chapter1 妬心
大雨の中、私は傘もささずに人ごみの中を歩いていた。 油断した。 一瞬でもあいつに心を許してしまった自分を殴りたい。 今でも彼の嬉しそうに頬を少し赤く染めながら話すあの顔が忘れられない。 私は唇を強く噛んだ。 切れた傷口から血が流れる。 口の中が血の味で満たされてゆく。「どうしてあいつなんかに。」 悔し紛れに私の口から漏れでた言葉は雑踏の中に消えていった。 家に帰ると、母はずぶ濡れの私の姿を見るなり、慌ててフカフカのタオルを持ってきて、私の肩にそっとかけてくれた。そんな母の優しさを私は ──── 払い捨てた。 階段をかけ上がり、2階の自室に籠って、枕に顔を押し付けて、声をあげて泣いた。私の両面から、大粒の涙が止めどなく溢れた。 体中が燃やされたように熱を帯びる。私たちは小学生の時からずっと一緒にいた。 彼と私の2人だけの空間に割って入ってこれるものは何もない。 そう思っていた。 あの時までは。 高校生になっても私たちはいつも一緒にいた。周りは私たちをカップルだの夫婦だのと言ってはやしたてた。 翔のことが好きだった私は、まんざらでもなかったから、適当にあしらっていた。 もちろん、顔から火が出るのを一生懸命抑えながら。 私は、その時は自分のことで精一杯になっていたから、彼がどうあしらっていたのかは知らないけど、私たちの関係は変わらなかったから特に気にはしなかった。
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どうしてあんなに悲しそうな顔をしていたんだろう。 俺はただ菫を驚かせたかっただけなのに。 去り際に菫の目に浮かぶ涙を俺は見逃すことができなかった。 あの時、動揺して菫を止められなかった俺は、1人になった教室で壁に寄りかかり、窓の外をみた。 さっきまで俺たちを照らしていた夕日は跡形もなく消え去り、黒い雲が空を覆っていた。 菫に何度電話をかけてもただただ電源が入っていないだの、電波が届かないとしかいわないスマホを見つめ、小さなため息をこぼし、教室をあとにした。 そういえば菫と初めて出会ったのもこんな天気の日だった。 ふと昔の記憶が蘇る。雨がポツポツと降ってきて、俺の頬を撫でる。一度立ち止まって傘をさし、また歩みを進める。 俺は公園で友達と遊んでいた。何をしていたかまでは覚えてはいないが…そこでブランコに一人座っている女の子に目を奪われた。 その子はまるで捨てられて自分の居場所を探す猫の赤ちゃんのように見えた。放っておくことのできなかった俺は、気づけば手を差しのべていた。
小説初めて書いてみて、約2ヶ月経ちました。今回は自分の中では3作目なんですが、アドバイスとかほしいなぁとか思ってみたり。今回の作品は少し長いので、自分のなかでの整理、という意味も少し込めて書いてみました。まだまだ至らない点たくさんあると思うので、ご指摘などお待ちしております!