16. 抱き締められていい匂いがした
――パンパンッ……!
今日は街のお祭りの日。
朝から花火が上がってお祭りの始まりを知らせている。
「ソフィアー。準備できたかー?」
「トーマス、今行くー!」
今日はお祭りだから、いつもよりちょっとだけおしゃれして、髪型も焦茶の地味な色に髪飾りをつけて少しでも派手に見せた。
「おまたせ!ごめんね。」
「…………。」
トーマスもいつもよりちょっとおしゃれをしていて、「かっこいいじゃん」って言おうとしたのに、無言で固まっているから顔の前で手を振ってみた。
「大丈夫?見惚れちゃったとか?」
「おう、今日なんかソフィアの雰囲気が違うから。」
冗談で言ったのに、トーマスが顔を赤くして答えるものだからこっちまでなんだか照れてしまった。
「もう、トーマスも今日はよそ行きでかっこいいね!行こう!」
「…………。」
トーマスの手を引っ張って通りに出ると、皆いつもよりおしゃれしていて、そこら中でお花が飾ってあったり、出店があったりとワイワイとした雰囲気が感じられる。
「なんか食べる?出店行ってみたいね。」
「お前、食いもんしか興味ないのか?」
「失礼ね!いいじゃない。あっ!あのフワフワのお菓子何だろう?行ってみよう!」
知り合いに会うのが気恥ずかしくて、手はなんとなく離してしまったけど、美味しそうな出店を見つけて次々と寄っていった。
「お前、食い過ぎだろ。」
「そんなことないよー。トーマスにもあげたじゃない。」
「気をつけないと、腹壊すぞ。」
「心配してるのか馬鹿にしてるのか分かんないね。」
トーマスがデリカシーないことばっかり言うから、いじけたフリをしてプイッとよそを向いた。
「怒ったのか?悪かったって。おい、ソフィア。」
「……。」
「ソフィア、おい。怒んなよ。」
「あのジュース買ってくれるなら許す。」
少し離れた場所に売っているピンク色のジュースの出店を指差してトーマスにお願いする。
人気なのか凄い行列ができていて、しばらくかかりそうだけどトーマスは素直に買いに行ってくれた。
「結構大人になったとこもあるんだ……。」
トーマスの意外な一面を目にして、少しだけ幼馴染の成長に気恥ずかしい気持ちになった。
「なんでトーマスは私のこと好きなんだろ?」
「それはお前が可愛いからだろが。」
「えっ!!」
振り向くとロルフ船長がいて、私の頭をクシャクシャと撫でてくる。
「ロルフ船長、髪型が崩れます!」
「このくらい大丈夫だって。気になるなら俺が直してやろうか?」
「いや、いいです……。それより、船長もお祭りに来てたんですね。」
「そりゃあここらじゃ一番デカイ祭りだしな。ソフィアも来るかなーって思ってたらそこに居たから。」
グリーンの瞳に私が映っていて、ジッと見つめながら笑うから何だか顔が熱くなった。
「からかわないでください!」
「ソフィア、俺はからかってなんかないぞ。お前に会いたいって思ったのは本当だ。」
「何ですか、それ。」
大人の男性の野生的な雰囲気にドキドキしてしまって、大したことも返せないでいた。
「あの幼馴染も、騎士団長も、フィリップとかいう奴もお前のこと気に入ってるみたいだからな。ウカウカしてたら奪われそうだ。俺がお前のこと好きだってことも知っておいてくれよ。」
「……へ?」
そう言って急に抱き締めてくるから自分の胸のドキドキとロルフ船長の心臓の音がわけ分からなくなって、船長からする爽やかな大人の香水の匂いが「いい匂いだなあ」と場違いなことを考えてしまった。
「へ?じゃねぇよ。ま、祭り楽しんで来いよ。そろそろあの幼馴染くんが帰ってくるからな。」
またな、と言って離れたロルフ船長はさっさと人混みに紛れていった。
「なんなの……。こんなモテ期……あり?」




