白い絨毯④
絶望しているインベントを気にせず、スタスタとモンスターの群れに向かっていくロメロとフラウ。
「お? 気づいたな」
ラットタイプモンスターがロメロとフラウに気付いた。
ネズミの特徴的な上下一対の門歯を開き、威嚇してくる。
「猪口才なネズミめ」
ロメロは剣を抜いた。
「さっさと終わらせるっす」
フラウはハルバードを構えた。
「先陣は譲ろう」
「承知っす!」
フラウが群がっているモンスターの群れに一閃。
まるで衝撃波が走ったかのようにモンスターの肉片や唾液、そして断末魔が飛び散った。
一振りで10体以上を屠った。
「はっはっは、やるなあ~」
ロメロはゆっくりと群れに近づいた。
そしてテリトリーを侵され、激昂し飛びついてきたモンスターを無表情に斬る。
フラウとは真逆で、モンスターは静かに命を終わらせていく。
ロメロは幽結界に侵入してきたモンスターの首を、最も効率的な角度から必要最低限の力で斬っていく。
「すったった~ん」
鼻歌交じりに死屍累々の山を築くロメロ。
ロメロとフラウ。
この場所には百戦錬磨の『宵蛇』隊員が二人いる。
モンスターが圧倒的な数で攻めてきたとしても、二人は圧倒的な質の持ち主なのだ。
特にラットタイプモンスターたちにとってフラウは天敵だった。
「ゴラアー!」
豪快に振り回すハルバード。
一振りで同胞たちが簡単に死んでいく。
一矢報いようと攻撃の合間を縫って飛びかかってくるモンスター。
だがフラウの動物的勘は、モンスターの奇襲を無効化する。
「ホイ!」
たった今、一匹のモンスターが豪快に踏みつぶされた。
フラウに隙は無い。
『凄いですなあ……フラウ』
「ん? おお、アイナ隊長じゃないか」
アイナはロメロの邪魔にならないように、余裕綽々で死体の山を作っているロメロの後方から念話で話しかけた。
『フラウ一人で全部片づけられそうですね』
「まあ、そうだな。一応一匹も逃がさないようにしないとな。繁殖するかもしれん」
『なるほど。それじゃあフラウを中心に、旦那は左側、私は右側から掃除していきましょうかね』
「そうだな」
ロメロは話しながらも、綺麗に殺しまくっている。
だがふと疑問に思い、後ろにいるアイナの方に振り向いた。
「あれ? インベントは?」
『はあ……あいつなんか変なことになってて……いやいつも変なんですけど』
「ん? どういうことだ?」
『まあ、終わってから話しますよ。とにかく今は戦力外です』
「う~ん、よくわからんがわかった」
それから一時間。
フラウが八割以上のモンスターを掃討した。
ロメロは途中で飽きてしまい、フラウから離れてぼちぼち殺す。
アイナはフラウの邪魔にならないように、群れからはぐれたモンスターを殺していく。
ドウェイフから受け取った剣は、容易くモンスターの幽壁と頭蓋を貫通する。
幽壁はモンスターのサイズに依存する傾向があるので、正確に突くことが出来れば小型であるラットタイプモンスターを殺すのは簡単だった。
たった三人で、おびただしい死体の山を築いてしまった。
**
狩り終えた後、アイナ隊は絶望の淵にいるインベントの元に集まった。
「は? モンスターがたくさんいると戦い方がわからない?」
インベントが群れになってるモンスターが苦手である事実。
ロメロはインベントから話を聞いてポカンとしている。
そして笑いのツボに入ったらしく笑いだした。
「くふ、ふふふ、あんな雑魚なのになあ~」
「い、いや! あんなにいっぱいいたらどれに集中していいかわからないですよ!」
「集中する必要も無いんだけどなあ。
数は多いが、一度に飛んでくる数はたかが知れてるしな。
しかしまあ、インベントにこんな弱点があったとはな、はっはっは」
「わ、笑いごとじゃないですよ!」
「ふふ、丸太で圧し潰してもいいし、バカでかい剣でフラウみたいに薙ぎ払ってもいい。
方法はいくらでもありそうだが……そういうことじゃないんだろうな、くふふ」
技術や能力的に言えばインベントでもラットタイプモンスターの群れを圧倒することはできるはずである。
問題は精神面なのだ。
インベントのモンスターに対しての向き合い方は、常に真剣である。
Dランクの雑魚モンスターであっても、インベントは愛をもってぶち殺す。
モンスターは敵だが、一匹一匹が大切な思い出なのだ。
だからインベントは雑魚であっても機械的に殺したりはしない。いや機械的に殺すことができないのだ。
それに対し、フラウはゴミ掃除をするかのようにハルバードをぶん回す。
敵対してくるし邪魔だから薙ぎ払っている。
ロメロは体力を使わないように、そして武器にダメージが極力生じないように機械的に斬る。
ロメロにとってラットタイプモンスターなど暇つぶしにもならない。
睡魔に襲われながら、斬り続けた。
「お、俺は……どうすればあ!」
「はっはっは、まあいいんじゃないか?
群れで発生するモンスターなんて俺も初めてだしなあ」
「か、狩りたいのにいぃ!!」
「インベント。人間、向き不向き適材適所ってものがある。
ああいうのはフラウみたいなパワータイプに任せればいいんだよ」
ロメロは別に褒めたわけではないが、フラウは照れている。
インベントは不甲斐ない自分自身を恨み、「うううー」と声を漏らす。
「ま、今日は早いが帰るか。メルペさんに報告しておいたほうがいいだろうしな」
「まあそうですね。かったるいけど報告に行きますかねえ」
結局インベントはラットタイプモンスターの群れと戦うことも出来ずにカイルーンに戻ることになった。
どうにかしたいが、インベントにとって『モンスターとは一体で現れるもの』という常識は覆し難いものなのだ。
悔しさはあるが、改善する手立ては浮かばなかった。
「まあ、インベント。
嫌なことがあったら体を動かすのが一番だぞ」
「え?」
「だからロメロチャレンジでもやろう」
「い、いやですよ! モンスター狩りたい!」
「はっはっは! 狩れないじゃないか?」
「ぐはあぁ!」
悪意無くインベントに精神攻撃を繰り出すロメロ。
「あ、私もお願いしたいっす!」
「おお、いいぞフラウ。
モンスターを狩れないインベントと一緒にロメロチャレンジをやろう」
「ぐふううーー!」
狩りたくて狩りたくて震えるインベント。
だが狩れない。
ゆっくりとインベントの精神崩壊が始まっていく。
次回、最終話!
精神崩壊したインベントは、人型モンスターに変貌する。
すいません、嘘です。
まだまだ続きます(´・ω・`)