閑話_1
気がつくと、暗い世界だった。
空には何も浮かんでいない。太陽も、月も、星も。何もない暗闇が広がっていた。ただ足元に光もないのにぼんやりと浮かび上がる道だけがあった。
仕方がないので道なりに進んでいくと、声をかけられた。
「よっ」
その顔を見て、ようやく認められた。自分は死んだのだと。
「早く成仏したらどうだラワ」
自分の一つ前に、ヒーローリノヤに倒された花の怪人は笑った。
「そんな扱いしなくたっていいじゃないフィス」
「あんたも災難だったわよね。せっかく良いところまでいったのに。土壇場であんな能力ゲットされたらたまったもんじゃないわ」
「負けは負けだし、突然能力を得るのはお前の件で分かっていた。今回はおれの想定ミスだ」
「あんた本当真面目ねえ。あんたみたいな同期がいるから私まで真面目ちゃん扱いされて困っちゃうのよ。仕事サボりたいのにさ」
「仕事はサボるな」
「仕事はいかにしてサボるかが重要だと思うんだけどなあ」
二人は道を歩いていく。ラワ曰く、この先「入口」があるそうなのだが、その入り口とやらは全くもって見えてこない。
「それであんたさ、ちゃんと告白したの」
「こ、告白ってなんだよ」
突如つっこまれて、焦る。まさかばれているわけがない。と思ったのだが
「だってあんたシキセ様のこと好きでしょ」
ばれていた。
「相手は三幹部のお方だぞ。おれ何かが告白して良いわけが……」
「何よそれ。男は女の上じゃないとダメだって奴?そんなことないわよ。ていうかそういう考えの方が嫌よ。いいじゃない女性が上だって」
「そんなこといってない。ただ身分不相応だってだけだ。それに同じ三幹部であられるスルマ様もシキセ様のことを思っておられるんだぞ。そっちの方が対等で良いだろうが」
「んああ、兄貴のこと?兄貴のことなんて気にしなくたって良いのよ。あの筋肉バカなんて」
「き、筋肉バカ」
あまりにも酷い良いようだ。兄妹なのに。仮にも上司なのに。
「世の中言ったもん勝ちなんだからガンガンいっちゃった方がよかったのよ全く」
「でも勝ち目が薄いのは事実だとう。シキセ様はかなり年下な方が好みっぽいし」
「学生くらいね。確かにシキセ様からはシャト様の方に目線いってるもんね。まあ今回のリノヤとかいう奴にも向かっているっぽいけど」
リノヤ、の名を聞いて体がこわばるのを感じる。ラワもどんな感情を抱いているのだろうか。仮にも自分たちをここへ送った相手だ。
「シャト様の好みはどうなのかしらねえ。何か聞いている感じだとそのリノヤに期待しているっぽい感じかしらねえ」
……。少なくとも自分ほど気にしてはいないようだ。
「さて、ついたわよ」
そうこうしているうちに二人は「そこ」へ辿り着いた。
「お前はどうするんだラワ」
「私はもうちょいここにいることにするわ。もしまたあなたみたいに誰か来たら案内したげた方がいいでしょ。誰も来ないのが一番なんだけれど」
「そうか」
「何か伝えたいことない?良かったら……悪かったらな気もするけど、伝言するわよ」
「いや、いいよ。もしそういうことになったとしたら、自分で伝えた方が良いだろ」
「了解」
何か気の利いたことをいいたかったが、何も思いつかなかった。
「それじゃあな、ラワ」
「じゃあねフィス」
挨拶を最後に、フィスはラワに背を向けた。