プロローグ
怪魔。突如現れた怪物たちのことを、人々はそう呼んだ。多くは人型をした、これまで発見された生物のどこにも属さないそれは、次々と人々を襲った。捕食するわけでも、寄生するわけでも、生殖に利用するわけでもない。理由を言わずに襲うその怪物たちに人々は逃げ惑った。
やがて一つの事実が浮かび上がってきた。怪魔には、言葉が通用するのではないか。それが分かると人々は、残された数少ない望みにすがって、怪魔たちに呼びかけた。どうか、自分たちを襲うことをやめてほしい。できることならば何でもするから。
しかし、多くの怪魔たちはその呼びかけに応じなかった。そんな中ある時一体の怪魔が呼びかけに反応した。人々はわずかな希望を抱いたが、それは返答によって打ち砕かれた。
「それは出来ない。我々の目的は、あくまで人間たちの苦痛にある。苦痛を与えることが目的なのだ。だからこそ、お前たちのことを襲い続ける」
人々が絶望に包まれたその時、ヒーローは現れた。
「ヒャッハーーーー!やってやるぜええええ!オラオラよおおおお!」
町で、今日も怪魔は暴れる。姿形こそ人間に酷似しているものの、白目と黒目の区別のない真っ黒で巨大なその目や大きく避けた口はそれが人とはかけはなれた存在であることを示していた。
「オラオラやるぜ!やるぜ!やってやるぜ!何しろ今日のおれの目的はよう、お前らじゃなくてアイツなんだからなあ」
怪魔の暴虐により、次々と町は壊されていく。町の住人達が逃げ惑う中、高らかにその声は響いた。
「そこまでだ!」
声の主は一人の少年だった。白く、ところどころに青のラインが入ったゴムスーツをまとう10代後半の少年。その姿は、ヒーローと呼ぶのがふさわしい姿だった。
人々が絶望に包まれたその時、各地で「ヒーロー」が表れ始めた。彼らの姿に一貫性はなかったが、いずれも人間であり、そして怪魔を倒し、人々を助けてくれることは確かであった。
自衛隊や警察では太刀打ちできない怪魔達を倒してくれる「ヒーロー」達に、人々は最後の希望を託した。
「このオレ、リノヤが来たからには、もうお前らの好きにはさせない!」
少年、リノヤは高らかに宣言する。
「よし来た、ここんぞ好き勝手してくれているヒーローどもはこのセマカ様が倒してくれるぜ!ヒャッハー!」
ヒーローの出現に怪魔、セマカはひるむどころか狂喜し飛び掛かり、そしてリノヤの顔面に右ストレートをはなった!
ドガアアアアア!
激しい音を立てて、リノヤの肉体はビルへと吹き飛ばされる。大きく壁にめり込んだ少年にセマカはとびかかり追撃しようとする!
「まだまだ行かせてもらうぜ!ヒャッハアアアアァァブア!?」
だが吹き飛ばされたのはセマカの方であった。
「その程度か?」
リノヤは立ち上がり言い放つ。その姿には傷一つついていない。
「やるじゃねえか。こいつはテンションあがってきたぜ。それじゃ第二撃いくぜ。ヒャッハアアァァホワラバァ!?」
宣言通り第二撃を放とうとした怪魔、セマカであったが言い終わる前にリノヤの攻撃により遠く吹き飛ばされてしまった。
「今回のはかなり弱かったな」
仕事を終えたヒーローのつぶやきを聞かずにすんだのは、幸運だったのかもしれないが。
かくして今日もヒーローにより怪魔は退けられた。人々は希望を抱く。このままヒーローたちが、怪魔たちを撃退し、壊滅してくれるのではないかと。
そんな人々の期待を知ってか知らずか、ヒーロー、リノヤはひっそりと姿を消した。
だが、「ヒーロー」の出現に怪魔たちがいつまでも無関心という訳ではなかった。
「今回差し向けた怪人ですが、みごとなまでにやられたようです」
「いいわね。好みだわあこの子」
「僕も同感だよ。ねえ、ボス。直接手を出したいけどいい?」
怪魔たちの本拠地である場所で、人知れずその会話は行われていた。怪魔たちの幹部とされる3人と、全てをとりしきる存在との間で。
「まだお前たちが動くのは早い。だが厄介なのは確かだ。すぐに次のものを差し向けろ」
少しの沈黙を挟んで、ボスと呼ばれた者は続けた。
「だが、出来ることなら部下にしたいものだな」
これは怪人と戦うリノヤという少年の物語。