第1話_ラワ
「めんどくさい仕事押し付けてきて。本当兄って困った人種よね。あなたもそう思わない?」
人々からヒーローと呼ばれる怪魔と戦う存在、リノヤは、今日も一人の怪魔と対峙していた。
その怪魔は遠くから見るとふつうの女性に見えるものの、よくみるとその髪が植物のつるであることや、足がなくクラゲのように何本ものつるが生えていることが人間でないことを示していた。
「黙れ!お前のような怪人、このリノヤが成敗してやる!」
怪魔の問いかけには答えず、リノヤは指をつきつける。
「ちょっとぐらい答えてくれてもいいじゃない。一般人の方には手を出していないし、せっかく私の名前はラワだって自己紹介しようと思ったのに」
リノヤの態度に怪魔はほおをふくらませてみせる。だがリノヤはそれで情に流されて利せずに宣告する。
「黙れ!お前のようなものと誰がおしゃべりなどするものか!お前たち怪魔はすべて倒す!!」
リノヤの叫びに怪魔、ラワはやれやれといったポーズをとる。
「これじゃあとてもお友達になろうなんて言葉聞いて話くれないわね。上の方々には悪いけれど、ここで倒すことにさせてもらうわ」
怪魔、ラワはそういうとリノヤへ向かって数本のつるを伸ばしてきた。リノヤはそれを回避し、すばやく距離をとる。
「どうした。遅いぞ」
「そう焦らなくてもいいで、しょ!」
ラワは答えながらさらに触手を伸ばしてくる。素早くかわしていくリノヤであったが、それに必死で中々ラワに近づけずに行った。
やっぱりこの少年、接近戦オンリーみたいね。飛び道具を使ってこないわ。
攻撃しながらラワは思考を巡らせていた。先ほど言った、「お友達になろう」の話は嘘ではない。事実、彼女の上司である存在から仲間に引き込めるのならば引き込めと言われていた。
何しろ応対せねばならないのは今目の前にいる少年、リノヤだけではない。他にもヒーローを名乗る存在は何人もいて、撃退もしているが、自分たちの方もどんどんとやられているのが現状だ。少しでも相手側の戦力は減らしたいし、こちら側は増やしたい。その為ならは敵であった存在と手を結ぶこともいとわないといのが本音であった。
その為、出来ることならばこの少年を倒してしまうのではなく、生きた状態で連れて帰りたかった。今の状態で仲間に引き込むのは無理でも、連れ帰り、拷問や洗脳といった方法でこちら側につけてしまうというのもアリだからだ。ラワはつるを伸ばし、相手を拘束することが出来る。その為ヒーローたちを勧誘するのには適切と送り出されたのだった。
何とか拘束、させていただくわよ、と攻撃をかわすリノヤを見ながら、ラワは内心ほくそ笑んだ。
「どうした、お前の攻撃は全然当たっていないぞ」
状況を打開したい気もあり、リノヤは敵を挑発する。だがラワは乗ってこず、それどころか笑って見せた。
「それはそっちも同じでしょ。それにここまでたんに追いかけっこしていたわけではないわよ。よく見てごらんなさいよ」
何、と相手をよく見て気づく。足の代わりに伸びている触手の何本かが、地面につきささっていることに。
しまった、と気づいたときには遅かった。地面から触手が伸び、リノヤの全身を拘束する。
「く、くそ」
手足と胴体に触手はしっかりと巻き付き、ギリギリと締め上げる。
「う、ぐ、あああああああ!」
ギシギシと締め上げる敵の攻撃に、リノヤは苦悶の声をあげる。
「さあ、素直に仲間になるって言ってくれたら解放してあげるけれど」
「だ、だれがお前たちの仲間なんかに…」
「そう。残念だわ」
その言葉とともに、さらに強いしめつけがリノヤを襲った。
「うああああああああああ!」
必死で抜け出そうと手足を動かすものの、触手の前には全く意味をなさない。触手はさらにリノヤの首にもまきつき、締め上げる。
「は、が、あ、あ、あ、あ」
呼吸を封じられてリノヤは喘ぐ。だが敵の攻撃はそこで終わらなかった。
リノヤにまきついていた触手から根がのび、リノヤに張り始めたのだ。
「あなたのエネルギー、ちょっといただくわよ」
「くそ、う、あ、ああああああ……」
体から力が抜けていくのをリノヤは感じる。ラワの言う通り、根がリノヤの生命エネルギーを吸収しているのだ。
「く、そ……」
リノヤの体から生命エネルギーは確実に奪われていく。手から足からどんどんと力が抜けていくのが分かる。
「く、あああああああああああ」
「安心して。私はいたぶる趣味はないから。なるべくすぐに終わらせてあげるわ」
さて、そろそろ終わりかしら。
ぐったりとだらしない恰好となったリノヤの姿を見ながら、終了したとラワは判断する。
飛び道具でも持っていればもうちょっと何とかできたのにね。他のヒーローの中には使うことの出来る奴らもいたけど、あなたは不幸だったみたいね。
倒してしまったとしても、その遺体を回収し研究すれば次へと繋がる。遺体回収の為リノヤに近づこうとしたその時だった。
リノヤの口が、動いた。
まだ生きている!すぐに距離をとり締め付けを再度きつくしようとした。
だがそれはかなわなかった。彼にまきつけていたはずのつるが、燃えていたのだ。
先ほどまで何も出来ていなかった少年、リノヤの拳は炎をまとっていた。
状況を理解できずに戸惑うラワにリノヤは素早く近づき、右ストレートを放つ。
ラワの全身が燃え始めた。
絶叫をあげ、燃えていくラワ。
やがて絶叫が途絶えた時、そこには怪魔であったものの燃えカスだけが残っていた。
敵を倒したことを確認すると、リノヤは背を向け、どこかへと消えていった。