幸せな異変
カイルーンの危険地域、通称『緑の檻』。
森林警備隊はあえて行くことが無い場所。そこで異変が起きていた。
大量のモンスターが現れるようになったのだ。
「うっはあ!」
一人幸せを噛みしめている男がいた。
インベント・リアルト。モンスター大好き変態少年だ。
『緑の檻』の入り口にいるだけで探さなくても勝手にモンスターがやってくるのだ。
モンスターに飢えていたインベントにこれほどのご褒美はないだろう。
アイナ隊の任務は非常にシンプルだ。
とにかく向かってくるモンスターをぶっ殺す。
不慣れながら探知をするフラウ。
そして見つけしだいインベントが殺しに行く。
ではロメロとアイナはなにをしているかというと、後方で状況を観察していた。
『手伝わなくていいんですか? ロメロの旦那』
「ん? あんなに楽しそうなインベントの邪魔はできんさ、アイナ隊長」
インベントは一人でモンスターを狩っている。
危険かどうかで言えば危険極まりない。
人間より小さいDランクのモンスターでも打ちどころが悪ければ、重傷を負う。
人間並みのサイズのCランクモンスターであれば油断すれば致命傷を負う可能性がある。
それでもインベントは一人で戦っている。
ロメロは必要あれば手助けしようと考えていた。
だがモンスター狩りをするインベントを見て、一対一であればインベントひとりでモンスターを殺せると判断したのだ。
ロメロを納得させるほど、モンスター狩りの黄金パターンをインベントは確立しつつある。
ちょうどよいところにモンキータイプのCランクモンスターがやってきた。
毛深すぎる人間のようなモンスター。
「ホキャアアアアアア!」
「あは」
インベントは無警戒にモンスターに向かっていく。
モンスターは当然威嚇してくる。
そして動物的な本能で睨みつけてくる。
インベントは笑みを浮かべつつもモンスターを見つめかえす。
愛する人を見つめるが如く、目を離さない。
まあ見ていて飽きないレベルでモンスターが大好きなのだが、目的は違う。
インベントは、自分自身を囮にしているのだ。
(空間投射砲、ナイフ装填)
空間投射砲はおかわりロメロチャレンジの際に披露した技である。
炎を纏った手裏剣『焔手裏剣』を発射する際に使った。
収納空間は二メートルの立方体。
収納空間の端に弾となる対象を収納し、収納空間内の二メートルを使い加速させ発射する技だ。
空間投射砲の利点は手を触れずに物体を射出することができる点。
手を触れずにモノを飛ばせるので手で持つことができない『焔手裏剣』も飛ばせた。
だが空間投射砲にはもう一つの利点がある。
というよりもこちらの利点が対モンスターには非常に効果的だった。
インベントはモンスターに向けてゲートを開いた。
ここで重要なのが、『ゲートをどこで開くか』である。
(遠隔ゲートを――――俺から三メートル右に起動!)
ゲートは開かれた。
だがモンスターは気づけない。
何せゲートがインベントから三メートルも離れているからだ。
注意深く周囲を確認していれば発見できるかもしれない。
だが、インベント本体が囮になっているのだ。
ゲートの起動及び空間投射砲を巧妙に隠すためにインベントはあえて目立つ動きをしている。
手品でいうところのミスディレクションである。
(俺はここだ、ここだ、ここだ、ここだ、ここだ、ここだ、ここだ!
ここ!! ここ!! ここ!! ここ!! ここ!! ここ!! ここ!!)
モンスターからすれば奇妙極まりないだろう。
嬉しそうに、にこやかに、モンスターの注意を惹く。
そして――
(悪いね。――――『不可視の刃』)
空間投射砲から放たれたナイフが、モンスターに向かって飛んでいく。
まだモンスターは気づかない。
モンスターとナイフとの距離が一メートルをきった。
狙いは――眼球だ。
モンスターは驚く。
突然ナイフが眼球目掛けて飛んでくるのだから当然だ。
そして『不可視の刃』はかなりの確率でモンスターに幽壁を発動させる。
眼球を攻撃されれば命の危険を感じるのは生物としての本能だろう。
「ガギャアア!!」
モンスターは両手で眼を庇う動きをしつつインベントから目を背けた。
インベントはその瞬間を見逃さない。
(――縮地)
モンスターの死角に巧妙に入り込む。
続けて空間抜刀し、居合斬りにつなげる。
狙いは――足だ。
「ちっ。硬ったいなあ」
足を切断するつもりで攻撃したが、骨は砕いたが切断には至らなかった。
だが機動力は削いだ。
機動力さえ削いでしまえば、あとはまな板の鯉である。
盾や丸太、そして人形を使い、今度は注意をインベントから逸らす。
そして空中から致命的一撃究極武神大剣を叩き込むのだ。
モンキータイプのモンスターも頭蓋がパックリ割れて絶命した。
インベントの戦い方。
それはノルド隊のやり方をベースにしている。
ノルド隊では――
ノルドとインベントが交互に注意を惹きつつ、ロゼが触手で縛り、トドメの一撃を頭上からぶち込む。
今は――
インベントが囮になりつつ『不可視の刃』で注意を散漫にしつつ、縮地からの攻撃で機動力を奪い、トドメの一撃を頭上からぶち込む。
まるっきり同じにはできないが、ノルド隊での経験が今のインベントの基になっているのは間違いなかった。
**
「いやあ楽しそうにモンスター狩るよなあ、はっはっは」
ロメロとアイナはインベントの様子を見ている。
仮にインベント一人では対応できないであろうレベルのモンスターが現れれば、手助けする気はある。
だがモンスターの数は多いが、D~Cランクのモンスターしか現れていないのでインベントひとりで楽しんでいる状態だ。
アイナはインベントがモンスターを狩るシーンをこれまで見たことが無かった。
(なんて滅茶苦茶な動き……すげえけど、無駄も多いなあ)
摩訶不思議な動きのインベントだが、見慣れてきたからこそインベントの改善点も見えてきたアイナ。
「……インベントの改善点が見えてるんじゃないのか? アイナ隊長」
「は?」
「インベントは素晴らしいよ。
スピードとパワーは十二分にある。Cランクモンスターを一人で任せても問題ないレベルだ。
だけどそれはすべて『収納空間』の扱いの巧さ……というよりも奇抜さからきている」
「そりゃあ……まあ」
「ちなみにどこが悪い?」
「そんなの……旦那もわかってるんでしょ?」
「ははは、正直言うとだな。わからん」
「は? そんなわけないでしょ?」
「もっとザクーっとやればいいし、ググンって動けばいいのにとは思う。
ただなあ、俺、人に教えるのすっごい苦手なんだよ。
弟のピットにも言われたんだが『兄さんはちゃんと言葉にしてくれ』ってね。
ぷふふ、思い出すと笑えるなあ。あいつは本当に才能が無い」
楽しそうなロメロを横目に――
(ピットって言えば『月光剣のピット』だろ?
超技巧派の剣士に『才能が無い』かよ……ほんとこの人無茶苦茶なんだな)
ロメロにとっては『歩き方』レベルの技術が、一般人には『奥義』ともいえる技術だったりする。
『歩き方』を言語化して教えるほど難しいことはない。
「インベントを強くするにはさあ……君みたいな人が必要だろう?」
ロメロは嗤う。
(このおっさん……それが目的で私を連れだしたのか??)
アイナ・プリッツ。
フラウに続きロメロに対しても不信感が高まる!
まあロメロからすればアイナを入隊させた理由は『面白そう』と思っただけである。
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