白い絨毯②
アイナとロメロはカイルーン森林警備隊総隊長である、メルペに呼び出された。
緊急事態とのことだったので、アイナは渋々呼び出しに応じた。
「お忙しいところ申し訳ない。ロメロさん。そして……アイナよ」
メルペは穏やかな男である。
アイナはメルペのことは嫌いではない。ただ二年前逃げ出した負い目があるため会いたくなかったのだ。
アイナは「お久しぶりです」とだけ応えた。
「緊急とのことだったのでな。何かあったのか?」
「はい、説明させていただきます。
実は当事者を呼んでいるのですが……ここに呼んでも?」
メルペとしてはロメロがカイルーンにいることをバラしたくないことを察している。
「構わんよ」
「ありがとうございます」
メルペは駆け足で部屋から出て、「入りなさい」と言った。
入ってきた女性を見て、アイナは「パウアか……」と呟く。
衰弱した様子のパウアを見て、アイナは仕方なく笑顔で「よっ」と挨拶した。
「え!? あ、アイナちゃん!?
あ……そうだったわね……カイルーンに戻ってきてたんだったわね……」
「はは、まあな」
アイナとパウアは同期である。
「パウア、説明しなさい」
「は、はい……はい?」
パウアは説明しようとしたが、ロメロを見て驚いている。
「あ、あ、あ、ろ、よ、『陽剣』?」
「ははは、どうも」
「な、な、なんれここぬい?」
動揺するパウア。
メルペは、
「事情は後で説明するから、パウアは自分の身に起きたことをロメロさんとアイナに説明しなさい」
と促した。
パウアは動揺を隠しきれていないが、事の顛末を話し始めた。
カイルーン南部で見たことのないラットタイプモンスターが大量に発生していたこと。
そしてデグロムとゾゾイが犠牲になったことを。
話を聞いた後――
ロメロは顔を顰めながら、
「ハア、見たこと無い……ね。
こりゃまたジジイが頭を抱えそうな話だ」
と呟いた。
アイナは不思議そうに「ジジイ?」と問う。
「ああ、気にするな。こっちの話だ。
しかしまあ内容は把握した。で、俺たちは何をすればいい?」
「今、斥候部隊を向かわせていますが、状況に応じてご助力いただけるとありがたい」
「なるほどな。どうする? アイナ隊長」
パウアは「アイナ隊長?? アイナが隊長? 『陽剣』は隊員?」と混乱している。
アイナはと~ってもめんどくさそうに「アタシに聞くなよ」と応えた。
「俺としてはカイルーン森林警備隊に協力するのはやぶさかでない。
協力も色々してもらっているしな」
「おお……それはありがたい」
「というよりも」
ロメロはにやりと笑った。
「アイナ隊で出向こうじゃないか。なあ? アイナ隊長?」
****
「ということで、ラットタイプモンスターが大量発生したらしい。
アイナ隊はネズミ駆除に行くぞお!」
「了解っす!」
ロメロといちゃいちゃできて元気いっぱいのフラウ。
「おおー! モンスターいっぱい!」
ラットタイプモンスターがたくさん。
モンスターが多い。多ければ多いほど幸せなインベント。
「な、なんでアイナ隊だけで先行しなきゃいけないんだよ!!」
相変わらずフリーダムロメロにかき回されているアイナ。
「いやまあ、俺って有名人だろ?
カイルーンの森林警備隊の人と連携するの面倒なんだよね~、はっはっは」
自分勝手な意見にアイナが問い詰めようとしたが――
「ま、真面目な話をすれば、戦力が突出しているアイナ隊が先行し、可能であれば全滅させるのが理想だろう」
「むむむ!」
急に正論を言い出すロメロに言葉が詰まるアイナ。
「それに群れないはずのモンスターが30匹近くいたんだろ?
早急に手を打つべきな気がするね。仮に……繁殖するモンスターだとすれば危険極まりないだろう?」
ネズミは驚異の繁殖力をもつ生物だ。
森林警備隊が一番遭遇するモンスターがラットタイプであることから、いかにネズミが発生率が高いかがわかる。
個体数の多い生物ほど、モンスターになりやすいのだ。
だがモンスターは群れないし、繁殖もしない。
モンスターになった時点で、ベースとなった生物とは別の生物であり、交尾はしないとされている。
とはいえ、人間がモンスターのすべてを知っているわけでは無い。
長年の経験から、モンスターは繁殖しないとされているだけだ。
イレギュラーはいつでも起こりうるのだ。
「ま。俺もいるしフラウもいる。
それに最近やる気の出てきたアイナ隊長もいるし、モンスター狩りのスペシャリストインベントもいる。
楽観視しすぎもよくないが、大丈夫さ。楽しんでいこう」
「おー!」「おー!」
夢いっぱい、元気いっぱいなインベントとフラウ。
アイナは「オウ~」と渋々賛同した。
とにもかくにもラットタイプモンスター掃討作戦がここに開始された。
悲劇が待っていることなどインベントは未だ知らない。
****
アイナとインベントが先行する。
パウアから現場は聞いているし、カイルーンの地理に詳しいアイナが先導している。
さて――
「フラウ」
「ロメロ副隊長」
ロメロはフラウに小声で話しかけた。
その顔は険しい。
「気付いていると思うが、アレ絡みだ。多分な」
「そうっすね」
「デリータがカイルーンに俺たちを向かわせたのはこれが理由だろうな。
まったく色々と面倒が起きる場所だ、ここもアイレドもな。
ま、尻尾は掴めんと思うが、油断はするなよ?
あと……期待している」
フラウは顔を輝かせた。
「うっす!」
「ははは。まあ何か掴めればいいんだがな。
こういうまどろっこしいのは、俺の領分じゃないってのに」