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25. お世話になった方たちに


――決行日はもうすぐ。


 私はそれまでに、自分のうどん屋をすでに充分任せられるほどになった従業員たちに長い旅に出ることと、希望があればこのうどん屋を任せることを伝えた。


 そうしたら、サラさんとロッシュさんはいつの間にか付き合っていたようで、もうすぐ結婚を考えているという二人でこの『うどん屋』を継いでくれると言うのでとても嬉しかった。


 両親にも、ロルフ船長と旅に出てゆくゆくは二人でうどん屋をしたいと伝えたら、『行き遅れるばかりで心配していたから良かった!』と反対も何もなく送り出されることになった。


 両親は店が讃岐うどんで繁盛したお陰で、随分感謝してくれていたから余計にだとは思うけど。



 フィリップさんには小麦粉と大豆をこれからも譲ってもらうために直接お願いと挨拶に行った。


「誰か『決めた人』ができたんだね。ソフィアのことを幸せにしてくれる人が。」

「はい。その人とうどん屋をすることになりました。でも、やっぱり私の讃岐うどんにはこのゴルダン領の小麦粉と大豆が欠かせないので。これからも取引をお願いできませんか?」


 私は願いを込めて頭を下げ、お願いをした。


「このゴルダン領の人たちも、自分たちの小麦粉と大豆を使った醤油の讃岐うどんが大好きだからね。喜んで取引を継続させてもらうよ。また、落ち着いたら近況を教えてくれないか。とりあえずの分は十分に渡しておくことにするから。」

「ありがとうございます!」

「……ソフィア、その相手とは愛し合う幸せな結婚ができそうなのかな?」

「はい。必ず。」


 そう答えるとフィリップさんはアンバーの瞳を細めて優しく微笑んだ。



トーマスには、漁師のロルフ船長と旅に出て他国でうどん屋をすることになったと伝えた。

 

「トーマス、小さな頃からずっと仲良くしてくれてありがとう。またいつかおじさんやおばさんにも会いに来るから、これからもお父さんとお母さんのお店に美味しいお肉を宜しくね。」

「ソフィア、本当に幸せなんだな?あの漁師のおっさん、お前のこと大事にしてくれるのか?」


 トーマスはいつもなんだかんだ言って私のことを心配してくれていた。

 ぶっきらぼうだけど優しい幼馴染。


「うん、大丈夫!それに、私もあの人のこと幸せにすることに決めたから。」

「そっか……。」


 私が心からの言葉を乗せて微笑んだら、トーマスも心配そうにしていた表情を緩ませて微笑み返してくれた。


「ソフィア、幸せにな。」

「ありがとう。トーマス、あなたも幸せに。」



 アントン騎士団長さんには、まだ告白の返事もしていない……というか最近は海軍と騎士団で協力して『名もなき義賊』を捕らえる為に動いていると噂になっていて、ロルフ船長の正体を知ってしまった私は何となく騎士団の方々に会うのが後ろめたくなってしまった。


 あれから『名もなき義賊』はなりを顰め、ロルフ船長は漁師の仕事だけに専念しているみたい。


 騎士団も、騎士団や海軍を率いる国ですらも貴族の味方で、その貴族がいくら犯罪を犯していたとしても、その貴族を襲った海賊(義賊)のほうがいくら孤児や路上生活者に支援をしていたとしても悪者になってしまう。


 そのかわり貴族たちの横暴に疲れた大衆からは、根強い支持を受けているんだ。


 今まで一般的な生まれの私の生活にあまり縁がなくて考えたこともなかったけれど、そんな差別的なところがこの国には当たり前のようにあるということを思い知った。







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