フラウの恋模様④ 愛のカタチ
「も、もう嫌だあー!」
アイナとフラウは武器づくりのため三日間、モンスター狩りは中止となった。
となると、インベントとロメロは暇になる。
結果、ロメロチャレンジを強制されるインベント。
『通常ロメロチャレンジ』、『おかわりロメロチャレンジ』ときて、現在は『おしつけロメロチャレンジ』だ。
「ほらほら、もっとザザッっと剣は振らないと!」
「ザザってなんですか!?」
「槍はすぅーーっどん! って感じだ」
「す、すうどん?」
「はっはっはー、まだまだ動きに改善点があるぞおー! 楽しいなあ! インベント!」
「楽しくないー!!」
インベントは収納空間を利用した動きであればイメージできれば大抵のことができる。
仮に現状ではできなくとも常軌を逸した練習で体得する気概もある。
更にモンブレの世界から新しい技のイメージも得れる。
結果、変化と進化が著しい。
ロメロと出会う前と現在ではもはや別人だ。
反面、武器の扱いや身体の動かし方はほとんど進歩がない。
ロメロのインベントに対する評価は、成長と停滞がアンバランスな男。
常に変化するインベントが面白くて仕方ないと思っている。
だがやきもきする部分もある。
(もっと腰をぐぐいっとすれば、スッターンとなるのになあ~)
そしてロメロは極端に教えるという行為が苦手だった。
天才故に凡人に対し言語化して教えることが苦手なのだ。
残念な男、ロメロ・バトオ。
残念な男に執着された男、インベント・リアルト。
**
ところ変わってドウェイフ工房。
「どうだ? フラウちゃん」
ドウェイフは改良に改良を重ねた武器をフラウに渡した。
これまで使っていたロメロの剣の三倍は重い。
「あ、ちょうどいい重さっすね!」
「ガハハ、すげえなあフラウちゃん。こんな武器かなりの力自慢じゃねえと振れねえぞ」
アイナは「ちょっと貸してくれよ」とフラウの武器を手に取った。
「お、重んも! 怪力過ぎんだろ!」
「そうっすかね?」
フラウは165センチで太ももはかなり太い。
だが腕部に関してはそこまで筋骨隆々なわけではない。
そんなフラウがインベントが使っている究極武神大剣並みに重い武器を軽々使用できるのはやはりルーンの力が大きい。
更にフラウは幼少期から木こりとして斧を振っていた。
始めは父の見様見真似で斧を振っていたが、八歳の時点で斧を問題なく操れるようになっていた。
今持っている武器は、フラウが昔使っていた斧の重さと限りなく近い。
重心も斧と同じような感覚に仕上がっている。
軽く試し斬りすればするほど馴染んでいく。
「うん……いいっす。これはいいものっすね」
「んじゃいくか」
「ン? どこへっすか?」
「旦那のとこだよ、ひひひ」
困惑するフラウ。
「い、いや、まだ心の準備が!」
「大丈夫大丈夫! 隊長を信じなさいっての」
フラウを連れだそうとするアイナをドウェイフが引き留める。
「アイナ、ちょっと待ってろ」
「ほ?」
ドウェイフは奥から一本の剣を持ってきた。
「復帰祝いだ。持ってけ」
「え?」
「アイナ用にカスタマイズしてある。
軽さとしなやかさは損なわず、リーチもある」
「……復帰したわけじゃ」
目を伏せようとしたアイナの両肩をドウェイフは優しく触る。
「事情はわからんが、昔よりもイキイキしとる。
アイナが元気でやっててくれればそれで十分だ」
「……そか」
「人生、楽しくあれ」
「へへへ、そうだな。ま、変な奴ばっかりだけどちょっとは楽しいよ」
「そうかそうか。そりゃ最高だ」
「へへ。んじゃ行ってくるよ」
「ああ、またおいで」
「うい~っす。いくぜフラウ」
フラウは会釈をして店を出た。
**
「もおおおー!」
疾風迅雷の術で空中を自由自在に飛び回りつつ、『不可視の刃』でロメロの意識外からナイフを飛ばす。
「ふはははは! いいな! 凄いぞ凄いぞー!」
インベントの奇策はロメロと戦うことで確実にブラッシュアップされている。
だが同じく、インベントの奇抜さにロメロも慣れていく。
「い、いつまでやるんですか!」
「まあもうちょっといいじゃないか! フラウもいないしな!」
『おしつけロメロチャレンジ』は続いていた。
「お、いたいた」
アイナとフラウは二人を見つけた。
助かったとばかりに近づいてきたのはインベントだ。
「あ、アイナー! 助けてくれ~」
「おうおう、随分と楽しそうじゃねえか」
「た、楽しくない! しんどい!」
逃げてきたインベントを追うようにロメロがやってくる。
「お買い物は終わったのかい? アイナ隊長」
「まあね」
アイナの後ろで新しい武器を大事そうにもっているフラウ。
さて、その武器とは――
「ほう~、ハルバードか」
フラウの手に握られている武器、それはハルバードだ。
ハルバード。
斧と槍が合わさったような武器である。
突く、斬るどちらもこなせる武器であり、リーチが長く攻撃力は高い。
「それがフラウの新しい武器ってことかな?」
ロメロは少なくとも興味は示している。
アイナは「ほれ」とフラウのお尻を叩いた。
フラウは「うひっ」と変な声をあげた。
「あ、あの……副隊長」
「ふむ。重そうだな」
「あ、剣よりは重いっす」
「はっはっは、柄部分まで金属か? これは凄いなあ!
重さは七……いや八キロはあるんじゃないか~?
それにハルバードなんて中々渋い武器を、ふふん」
森林警備隊ではあまり槍は好まれない。移動の際に邪魔だからだ。
更にハルバードは長く、そして重い。実用性は非常に低い武器。
究極武神大剣――つまりクレイモアのように骨董品の部類だ。
おや? ロメロさんがうずうずしているぞ?
『ほれ、早くお願いしてみなよ』
アイナが念話で背中を押す。
まるで好きな男の子に告白したくてモジモジしている女の子をフォローする友達のようだ。
「えっと……模擬戦してもらえないっすか?」
ロメロはニコニコして「いいだろう!」と剣を手に取った。
木剣ではない。腰に差している剣を。
ロメロは待つ。
フラウは大きく深呼吸しつつ、優しくハルバードを持った。
「いくっす」
「こい!」
フラウはハルバードを振り上げ、思い切り斜めに振り下ろした。
ハルバードは全長2.5メートル。ロメロの剣の倍近く長い。
つまりリーチもけた違いだ。
「だりゃああ!!」
「ふうん!!」
ロメロも負けじと応戦する。
力と力のぶつかり合い。
「ぐぬう!?」
ロメロが押し負ける。
ハルバートの武器の重さと、フラウの腕力が相まって凄まじい威力を発揮する。
ロメロは剣を引き、フラウの攻撃をいなしつつ回避する。
「はははは! いいな! いいな! それいいな!
気分も上向く!」
フラウが武器を引くと同時に接近するロメロ。
長柄武器の利点である間合いを潰したロメロ。
「さあどうする!?」
「なんの!」
フラウも負けじと体を捻り、素早く応戦する。
剣とハルバードが交錯するかと思われたが、ロメロは寸前で避けた。
そして――フラウの肩を蹴り飛ばした。
「痛っつ!」
「ははは! 甘い甘い! まだ武器を使いこなせてはいないな。振り回されているぞお」
ロメロの連続攻撃に対し、フラウもハルバードで応戦する。
戦いにくい間合いに詰め寄るロメロだが、押されつつも自在にハルバードを操り対応するフラウ。
フラウもノルド同様、ルーンのお陰で危機察知能力が高い。
ロメロの攻撃を捌きつつ、距離を稼げれば唸るハルバードが空気を震わせ、大地を斬り裂き粉塵が舞う。
フラウ・ファイテン。
粗削りではあるものの、『宵蛇』で一番身体能力が優れているメンバーである。
フラウとロメロの逢瀬を見る二人。
「いやあ……楽しそうで何よりだなあ」
アイナはフラウより一つ年下ではあるものの、姉のような気分になっていた。
「こ、怖い~」
先日、落穴空間を使い勝ったインベントは、おしっこちびりそうになっている。
(二度と戦わないようにしよう……。絶対殺されちゃう)
兎にも角にも、フラウは元気になった。
ロメロも飽きていたおもちゃがリニューアルされてうはうはである。
「ほらほら~、足元がお留守だぞ~?」
「う、うっす!」
フラウの体にアザが増えていく。
体に鈍い痛みが増えていくごとに、幸福感を感じるフラウ。
幸せの感じ方は人それぞれなのだ。
愛……って難しいですね。
フラウには幸せになって欲しいです。
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