表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

鶴の仇返し

作者: ぬほん昔話
掲載日:2020/08/08





 むかしむかし、あるところに田助(たすけ)という正直者の若い男が住んでおりましたそうな。


 ある日のこと、田助が畑の農作業を終えての帰り道。

 沼のあたりで鶴の泣き叫ぶ声が聞こえました。

 いってみると一羽の鶴が、猟師のワナにかかって苦しんでいます。

 さっそく田助は鶴を助けてやりました。

 鶴は喜びを羽いっぱいにあらわして、飛び去って行きました。




 それから数日後。

 日も沈みかけた頃、田助が家にいると、トントン、トントンと、誰かが訪ねてくるではないですか。

 田助が不審に思いながらも戸を開けてみると、なんと目の前にそれはそれは美しい女が立っていたのです。

 どこかのお姫様といわれても信じそうな美貌に、薄手の白い着物を前に突き出す双丘。

 正直者の田助の目は女の胸に釘付けになり、ゴクリと生唾を飲み込みました。


 田助が何用かと尋ねると、女は旅の途中で道に迷ったというのです。

 すっかり魅了された田助は何度も頷きながら、家へと招き入れました。


 田助は更に部屋を暑くしようと薪をくべ、汗をかくように大量のお茶を出しました。


 女は胸元を少しはだけさせ、両手をついて礼を言います。



「本当にありがとうございました」



 田助の目はこれ以上ないほどに見開き凝視しました。


 それから話を聞くと、その女は泊まるところがないと言うのです。

 田助は少し前のめりになりながら、優しく微笑みかけました。



「それじゃ、今日はここに泊まり――」



 その時です。

 乱暴に戸が引かれると、とても大柄な女が玄関に足を踏み入れます。



「あんた、帰ったよ。飯は出来てるかい?」



 それは田助の頭からすっかり存在が消えていた妻でした。

 ついさっきまで高揚していた田助は、血の気が引いていくのを感じます。


 田助を見ていた妻の視線が女にうつると、眉間にシワがより、なんともいえない圧迫感が部屋を覆いました。



「あんた……誰だい?」


「私は――」


「アンタに聞いてるんじゃないよ! おい、田助ぇー!」



 妻の叫びに田助の体は数センチ浮かんでしまいます。

 首を激しく横に振り、手をバタつかせる田助は少々ちびりながら必死に言い訳をします。



「ちがっ、ちが、違うんだよ。こ、こ、こ、こ、この人は道に迷って」


「じゃあ、なんで胸元が乱れてるんだよー!」



 妻が拳を振りかぶり、田助が目を閉じた時です。

 女は田助の前に出ると、手のひらで拳を受け止めました。



「ほほぉ、あんた……やるねぇ」


「なにやら思い違いがあるようですね。少し奥で話をしませんか?」



 口角を上げた妻が奥の部屋に入ると、女も後に続きます。

 そして部屋の入り口で振り返ると、ニッコリと笑いました。



「決して中は覗かないでくださいね」



 そう言って襖が閉められました。


 田助が声を出せずにいると、隣の部屋からは激しくぶつかり合う音が聞こえてきます。

 壺の割れる音に、床の軋む音。

 家が揺れる振動がしばらく続くと、断末魔の叫びを最後に音が消えました。


 田助は震える手で襖に手をかけ、そっと中を覗き込みました。



「うわっ!」



 田助は思わず声を上げ、その場にへたり込みました。

 血塗られた部屋で、返り血を浴びた真っ赤な鶴が一本足で立っていたのです。

 鶴は襖の隙間からこちらを見ると、



「開けてはならぬと言いましたのに」



 そう小さく呟きました。



「私は田助様に助けられた鶴です。正体がバレたからにはここにいることは出来ません。どうぞお達者で」



 鶴は真紅の翼をはためかせながら、飛んでいってしまいました。


 助けた鶴に、妻を殺された田助。

 後日、田助は妻殺しの容疑でお縄につくと、「恩を仇で返された」と何度も叫んだそうな。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 紅鶴拳?紅鶴拳使った? [一言] 所詮鶴も畜生ってことか。
[良い点] 鶴~! 悪女やのう……!! 助けちゃったが運のつき、って感じですね! ブラックで面白かったです!
[一言] これは良いですねぇ! やはりツルの恩返しは改造しがいのある昔話だと思います。 (*´д`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ