13. 醤油の作り方
今日は店が定休日なので、朝から市場でうどんに合う小麦粉と、醤油作りに使う大豆を探しにきていた。
やっぱり醤油もどきでは気になって、本格的な醤油を作りたくなってしまったんだよね。
「すみません。小麦粉の種類で、蛋白の含まれている量が中間くらいのやつが欲しいんですけど……。あと、大豆っていう豆ありますか?」
大きめの問屋さんで聞いたら分かるかなと思ったんだけど、大豆というものは見つからなかった。
「小麦粉は、パンを作るやつとお菓子を作るやつの中間くらいのやつって言ったら分けてくれたけど……。」
大豆がないと困るなあ……。
「そういや、お姉ちゃんが買った小麦を作ってる畑で豆も作ってるって言ってたから聞いてみたらどうだ?」
小麦畑で豆?
「そうなんですか。それでは一度見てきてみます。ありがとうございます。」
どうせ市場で大豆を見つけられなかったから、農家さんに聞くしかないと思ってたので、ちょうどいいかも知れない。
この小麦粉の小麦が取れるのは街から馬車で一時間くらいのところで、穀物栽培が主産業の領地だそうだ。
「今から馬車で行きますか。」
一時間馬車で揺られると、青々とした畑が広がる領地に入った。
問屋のおじさんが教えてくれた小麦畑は見つかったけど、そこには薄黄色というか枯れたような作物がたくさん生えていて、小麦は見当たらない。
でも、よく見ると枯れた作物には鞘のようなものが付いている。
「すみませーん!ここの小麦畑の方ですか?教えていただきたいことがあるんです。」
少し離れたところで麦わら帽子を被った、簡素な白シャツとズボンを履いた男性が見えたので声をかけた。
遠くの方には何人かの道具を持った農夫らしき姿も見えるからこの方もこの畑の農夫だろう。
「どうしました?」
男性が近づいてきて、思ったよりも若い方だったことに失礼ながら驚いた。
黒髪で麦わら帽子のおかげか日焼けはあまりしていないけど精悍な顔つきの方だった。
「えっと、アラゴンの街の市場でとある豆を探していて、ここの小麦粉を買ったらここの小麦畑でも豆を作っていると聞いて探しにきました。どんな豆か見せてもらってもいいですか?」
「ああ、ここにあるのはこういう豆ですよ。」
男性は近くの作物から鞘を取って中を開いた。
「これ、まるっきり大豆……。」
「ダイズ?これはゾヤという豆です。」
「ゾヤ?そうなんですね。だからダイズでは探せなかったんだ。」
精悍な顔つきの男性は不思議そうに私を見てたけど、不意に尋ねてきた。
「お嬢さんは何をするためにゾヤを探しているのですか?」
お嬢さん……。
「あの、ゾヤを使って新しい調味料を作りたくて。異国の調味料なんですが、どうしても必要なんです。」
「調味料……。それはどうやって作るんですか?」
「ゾヤと小麦粉、麦酒の酵母で『醤油』の素を作って、それと塩水を合わせて発酵させます。それでできたものを搾ってから火を入れるんです。」
とても興味深そうに聞いてくれるので、つい詳しく教えてしまった。
「それは面白い調味料ですね。出来上がったら私も欲しいです。」
「はい、わかりました。その代わりこのゾヤを売っていただけませんか?」
「そうですね……。まあいいでしょう。どうぞ好きなだけお持ち帰りください。」
「ありがとうございました!」
ゾヤを鞘から出して実だけを袋に詰めた。
「私の名前はフィリップといいます。お嬢さんは?」
「私はソフィアです。アラゴンの街でフォンドールという酒場を両親と営んでいます。またこれからもお世話になると思いますのでよろしくお願いします。」
黒髪でアンバー色の目をしたフィリップさんは笑顔で答えてくれた。
ゾヤも手に入り、またきた道をゾヤがいっぱい入った袋と一緒に帰った。




