フラウの恋模様③
アイナ隊はカイルーンに戻ってきた。
落ち込んでいるであろうフラウを励ますために。
だが――
「よく考えたら……アンタたち邪魔だな」
「え?」
「ん?」
フラウは落ち込んでいる。
その原因は、ロメロとインベントである。
「フラウのところにはアタシひとりで行く。てことでどっか行って」
カイルーンまで連れられたかと思いきや、どこかに行けと言われる二人。
隊長命令だから仕方がないのだ。
「しょうがないな。インベント、ロメロチャレンジでもやろう」
「い、嫌ですよ! せっかくモンスター狩ってたのに!」
「フラウがいないんだから仕方ないだろう~。残念残念~はっはっは」
「嫌だああああ!」
ロメロはインベントを引きずってどこかに行ってしまった。
「さあて、邪魔者も消えたしど~しましょうかねえ」
**
宿に戻るとフラウがソファーに横たわっていた。
「よっ」
「あれ? 隊長。どうしたんっすか?」
「まあちっとな」
アイナはフラウの向かい側の椅子に座った。
あぐらを崩した座り方はなんともおっさんっぽい。
「え~っとな。大丈夫か?」
「なにがっすか?」
「落ち込んでるんじゃねえかってな」
「大丈夫っすよ」
言葉とは裏腹に顔が暗いフラウ。
「なあ……その、フラウさんよ」
「呼び捨てでいいっすよ」
「そ? んじゃあフラウ。あたしゃ~フラウのことよく知らないから単刀直入に言うけどさ」
「なんすか?」
「フラウはその、ロメロの旦那のことが好きなのか?」
「好きっすよ」
「お、おお、ストレートなやつだな。そっかそっか」
「まあ、憧れっすけどね」
「ふ~ん、憧れねえ」
アイナとしてはロメロなんて変人で自分勝手なめんどくさい男だ。
だがルーン王国の有名人であり、人気もある。
そして不思議な引力のような魅力があることはアイナも体感している。
「そんな憧れの『陽剣』に飽きられちゃって落ち込んでるってわけだ」
「うう……」
「一応言っておくと、ロメロの旦那がフラウに飽きた理由は、フラウが旦那の真似してるかららしいぞ」
「え?」
「意識的か無意識か知らねえけど、ロメロの旦那の動きを真似してねえか?」
「……してるっす」
「ちなみにインベントがフラウに勝ったのも、ロメロの旦那の動きを真似てるからだってさ。
あいつ、妙に観察力だけはあるんだよな。フラウのこともジロジロ見てたしなあ」
アイナはインベントがロメロの下半身をジロジロ見ていたことを思い出す。
思い出してちょっとイラっとした。
「だからまあ……まずは真似るのをやめたほうがいいんじゃねえか?」
「そうっすね」
「まあ言いたいことはそれだけ。よ~っしじゃあ行くか」
アイナは立ち上がった。
「おでかけっすか?」
「おう。一緒に行くぞ」
「え? どこいくっすか?」
アイナはニヒヒと笑う。
「女の子二人でおでかけなんて、お買い物に決まってんだろ」
****
お買い物にでかけるアイナとフラウ。
アイナは顔を隠しながら、フラウに隠れつつ歩く。
「今は変なやつはいないっすよ。なんでしたっけあのデロロンみたいな男とか」
「デグロムな。そっかフラウの探知はすげえな」
「探知するつもりでしてるわけじゃないんすけどね。
私の実家は木こりなんすよ。山に入ることが多かったんで、自然と周囲の気配には敏感になってたっす」
「ほっほう。フラウってちょっと野生児っぽいもんな」
「ひどいっす」
「にひひ、ほら着いたぞ。お買い物タイムだ」
**
鍛冶屋『ドウェイフ工房』
「邪魔するぜ~」
アイナは顔を覆っていた布を外し、入店した。
店主であるドウェイフがアイナの顔を見た。
ドウェイフはまるでドワーフのように小柄だが筋骨隆々。そして強面。
だが――
「あ、アイナアアアー!!」
「うっせえうっせえ!」
今にも抱き着かんばかりに接近してくるドウェイフを、フラウを盾にして避けた。
「ど、どうしたんだよおおー! 二年ぶりかあ~? 母ちゃん呼んでこねえと!」
「やめろやめろ! ややこしくなるだろうが!」
「そ、そうか? でも後で会いに来てやってくれ。母ちゃんも心配してたんだ」
「う、うん。わかったよ」
「しかしどうしたんだ!? いつ帰ってきた?」
「帰ってくるつもりはなかったんだけど、成り行きでね。
そんなことより……この子に合う武器を考えて欲しいんだけど」
フラウは「え?」という。
ドウェイフは「ほほう?」と目を輝かせた。
「アイナ隊長、どゆことっすか?」
ドウェイフは「た、隊長!?」と驚き、アイナがカイルーン森林警備隊の隊長に復帰したのだと勘違いした。
間違ってはいないのだが、アイナとしてはカイルーン森林警備隊に復帰する気は無い。
アイナは「うっせ! ちょっとお黙り!」とドウェイフを叱りつけた。
「ロメロの旦那とインベントは、フラウがロメロの旦那の真似しているのがつまんねえって言ってた。
だけどアタシからすりゃあ、フラウの一番の問題は武器の選択だと思ったわけよ」
フラウの腰には一本の剣。
ドウェイフは「ちょっと見せてくれるか?」といいフラウから剣を受け取った。
鞘から抜き――
「こいつは……スゲエ剣だな」
「それはロメロ副隊長の剣なんすよ」
「ろ、ロメロっていえば『陽剣』のことか!?」
フラウは「あ」と言うべきではなかったかと渋い顔をした。
「こ、この子は『陽剣』の大ファンでね。昔の剣を譲ってもらったらしいぜ」
「へ、へえ! そりゃあ宝物だなあ、大事にしなよ。お嬢ちゃん」
と簡単に勘違いし、ドウェイフは剣をフラウに返した。
「でもよおアイナ。さすがにウチにもそれ以上の剣は無えぜ?」
「別に業物が欲しいわけじゃねえよ。この子に合った武器を探したいんよ」
ドウェイフはフラウをじっくりと観察する。
「体格的に言えば、この剣が相性悪いとも思えねえんだが?」
「そりゃルーンを考慮しなきゃな。実際剣の腕も悪くないけど、剣が合ってねえんだ。
おっちゃん、試しに一番重い剣を貸してくれよ」
ドウェイフは「おう」と言い、裏から一本の剣を持ってきた。
「分類はブロードソードだがかなり重いぜ? 長くて分厚くて持つだけでも……」
フラウは剣を両手で受け取ったが、片手で持ってみる。
「あ~結構重たいんすね。あんまり武器って持ち替えたことないんすよねえ~」
「ま、まじかよ? 四キロ近いぜ?」
「まあ、斧よりは軽いっすよ?」
「い、いや、そりゃあ動かねえ木を切る斧と、動くモンスターを斬る剣じゃあ重さは違うだろ」
「う~ん、そんなもんすか」
フラウは剣の触感を確かめるが、あまりしっくりきていないようだ。
「もっと合う武器を探したほうがいいな、フラウ」
「合う武器?」
「まあ、フラウがそのロメロの剣で強くなりたいってこだわりがあるなら仕方ねえんだけどさ。
せっかくの馬鹿力なんだし、自分に合った武器を探してもいいんじゃねえの?」
「そ、そうなんすね」
(それなのに『宵蛇』でやっていけてるんだからすげえんだけどな)
その後、様々な武器を試しつつフラウに相応しい武器を探した。
店にある武器をほぼ全て試してみたがフラウに相応しい武器は見つからなかった。
だが理想的なフラウの武器が徐々に明らかになっていく。
フラウはドウェイフから渡された武器をとにかく使ってみる。
アイナはフラウの模擬戦の相手を務めた。
実際に戦い、フラウに馴染む武器を探す。
そして――
「フラウは斧に慣れてるな」
「まあ、木こりもやってましたからね」
武器ではないが、斧を持たせたら一番しっくりきているフラウ。
だが斧を武器にするわけにはいかなかった。
「斧だとリーチがなあ……」
悩むアイナ。
「リーチが欲しいなら、槍とかグレイブのほうが向いてねえか?
フラウちゃんは長柄武器のほうが向いてるだろ」
「でもなあ、槍じゃあ重さが足りなくねえか?」
「だったら重い槍でも作るとするか」
「重い槍か……そんなの作れるのか?」
「がっはっは! アイナが頼んでるんだ、作ってやるぜえ!
いつもは軽くするのが基本だがな!」
「だったらベストな重さを考えねえとなあ」
「重さよりも重心が重要だな。フラウちゃんはパワフルだから先端を重くした方が使いやすいみてえだしな」
アイナはフラウのために。
ドウェイフはアイナのために。
フラウはロメロのために。
三日三晩を費やして三人の思いを籠めたフラウの武器は作られていく。
そろそろ……主人公に本当の絶望が訪れる。
鬱展開に読者さんが悶絶するかもしれませんね!
次回でフラウパートは終了予定です。




