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白い絨毯① Bloody hamster

Tottoko Hashiruyo Hamster.

 アイレドとカイルーンには共通点がある。

 ともにイング王国の国境沿いに位置していることと、モンスターが増えていることだ。



「あ~めんどくせえな」


 デグロム隊の隊長であるデグロム。

 アイナがカイルーンに戻っていると知り、ちょっかいをかけてきた男。


 18歳でありアイナと同期である。

 【大盾ソーン】のルーンを持ち、ディフェンダーとしては頼れる男である。

 そしてカイルーン森林警備隊の総隊長を務めるメルペの実子であり、サラブレッドと言ってもいいだろう。


 デグロムは17歳で隊長になった。現在カイルーン森林警備隊で最年少の隊長である。

 失踪したアイナを除けば。


 デグロム隊は、危険区域ギリギリまで足を延ばしていた。

 危険区域近くの探索は森林警備隊にとって重要な任務である。

 人間のテリトリーを示すことは町の安全につながる。ただ歩くだけでも価値のある行為なのだ。


「なんであのポンコツが帰ってきやがったんだ」


 デグロムにとってアイナは目の上のタンコブだった。

 同期の中で突出して優秀な存在だったアイナ。

 剣術は抜群に優れていたし、頭もよく、そして努力を欠かさない。

 更に【アンスール】のルーン。


 非の打ち所がない天才だと思われていた。

 まさか【アンスール】が欠陥品だとは誰も想像していなかった。


「へへへ」


「何ニヤニヤしてんのよ? デグ」


「んあ? ニヤニヤなんてしてねえよ、パウア」


 デグロム隊は五名で構成されている。


 隊員のパウアは貴重な【マン】のルーンを持つ。

 デグロム隊はデグロムと同期のメンバーで構成されており、パウアも同期である。


 デグロムが入隊した年は最高の当たり年だと言われ、黄金世代と呼ばれた。

 その筆頭だったのがアイナだったわけだ。


「そういや、アイナがカイルーンに戻ってるぞ」


「え? アイナちゃん!?」


「へへへ、どのツラ下げて帰ってきたんだか」


「……あんた、そういう言いかたは良くないよ」


「ハッ!! ポンコツなんだから構わねえだろうが」


 アイナに対し失望した人間はそれなりにいる。

 だがデグロムの感情は失望ではなく、うっとおしいと思っていた相手が自滅していく様をいい気味だと思っていたのだ。


(アイナさん絡みになると、とたんにおかしくなっちゃうんだから……。

 普段は頼れるリーダーなのになあ)


 未だにアイナに囚われているデグロムの横顔を見つつ――


「あれ?」


「どうしたパウア?」


「モンスター……かな?」


 パウアの一言に一気に警戒を強めるデグロム。


「全員! 警戒!」


 デグロム隊は一気に臨戦態勢に入った。


「パウア、モンスターの特徴は?」


「小さい。ラットタイプ……か小さめのハウンドタイプかなあ?」


 お世辞にもパウアの【マン】ルーンの探知精度は高いとは言えない。

 経験不足が原因だが、それでも【マン】は有能で貴重なルーンである。


 さて、茂みから出てきたのは――


「……かわいい」


 パウアは思わず声を漏らす。


 茂みから現れたのはラットタイプのモンスターだ。

 敵意をむき出しにしている。だが……かわいらしさを残していた。


 ラットタイプはつまりネズミをベースにしたモンスターである。

 文字通りねずみ色が多いのだが、現れたのは白と茶色が混ざったような明るい配色だった。

 見た目はまるでハムスターのようなモンスター。大きさは小型犬程度。


「なんだ、これモンスターかよ?」


「へえ~、見たこと無い色だわ~」


「確かにな。ま、サクっと殺しちまうか」


 デグロム隊の面々は可愛いモンスターの登場に緩んだ。


 モンスターは緩んだデグロム隊の面々に向けて突進してきた。

 実は……このモンスター、秘めたる力が――



「グサっとね」


 デグロム隊のアタッカーである、ゾゾイ。

 モンスターには秘めたる力があるわけもなく、ゾゾイの剣が綺麗に心臓を貫いた。

 そして断末魔をあげるモンスター。


 デグロムは「楽なモンスターだったなあ」と呟き、

 パウアは「かわいかったなあ」と呟いた。



「あ、またモンスター!」


 パウアが叫び、再度モンスターが現れる。

 なんと先程のモンスターそっくりなモンスターが現れた。


 一匹?


 いや三匹だ。

 これにはデグロム隊の面々も驚いた。


「まじかよ……」


 モンスターが連続して現れるのは異常事態だ。

 なぜならモンスターは群れないからだ。

 ましてやモンスターが複数体一度に現れることも異常事態だ。


 だがデグロム隊は、この状況でも笑っていた。

 可愛いモンスターであり、そして雑魚モンスターだったからだ。


 ゾゾイが「しゃあねえなあ~、ちゃちゃっとやるかな」といいモンスターに近づいた。

 そして飛びかかってきた一匹を斬った。


 続いて飛んでくる二匹目を斬ろうとした時、ゾゾイは驚いて硬直してしまった。


「な!?」


 後にパウアは後悔する。

 もっと自身の探知能力の精度が高ければ――異常事態であることにもっと注意していれば――と。



 ゾゾイに向かってモンスターが飛びかかってきた。

 ラットタイプのモンスターは、ネズミらしく歯が発達している。

 噛まれると肉を食いちぎられるだろう。


 だがそれ以外には怖い部分は無い。

 身体も小さいし、爪はほとんど発達していない。


 ではなぜゾゾイは驚いたのか?

 それは――数だ。


 ゾゾイ目掛けて飛んできたモンスターは、優に20匹以上。


「うわあ!」


 ありえない展開。

 森林警備隊は対モンスターに特化した隊だ。

 故にモンスターと対峙しても驚くことは無い。


 だがモンスターは常に一匹で現れる。

 一小隊で一匹のモンスターと戦うのが普通なのだ。


 逆に言えば複数モンスターと戦う経験は無い。


 ゾゾイが大量のラットタイプモンスターに襲われている様子を見て、デグロム隊の面々が驚きのあまり硬直してしまったことを責めることはできない。



 ゾゾイは剣をとにかく振るった。

 目的無く振られた剣は、一匹のモンスターを吹き飛ばした。

 だが――


「痛ええ!」


 ゾゾイは足を噛まれ悲鳴を上げた。

 反射的に足に噛みついているモンスターを剣で吹き飛ばす。

 だが、吹き飛ばしても別の個所にモンスターは飛びついてくる。


「痛ああああ! ああ! い、痛ええー!」


 ゾゾイは齧られていく。

 まるで人間ではなくチーズに群がるネズミのような光景に、デグロム隊は言葉を失った。


「ガハア! ヒギイィ! で、デグゥ……! びふぅい」


 ゾゾイは全身を噛みちぎられ、ついには首筋を噛みちぎられ、ぴゅーっと鮮血が舞った。

 後はお食事タイムだ。


 綺麗に食べられていくゾゾイを見ながら、デグロム隊の面々は一言も喋らないがゆっくりと後退していく。


 みな同じことを思っていた。

 来ないでくれ――気付かないでくれ――と。



「痛っ!!」


 パウアが悲鳴を上げた。

 ハムスターがひまわりの種を齧るかのようにパウアのふくらはぎに噛みついていたのだ。


 デグロムは無言で素早くモンスターに詰め寄り鷲掴みにした。

 そしてナイフで首回りを刺していく。モンスターを殺しつつ噛む力を奪うためだ。

 その間、10秒程度。


 パウアの足に噛みついたモンスターは無残な状態になったが、パウアから離れた。

 デグロムは「ふう」と一息ついた。


「た、隊長」


 隊員の震える声を聞き、振り返る。

 そこにはお食事を終えた血塗れビッグハムスターたちが、次の食事を見つけて今にも飛びついてきそうな状況だ。


(走れば逃げ切れるのか??

 いや……だがパウアは足に怪我。

 戦う? こんな大量のモンスターと?)


 この状況で冷静になれるわけが無かった。

 だが咄嗟に出した指示はこの状況で幸運にも最良の選択だった。


「お前たち! パウアを連れて逃げろ!!」


 パウアは【マン】のルーン。

 一番重要な人員だ。

 そしてデグロムにとっても大切な女性である。


 パウアを逃がす。

 そのために最善の選択は、デグロム自身が囮になること。


 デグロムは大盾を構えつつ、モンスターの群れに突撃する。



「で、デグゥーー!」


 パウアの悲鳴が一度だけ聞こえた。たった一度だけ。


 他の隊員がパウアの口を塞ぎ、担いでその場から退散したのだ。


(ちゃんと逃げたみたいだな)

 

 パウアの声が一度しか聞こえなかった。

 デグロムはちゃんと隊員たちは逃げたんだと安堵した。


「オラアアアアアァァ!」



 デグロムはモンスターの群れに一人突っ込んでいった。


タイトルの元ネタ『黒い絨毯』って映画は中々面白いB級ホラーです。


本日は16時にアップしましたが、明日からは17時に投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒い絨毯 マラブンタ 懐かしい
[良い点] こんな奴が死んでもインベントやロメロは何とも思わないのが想像出来ます。“そこ”が良い。 [一言] 大半の人々は嫌な印象だけを持っている相手は“それだけの人間”と思い込む傾向が高いと思う。自…
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