プロローグ
六章スタートです。
クラマ・ハイテングウ。
『宵蛇』の初代隊長であり、イング王国、オセラシア自治区どちらでもその名を知らぬ人はインベントぐらいの有名人。
オセラシア自治区出身のクラマは、荒れていたオセラシア自治区を立て直した。
イング王国と対等な同盟関係を結んだ立役者はクラマである。
更に各地で大型モンスターを討伐。
奇妙な鼻の長い面。
赤い羽織。
そして一本歯の下駄。
異様な恰好をしながら各地で大型モンスターを殺しまくったクラマ。
『赤い流星』、『瞬猿』、『空人』などたくさんの二つ名がついた。
だが自然と一つの名前に収束していった。
それが『星天狗』である。
ちなみに『星天狗』はあえてクラマが流行らせた名前である。
自身を象徴にするためのセルフブランディングだ。
今は表立った行動はしていない。
『宵蛇』の隊長職も表面上は、ホムラ・ゲンジョウに継承した。
特別な事情でもない場合はモンスターも狩っていない。
天狗の面も羽織も倉庫に仕舞ってある。
それでもいまだに『クラマ・ハイテングウ』や『星天狗』が語り継がれているのは、それだけ功績が大きかったからである。
まさに生きる伝説だ。
さてさて――
(困ったのう……この坊主、どうしようか)
クラマは負傷したインベントを背負い、カイルーンに向かっていた。
途中、フラウがクラマの接近に気付いたので、ロメロが周囲の木々を豪快に切り倒しクラマに合図を送った。
森林破壊行為は褒められた行為ではなのだが、ロメロはそんなことは気にしない。
クラマはロメロたちに気付き、降下する。
アイナ隊の面々はクラマを見上げながら――
「こんな場所までジジイが来るのは珍しいな」
「そうっすね」
ロメロは勿論だが、フラウもクラマとは面識がある。
クラマは基本的に町に寄り付かない。有名人だからだ。
「く、クラマって、ほ、『星天狗』かよ!?」
アイナは伝説的な人物であるクラマがやってくることに、ソワソワしている。
だが、すぐにそんな浮かれた思いは吹き飛ぶことになる。
ゆっくりと降り立ったクラマ。
「ちょうどいいところにおった。ロメロ、フラウ」
アイナ隊の三人はすぐに、クラマに背負われているのがインベントだと気付いた。
意識が無く、非常事態であることもすぐに理解する。
いつもは飄々としたロメロだが、真面目な顔で一歩前に出た。
クラマとは自身が話すと表明したのだ。
「この子知っとるのか?」
「ああ、色々あって今一緒に仕事をしている。怪我か? 病気か?」
「止血はした。だが背面を刺されとる。重傷じゃ」
アイナの顔が引きつった。叫びたい欲求にかられたが叫んでも意味がないのでアイナは声帯を鎮めた。
「正直、生きてるのが不思議な状態じゃが【癒】を使ってやればどうにかなるかもしれん。
そこのお嬢ちゃんが【癒】持ちだったりは……」
「違うな」
「そうか。だったらお前が背負っていけロメロ」
「ハア~面倒だが仕方ないか」
ロメロはクラマからインベントを受け取ろうとする。
だが――
「いや、アンタが連れてけよ」
アイナは目を見開いて言い放つ。
クラマが鋭い眼光でアイナを見た。だが一ミリも動じない。
「アンタが連れていくのが一番速いだろ」
「いや……ワシ、町とか寄りたくないんじゃ」
「は? 知らねえよ。一刻を争うんだろ!」
「あ~……まあのう」
たじろぐクラマ、圧力をかけるアイナ。
伝説の男の威光はまるで無い。
「ここからまっすぐ行けば、カイルーンの病院がある。
緑の屋根だ。すぐにわかる。いいな、緑の屋根」
アイナはあえて命令口調でクラマに言う。
孫にどやされるおじいちゃんの如く。
「わ、わかったわい」
「だったら早く!」
クラマは「なんでワシが……」とぼやきつつ飛び立とうとする。
『緑の屋根、病院。
病院に着いたら、アイナ隊、緊急医療要請って言え』
アイナは念話でクラマにダメ押しする。
クラマは「おわ!? なんじゃ?」と驚く。
『緑の屋根、病院。
病院に着いたら、アイナ隊、緊急医療要請って言え』
アイナは追い打ちする。
「わ、わかった! わかったわかった!」
クラマは逃げるようにカイルーンに向け飛んでいった。
アイナたちも追いかけるようにカイルーンに急行した。
(女の子って怖いわい……。ワシ……『星天狗』なんじゃけどな~)
****
インベントを病院に預け、その後クラマはロメロと簡単に情報交換報告を行った。
そして翌日、クラマはアドリーと出会った場所に向かう。
アドリーは【樹】のルーンを使い、樹木を生やしたり、弄ったりしていた。
『軍隊鼠』の檻をつくったのはアドリーで間違いなかった。
ネズミの国は確かにそこにあったはずだった。
クラマも短時間であるが檻らしきものは見た。
だが――その場所には何も無かった。
ネズミの国は忽然と消え、インベントとの戦いの痕跡も全て消え去っていた。
「――たった一日でこれか」
アドリーが証拠隠滅したのは明らかだった。
クラマは下唇を噛んだ。
(やっぱり……インベントは放置してとっ捕まえるべきだったかのう)
クラマは一匹だけはぐれていた『軍隊鼠』を見つけ、思いっきり蹴っ飛ばした。
吹き飛んだ『軍隊鼠』は木にぶつかり絶命した。
「……ドレークの次はスナネズミか。忌々しいのう」
今、イング王国とオセラシア自治区の国境では異常事態が頻発している。
一つは大型や特殊能力持ちのモンスター発生頻度が上がっていること。
そしてもう一つは、イング王国側にはオセラシアのモンスターが、オセラシア側ではイング王国のモンスターが出現するようになったのだ。
インベントが活躍した紅蓮蜥蜴は、ドレークタイプ。
ドレークタイプは乾燥地帯であるオセラシアに生息するオオトカゲがベースとなっている。
ハムスターのような『軍隊鼠』も、主にオセラシアに生息するスナネズミがベースとなっている。
オセラシア側では発生数が少なかったモンキータイプモンスターが大量に発生している。
何か原因があるはずだった。
だがどれだけ探しても原因らしい原因は見つからなかった。
まるでクラマを嘲笑うかのように。
そしてやっとのことで見つけた犯人らしき人物、それがアドリーだったのだ。
なのに逃がしてしまい、証拠も何も残っていない。
「ハア~。戻ってあの坊主に話でも聞いてみるか」
クラマとインベント。
共通点は空を飛べること。
伝説との出会いがインベントに大きな影響を与える。
第六章 空飛ぶ天狗のインベント改造計画