アドリー・ルルーリア④ 戦いの分岐点
「ハア……。自信無くすさ~」
アドリーはまさか二度も殺されかけるとは思ってもいなかった。
一度目は加速武器・飛龍ノ型で飛んできた薙刀。
二度目は縮地からの空間抜刀。
「遠距離戦も強くてさ~、近距離戦も凄いわけね~。
なあ……え~っとインベントだっけさ?」
「うん」
「インベント。あんた本当はいくつなんだ?」
「本当?? 15歳だよ」
「……本当に? 嘘ついてんじゃないのさ?」
「本当だよ。15歳」
インベントの表情は読みにくい。
モンスターを狩る時だけは嬉々とした表情になるが、基本的にはぼけ~っとした表情だ。
天然のポーカーフェイスといったところか。
「ま、信じるさ。15歳で童貞で快楽殺人者で遠距離も近距離も得意なインベント。
その服装から察するにルーン側の森林警備隊ってとこさね。
……おっそろしいバケモノを飼ってるもんだよ、ルーン王国ってのは」
「はあ」
「まあいいさ。今からしっかりと殺してやるさ。
殺す前にね、ちょっとだけ私のことを教えてやるさ。
実は……私は12歳じゃないのさ」
「へえ」
「これだけ愛らしくて儚い美少女だけどさあ~。――実は38歳なのさ」
「ほあ?」
少しだけ驚いたインベント。
38歳はインベントの母と同年代である。
見た目は子供、中身はおば……お姉さんなのである。
「ヒヒヒ! まあさ! 年齢なんてさ! 証明できないけどさ!」
アドリーは近くの木に両手を触れた。
すると、木から何かが創られていく。
インベントはこの隙に攻撃しようかと思ったが、アドリーは警戒を緩めていない。
インベントは静観することした。
逆にアドリーのテンションは上がっていく。
「インベント。お前は凄いさ。
15歳でそこまでぶっ飛んでるのは凄いさ!
だけどねえ、私はお前を殺すさ。年季の差ってものを見せてやるさ!」
アドリーは木から塊を作りあげた。そして取っ手二箇所つけ背負えるように細工する。
大きさはアドリーの背中にすっぽり収まるぐらいだ。
その形と大きさはまるで少女がランドセルを背負っているかのようである。
「正直油断してたさ。侮ってたさ。
だってお前全然強そうじゃないからさ!
そして掴めなかった。お前みたいな戦い方をするやつなんて会ったことが無いと思ってたさ。
でも……いたさ! そうさ! もっと早く気づけばよかったのさ!」
インベントからすれば、人型モンスターがよく喋るな~と思っている。
興味が無いのだ。
それでもアドリーは饒舌に喋る。
「素早くてさ、接近戦が得意でさ、遠距離攻撃もできてさ。
そんでもって極めつけは空を飛べる。
まさに『星天狗』。クラマ・ハイテングウそっくりじゃないさ!」
アドリーは武器を持たず構えた。
「クラマ! いつかは殺してやろうと思ってるんだけどさ~!
クラマ対策も準備してるんだけどさ! お前はいい前哨戦になるさ!
ヒーッヒッヒ!」
ランドセルを背負ったアドリーが飛びかかってくる。
ランドセルを背負っている分、先ほどよりも動きは鈍い。
だが武器を持っていないのが不気味である。
インベントはタイミングを計り、再度縮地で対応しようとする。
だが――
「テリトリーに入ったりしないのさ!」
アドリーは大地を叩いた。
叩いた場所から、非常に小さな木が生えてくる。高さはアドリーの身長程度。
だが異常に枝の数と枝分かれが多い。まるで毛細血管のように。
インベントからはアドリーの姿が小さな木の奥に見えている状態だ。
(なんだ?)
木が邪魔して見えにくいがアドリーは嗤っている。
そして――
「異常成長」
小さな木がやせ細っていく。
水分が奪われてカラカラになっていくように。
その直後――
葉が生える。――大量に。
「な!?」
葉が異常に生い茂る。まるで巨大なマリモのような物体が現れた。
そしてアドリーの姿は完全に見えなくなった。
一瞬呆けるインベント。
だがすぐに気を引き締め直し、周囲を警戒する。
何かに気を取らせて、不意打ちを仕掛ける。
インベントの十八番の一つである。
アドリーが何か仕掛けてくるのはすぐにわかった。
すぐさまインベントは斜め後方に飛んだ。
不意打ちを仕掛けられる際に、その場に留まることが一番危険だとインベントは知っている。
だから相手が予測できないような動きをすればいい。
インベントも不意打ちが得意だからこそ、やられたら嫌なことを実行したのだ。
直後――
インベントを飛来する物体が掠めていった。
そしてインベントが立っていた場所を通過する。
飛来した物体は二つ。
ブーメランだ。木製のブーメラン。
「アッハッハー! よく避けたねえ!」
アドリーは自身が創り出した茂みの中から現れた。
異常成長で創り出した茂みは、目隠し兼隠れ場所にもなるのだ。
アドリーは背負ったランドセルからブーメランを創りだし、空中にいるインベントに向かって投げた。
インベントは疾風迅雷の術で難なく躱す。
「かあー! 空中で動けるなんて反則さあ!
ま、いいけどさあ!」
アドリーは再度両手で大地を叩き、小さな木を創り出し、異常成長で巨大な茂みを作りあげる。
その間10秒程度。
(あれ……厄介だなあ。よ~し!)
小柄なアドリーだからこそ可能な、茂みに隠れる行為。
そして茂みの後ろから正確にブーメランを飛ばしてくる。
茂みが邪魔だ。
だったらどうするか?
焼き払えばいい。
(空間投射砲、焔手裏剣装填!)
焔手裏剣はたっぷり油を塗った手裏剣に火をつけた燃えているオシャレな手裏剣である。
二度目のロメロチャレンジの際に、忍術として披露した技だ。
忍者服はアイナにダサイとのことで辞めさせられ、忍者小手以外は利用していない。
だが忍術は今もインベントの中で生きているのだ。
「いけえ! 火遁! 焔手裏剣」
収納空間を利用して発射された焔手裏剣は、アドリーが創り出した茂みに直撃する。
アドリーは茂みの中に隠れてインベントを観察していた。
隙をついてブーメランを投げるタイミングを見計らっていたのだ。
(なにさ? あれ?)
何か赤い物体が飛んでくる。
まさか焔手裏剣――燃える手裏剣だとは思っていない。
ズシャ――
「え?」
目の前には焔手裏剣。
油がたっぷり塗られた燃える手裏剣。
ロメロには宴会芸扱いされたが、アドリー相手には効果抜群だ。
「も、燃え――」
直後、アドリーの悲鳴が森の中に響き渡る。
異常成長で無理やり成長させた木。
無理やり成長させたために、栄養分も水分もほとんど無くなっている。
つまり葉も枝も幹もカラッカラに乾燥しているのだ。
結果、異常に燃え上がる。
インベントとしては邪魔な茂みを排除できたので万々歳……かと思いきや。
「お、おいおいおいー!! 森の中で炎なんて使うやつがあるかー!」
アドリーは焦り、燃え上がる炎が周囲に飛び火しないように消火活動を始めた。
とはいえアドリーのルーンは【樹】。消火能力は非常に低い。
「あ~」
燃え上がる炎と焦るアドリーを見つつ、インベントは頭を掻いた。
(まあ……この辺の木々は燃えにくそうだし大丈夫だと思うけど……ちょっと待っていよう)
この隙にぶっ殺しちゃえばよかったのかもしれない。
だがあまりに慌てふためくロリータおばさんが人間らしかったため、インベントの『モンスターぶっころスイッチ』は一時的にオフになった。