白い絨毯③ 絶望のインベント
アイナ隊は、デグロム隊がラットタイプモンスターと遭遇した場所にやってきた。
アイナにとってデグロム隊の面々はすべて同期メンバーにあたる。
悪態をついてきたデグロムも、足をモンスターに齧られたパウアも、無残に食い殺されたゾゾイも全員顔見知りだ。
(やっぱ……デグロムも死んだかな)
アイナはデグロムが嫌いだ。
入隊時からデグロムに疎まれているのは察していたし、ポンコツ扱いしてきたのもデグロムだ。
嫌いだが、死んでほしいと思うほどアイナは腐ってはいない。
この場でデグロムが食い散らかされたのかもしれないと思い、アイナは少し重い気分になった。
「――性格の悪い奴ってのは、しぶといもんだ」
「え?」
ロメロが何かを察してアイナに話しかけた。
「どこかに逃げているかもしれん。はっはっは、小物かと思っていたが、隊長だったとはびっくりしたな」
ロメロからすれば小物中の小物であるデグロム。
デグロムがよもや隊長職であることは予想外だったのだ。
「デグロムはあれで結構優秀なんすよ」
「まあ、彼女を護って囮になるなんて中々気概があるじゃないか。
生きてるといいな」
「へへ、旦那はデグロムなんかに興味無いでしょ?
まあ、そうっすね。……ん? 彼女? 彼女!?」
「あの、パウアって子と付き合ってるんだろ?」
「え? い、いや! そんなこと一言も!」
「はっはっは! 鈍いな~鈍すぎ。付き合ってるに決まってるよ。恋愛の勘は鋭いんだぜ。
そんなことでは恋愛できないぞ~、はっはっは」
先日までフラウを落ち込ませていたロメロから鈍いと言われ、アイナは眉間にしわを寄せた。
ロメロは鈍そうで鈍くない。
飽きっぽいだけなのだ。
**
「おいおい……こりゃあ凄いな」
アイナ隊はモンスターの状況がわからないので慎重に歩を進めていた。
フラウが「なんか……あっちがやばいっす」と言ったので、見下ろせる場所まで向かった結果――
窪地に大量のラットタイプモンスターがひしめいていた。
同じような白と茶色が混ざったモンスターが数百匹。
一帯がまるで白い絨毯をひいたかのようになっている。
「あ、あれ全部モンスターなのかよ?」
アイナは眼下の光景に血の気が引いている。
モンスターの特徴は、ベースとなったモンスターより二回りほど大きくなり、そして群れない。
「珍しい色だな……、通常のラットタイプよりは小さいが……あの獰猛さはモンスターで間違いないかな」
ギチギチと音を立てながら、モンスターはお食事中だ。
恐らく猪であろう死骸に群がっている。
ロメロはいつになく真剣な顔でモンスターの観察をしている。
そして――
「殺るか」
少し冷たく、少し億劫そうに呟く。
「ちょ、ちょっとまて旦那! 駆除しちゃう気か? 応援を呼んだほうがいいんじゃないか?」
「ん~……いらんだろう。数は多いけど結局Dランクモンスターの群れだし。
俺とフラウだけでも蹴散らせるだろ」
「うっす」
「特に……ソレとは相性いいんじゃないか?」
ロメロはフラウのハルバードを指差した。
「そうっすね。それじゃあいきますか」
ロメロとフラウは自然と五メートル近く離れつつモンスターに向かっていく。
お互いの間合いに干渉しない丁度良い距離を保っている。
「くっそ……! しゃあねえ! アタシたちも……? お、おい、インベント」
アイナはインベントを連れて参戦しようと思った。
だが、振り向いて見たインベントが真剣な顔で悩んでいた。
アイナはふと疑問に思う。違和感。
目の前にはモンスターがいる。それも大量に。
(お、おかしくねえか? こんな状況だったらインベントはテンションマックスになって飛び込んでいきそうなもんだ)
奇声をあげて昇天してもおかしくない状況なのに、インベントが動かない。
表情からは喜びではなく、困惑が見て取れる。
そして理由がわからないアイナ。
「ど、どうしたインベント? お腹痛いのか?」
「ど、どうしようアイナ……」
「な、なんだ!? 辛いなら言えよ? どうした?」
インベントはモンスターの群れを見るまで、ワクワクが止まらない状態だった。
だがインベントは実際の状況を見て、あることに気付いてしまったのだ。
だから動けない。
「お、俺…………こんなにモンスターがいっぱいいる場合、どう戦っていいのかわからないんだ!!」
「――は?」
「モンスターがいっぱいいるって聞いてたけど、一体一体離れていると思ったのに!!
ど、どうしよう……モンスター狩りたいのにい! モンスターは基本一体でしょ!?
こんなに群がっていたら……俺……どうしていいかわかんないよ!」
いつも奇想天外なインベント。
予想外の行動に周りが驚かされることも少なくない。
今回も予想外。だがいつもとは方向性が違い過ぎる。
予想外に後ろ向きなのだ。
「い、いや……普通に戦えばいいじゃん」
アイナはインベントが何に怯えているのか理解できない。
紅蓮蜥蜴であってもニコニコして突撃するインベント。
紅蓮蜥蜴に比べればラットタイプモンスターなんて可愛いものである。
見た目は大きなハムスターなのだから。
「だって! あんなにいっぱいいたらどれに集中したらいいかわからないじゃないか!!」
「え、ええ~?」
「モンスターは一匹なの! そりゃあ二匹現れることもあるけど、そういう時は罠を使ったりしてモンスターを引き離すの!
もしくは……モンスターどうしを戦わせてその間に攻撃する戦術もあるけど。
でもあんなにいっぱいいるのはおかしいよ! 俺は……どれに集中すればいいの!?」
インベントは混乱している。
混乱しすぎてモンブレの世界の話と現実の話がごっちゃごちゃになっている。
モンスターブレイカー、通称モンブレ。
圧倒的な迫力と強さを誇るモンスターたちを狩るゲーム。
炎のブレスを吐くドラゴンなんてノーマルな部類だ。
毒性の泡を吐き出してくるモンスターや、尻尾がまるで燃える剣のようなモンスター。
そして体内に雷を蓄えているモンスターなど、多種多様なモンスターがいる。
それに比べればこの世界のモンスターは個性が薄い。
だからインベントはどんなモンスターが出てきても恐れたりたじろいだりはしない。
だが――モンスターは原則一体。
モンスター一体に対し、人間側はチームを組んで戦うのがモンブレだ。
そしてこの世界でもこれまでモンスターは一体で現れた。二体が同時に出てくることは無い。
つまり……群がっているモンスターはインベントの想定外なのだ。
「ど、どうしよう……! どうしよう!!」
目の前にモンスターがいるのに足が出ない。
恋焦がれるほどモンスターを殺したくて仕方がないのに。
世界の終わりかと思うほど落ち込んでいるインベントに対しアイナは――
「いや……知らんがな」
まさかの弱点発覚(/・ω・)/
どうするインベント!?
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