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アドリー・ルルーリア⑤

 アドリーはどうにか鎮火を終えた。

 心なしか老けたように見える。実年齢が38歳なのでどれだけ老けようが年齢不相応なのだけれども。


「……私は茂み創るのやめるからさ、お前も炎はやめてくれ。

 山火事になる」


「う、うん。わかった」


 殺し合い中の二人だが、奇妙なことにルールが定められた。



****


 さて……そこから戦いは長引いた。


 アドリーは【ベオーク】のルーンをフル活用して戦う。


 直接木に触れなくても、地面に手を当てることで地中を這う木の根を操作することが可能なアドリー。

 【束縛ニイド】の触手に比べれば柔軟性が低いが、【束縛ニイド】に比べ【ベオーク】は燃費が良い。

 長期戦向きなのだ。


 根を槍のようにすれば強力な攻撃になるし、根を成長させ広範囲に枝分かれさせれば侵入を防ぐ結界になる。

 アドリーはインベントの縮地を警戒し、簡単には間合いに入らせない。

 アドリーが操る【ベオーク】のルーンは、攻防バランスが非常に良い。

 特に防御力の高さにインベントは手を焼いた。



 それに対しインベントは、疾風迅雷の術を使いスピードで翻弄する。

 虚を突いたアドリーの攻撃であっても、疾風迅雷の術であればギリギリ回避できる。

 収納空間の利用に特化したインベントの速度と敏捷性は尋常ではない。


 目に見える攻撃はほとんど回避できる。

 よってかすり傷は負っても致命傷は受けない。



 お互い手の内を見せていくのだが、お互い決定打がない。

 そして長期戦になって不利なのはインベントだ。


(痛ててて)


 スピードで翻弄し活路を見出そうとしていたインベントは、疾風迅雷の術を酷使していた。

 結果、腕に疲労が溜まっていく。特に肩の付け根に疲労が溜まっていた。


「ふう……」


 スピードでは完全にインベントが勝っているが、攻めきれない。

 かなり無理をして死角を突くことができたとしても、アドリーには最終手段がある。

 それはランドセルから枝を生やし針鼠のようになるのだ。

 針鼠状態のアドリーは前方以外の広範囲を枝がカバーし、うかつに接近を許さない。



 だが長時間の戦闘で、疲労と引き換えにインベントはアドリーの行動パターンかなり分析できていた。


(このモンスターは攻撃も防御も優秀だけど……どっちかといえば防御寄りだ。

 あの背中の枝が――針鼠スタイルがとにかく厄介。俺も防御力を上げて突撃できればなあ……。

 こんなことならフルアーマー持ってきたらよかったかな。

 でもあれ収納空間に入らないんだよね)


 ロメロチャレンジを初めてクリアした際に利用した、フルプレートメイル。

 インベントはフルアーマーXXダブルエックススタイルと命名しているが、持参していない。

 パーツごとに収納空間に入れることは可能なのだが、ゲートは直径30センチでありすべてを収納できないのだ。

 何よりフルプレートメイルは一人で装着するのは非常に難しい。


(だけど、多分これで勝てる)


 インベントは収納空間に入っている最大重量の武器に手を振れた。

 10キロ近い究極武神大剣アルティメットラグナロクブレードよりも更に重い武器。

 ――そう丸太だ。


(丸太ならあの枝も重量で押し切れるはずだ。

 木を操る能力だから控えていたけど、このモンスターは俺の丸太を瞬時に操ったりはできない。

 針鼠スタイルをあえて発動させれば……勝てる!)



 インベントは両肩をゆっくり回しつつ呼吸を整える。


(いくぞ!)


 反発移動リジェクションムーブでアドリーに急接近しつつ、疾風迅雷の術を追加で使うインベント。

 疾風迅雷の術で加速と方向修正を繰り返しジグザグに接近する。


 まさに激しい雷鳴――迅雷の如くアドリーに迫る。


(ここまで接近すれば防御を選択してくるはず!!)


 アドリーは予想通り、インベントとアドリーの間に根の結界を張った。


 インベントは急停止し、すかさず前方に盾、左にも盾、そして右に人型人形を投げた。

 続けて縮地からの疾風迅雷の術で、アドリーを飛び越える。


 アドリーは完全にインベントを見失う。

 そして――


(よし! 針鼠スタイルになったね!)


 地面に手をつけているアドリーは、背負っているランドセルから枝を生やし針鼠のようになった。

 インベントを探すためにキョロキョロしている。


 全てインベントの想定通りだ。


(丸太ドライブ――参式!!)


 アドリーに向かいつつ、丸太を斜め下方向に発射するインベント。


 もしかしたら、まだ防御する技を持っているのかもしれない――インベントはそう思っていた。

 アドリーはインベントが戦ってきたどのモンスターよりも多彩な技を持っているからだ。


 だが丸太ドライブなら針鼠スタイルを打ち破れるはずと確信しているインベント。



 圧倒的な質量を持つ丸太がアドリーを護る枝に触れ、簡単に破壊していく。

 バキバキと枝を折りながら突き進む丸太。

 狙いはアドリーの腹部だ。


 狙い通り。

 想定通り。


 だがインベントは不思議な感覚に陥っていた。

 丸太がアドリーに届くまでは数秒だ。たった数秒なのに頭に色々なことがよぎる。



(このモンスター……なんで反応しないんだ?)


 アドリーは騒がしいモンスター――もとい騒がしい少女――もとい騒がしいロリおばちゃんだ。

 だが背後から枝を叩き折りながら丸太接近してくるのに、全く微動だにしない。


 おかしい。



 そして次にデリータとロメロの顔が浮かんだ。

 デリータとロメロ、そしてアドリーに対しては同じ違和感を覚えていた。


(それがなんだ? わからない)


 困惑するインベント。



 そして――次にノルドの顔が浮かんだ。


 インベントはノルドからたくさんのことを学んだ。


 危険区域でのイロハはノルドから教わった。

 縮地を編み出すきっかけもノルドだった。

 連携してモンスターを倒す楽しさもノルドが味わわせてくれた。


 色々なことを教えてくれたノルド。


 だが今、この瞬間、思い出した言葉。


 それは――『攻撃したらすぐに距離をとれ』だった。



 直後、インベントは眼下の人型モンスターから禍々しい気配を感じた。


『攻撃したらすぐに距離をとれ』


 インベントの脳内に警鐘が鳴る。


(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!)


 収納空間に手を入れるためゲートを開こうとした瞬間。



 トスン――


「――あ」


 インベントは背中にチクリとした痛みを感じた。


 と同時に、丸太はアドリーの腹部に直撃した。

 アドリーは回転しながら吹き飛ばされた。


 そんな様子を見つつ、インベントは地面に着地した。


(あ、あれ……)


 意図せず膝をつき、そのまま地面に倒れた。


(なん……で?)


 インベントは背中から何かが流れ出していることに気付く。

 だが初めての感覚に何が起きているのかわからない。

 確認したくても体が動かない。



 それもそのはずである。


 インベントの背中、それも心臓部分。


 ナイフで刺されたような傷からは、全身に流れるべき血液が、体外に溢れ出していた。

>Game Over……??

>continue……??

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― 新着の感想 ―
[一言] なんやー、スカやな
[一言] 2乙されてからが本番だ。 まぁ、狩人なら常識だよね。 隠されたルーンがあるのかな?
[一言] おお!黒星!
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