ソフィア、こないだ俺が言ったことは焦って答えを出さなくていいからゆっくりと考えて返事をしてくれ。」
「え?」
「だから!焦ってもどうせ良い答えなんか出ないし、お前が俺のことを意識し始めてからが勝負だと思ってるからさ。とにかく!お前は今まで通りでいろよ。」
まあ気まずくならないのは嬉しいし、正直今までただの幼馴染としか思ってなかったトーマスが、ちょっと違った見えなくもないけど、とりあえず焦らなくていいと言われたから自然にまかせよう。
「分かった。ありがとう。」
「おう!じゃ、その荷物重いだろうから早く店入れよな。」
「うん。じゃまたね。」
トーマスと別れて店に入ると、両親が仕込みをしていて。
買ってきた青い模様のお皿を見せたら「良い!」とお墨付きをもらったのでひとまず安心した。
「なんか今日は朝から色々あって疲れたかも……。頭が回んないよ。」
ボソッと呟いて、両親の仕込みの手伝いをする。
フォンドールの骨付鳥は人気メニューだから毎日仕込みの量が半端ない。
隣の肉屋から仕入れた新鮮な鳥モモ肉に小さな穴をたくさん開けておろしニンニクと特製スパイスで下味をつけてからよく揉み込んで冷蔵庫で一日寝かす必要がある。
特に胡椒を多めにするのがうちの店では定番で。
他にもパイ料理の仕込み、揚げる食材に下味をつけたり、ローストビーフを仕込んだり。
色々な料理を出している酒場だから仕込みも多くあって、両親は店の開いてない時間も忙しそうにしていることが多い。
だから手伝うのが当然で、そんな私が二十歳になって未だ嫁に行かないことを心配する両親は、本当に私が結婚してこの店から居なくなったら大変だと思うんだけど。
この国では早い人は十八歳から結婚していて、二十歳でも行き遅れと言われるのは心外だけど……今まで一度も恋人がいない娘を心配しているんだろう。
「それでも、今の私は意図せず絶賛モテ期なんだよね。何で急に?」
両親はまだ忙しく下ごしらえをしていて、私の独り言は聞こえていなかった。
「さぁ!夕方の開店までにたくさん下ごしらえしとかないとね!」
それからも下ごしらえと開店準備などであっという間に時間が経っていった。
その頃になって身体の怠さと頭痛がしてきた私は、どうやら熱を出してしまったようで……。
「きっと有り得ないようなモテ期がきたからだ……。」
今日は店を休んで部屋で横になることにした。