白い絨毯⑦
インベントのホスピタリティ溢れるサービスで癒されたアイナ隊。
苛立っていたロメロも正常な思考を取り戻していた。
青空を見つめるロメロ。
「空が青いな……とりあえず今日は帰るとするか」
「そうっすね」
「異議なし~」
****
カイルーンに戻り、アイナとロメロは森林警備隊総隊長メルペのもとに向かった。
メルペは、デグロムが指を欠損したものの帰還したことの感謝を伝えた。
なぜかひどく怯えているのは、モンスターに襲われたからだと思っているようだ。
メルペはタイミング的にアイナ隊がデグロムの救出をしてくれたんだと思っている。
実際は、ロメロの八つ当たりが怯えている原因なので笑って誤魔化した。
報告を聞いた後、メルペは群れを成すラットタイプモンスターを『軍隊鼠』と命名した。
通常、紅蓮蜥蜴のように大物で無ければ命名はしないが、森林警備隊に危機感を持たせるためあえて命名したのだ。
カイルーン森林警備隊はアイナ隊からの情報を基に注意喚起が行われ、警戒態勢を敷くことになる。
さて――アイナ隊はというと。
「俺たちは発生源を突き止めるぞ~。…………おっと、突き止めたいと思うんだが。アイナ隊長!」
「……お飾りの隊長職、辞めさせてもらえねえかな」
「いやいや、アイナ隊長は適任だと思うぞ。
俺もフラウも隊長向きじゃないしな。フラウは猪突猛進だし、俺は指示を出すなんてめんどくさくてな」
「はいはい。消去法ってわけですね」
「ははは、まあそういうな。さて話を戻そうか。
カイルーン周辺は森林警備隊に任せても問題無いだろう。
それなりの被害が出るかもしれんが、カイルーンの警備隊は優秀だ。まあ大丈夫だろう。
だったら俺たちがやるべきことは……発生源を突き止めることだ」
フラウが手を挙げ発言する。
「どうして発生源があるって断定できるんすか?」
「断定はできん。だがかなり可能性は高いと思うぞ」
「アタシも同意見かな」
「ほほう。隊長はなぜそう思うんだ?」
アイナはポリポリ頭を掻いた。
「色々あるけど、一番大きな理由は子供のモンスターがいないことかな」
「なるほど」
「はじめは『軍隊鼠』には繁殖能力があるんだと思ってた。
だけど二回遭遇して、繁殖していた形跡がなかった。
それにみんな成体に見えたんだよね。まあ……モンスターが成長するのかわかんねえけど。
どちらにせよ、増えている場面を見たことが無い。
だったらどこかで増えてるんじゃねえかって思ったわけだ」
フラウは感心している。
「ついでに言うと、全員が似すぎなんだよな。個体差が無さ過ぎ。
親が同じなんじゃねえか? まあそもそも普通の繁殖してるならって話だけどな。
突飛かもしれねえけど、分裂とかも考えたが……さすがにそれは無い気もするし」
「ははは! 分裂か! それは中々面白いな!」
「いや面白くねえし……。カイルーンの一大事だし……」
「概ねアイナ隊長の考えが全てだ。
俺としてはなぜ群れを成せているのかも不可解な点だがな。
群れを成すのに共食いしたり、ちょっと意味不明だ」
「でもどうやって発生源を突き止めるんだよ? 旦那」
「ふふふ、アイナ隊には切り札がいるじゃないか」
「切り札~?」
「モンスター退治のスペシャリスト。
『軍隊鼠』は苦手みたいだが……発生源を突き止めるのにこれほどの適任者はいないだろう」
『軍隊鼠』絡みの一件が終わるまでは、オフモード予定だったインベント。
今、美味しいお茶を準備しようとしていたインベント。
「インベント」
「はい?」
「さあ、楽しいお仕事の時間だぞ!」
****
「それじゃあ、インベント! いきまーす!!」
インベントは舞い上がる。
あるかわからない『軍隊鼠』の発生源を探すために飛び立ったのだ。
見上げるアイナ隊の面々。
「いつ見ても凄いもんだな~ははは」
ロメロは笑う。
実はインベントが『軍隊鼠』の発生源を発見できるとは思っていない。
(ダメ元だが……やってみる価値はあるだろう。
お茶は美味しかったが……さすがにインベントをお茶屋さんにするのはもったいないしな!)
ロメロはインベントに「空から『軍隊鼠』の発生源を探せ」とオーダーした。
インベントは快諾する。
『軍隊鼠』相手では役に立たないインベントは、別の役割を与えられたほうが嬉しかったのだ。
(あ~もう見えなくなっちまったなあ~)
アイナは見上げつつ、紅蓮蜥蜴戦のことを思い出していた。
(あん時も、インベントが囮役として一人飛んでいったっけ。
そんでもって、色々活躍したみたいだったな。まあ活躍は見てねえんだけどさ)
紅蓮蜥蜴戦の際は、物資補給班としてインベントのサポートをしていたアイナ。
(そんでもって死にかけて戻ってきて……ノルド隊長は死んじまうし……。
あれ……なんでアタシ、こんなこと思い出してんだ?)
ノルドは戦死したことになっている。
まあ、実は生きているのだが、それを知っているのは『宵蛇』だけだ。
なぜか嫌な予感がするアイナ。
(ただ発生源を探すだけだろ。それにインベントは『軍隊鼠』を殺すことができない。
心配する必要なんてない。元気に帰ってくるさ)
****
インベントはカイルーン上空を舞う。
「『僕』に見つけることができるかな~?」
森林地帯であるイング領。インベントの眼下には緑の絨毯が広がる。
上空からモンスターを探すのは難しい。
森に紛れてしまうからだ。
だがインベントは簡単に『軍隊鼠』の群れを発見した。
「うわ~すごいなあ~」
インベントの想像以上に『軍隊鼠』は目立つ。
緑の中に白は非常に目立つのだ。
(へえ~……こんなに目立つんだ。
でもなんか変だよね。群れだからってこんなに目立つものかな?)
インベントは森林警備隊の新人としてはありえないほどのモンスターを見てきた。
ラットタイプ、ハウンドタイプ、ウルフタイプ、モンキータイプなどなど。
どれもイング領に生息する動物が変異したモンスターである。
どのモンスターも、ベースとなった動物の色や形を受け継ぐ。
灰色のネズミは灰色のラットタイプモンスターになるし、茶色い猿は茶色いモンキータイプモンスターになる。
『軍隊鼠』はラットタイプモンスター。
つまりネズミが変異したモンスターだ。
色はハムスターのように白色がメインで茶色が混ざっている。
だがハムスターのようなネズミはイング王国領内にはいない。
少なくともインベントは知らない。
故に異常に目立つ『軍隊鼠』。
(変だ……やっぱり変だ)
インベントは『軍隊鼠』の群れを次から次に発見した。
『軍隊鼠』の群れには規則性があり、群れごとに100メートル以上離れている。
(テリトリーかな?)
モンスターは他のモンスターのテリトリーを侵さない。
強いモンスターであれば弱いモンスターが移動する。
稀に同レベルのモンスターがテリトリー争いをすることはあるが、基本的にはモンスターは他のモンスターのテリトリーを侵さない。
故にモンスターが連続で現れたり、二体同時に現れることは非常にレアだ。
(あっちだ……。あっちに『軍隊鼠』がたくさんいる)
上空から見る。
だからこそ気付くことができた事実。
『軍隊鼠』の群れは点在しているが、南からカイルーン方面に向けてやってきている。
森林の中に映える『軍隊鼠』の白。
まるでインベントを誘う光のように見える。
当然インベントは南へ進む。
なにかに手招きされるように南へ。南へ。
インベント久々の一人任務です。
現在89話ですが、100話に向けて盛り上がっていきます!
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