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ポンコツの理由

 アイナ隊はカイルーンでも有名な危険区域にやってきた。

 『緑の檻(みどりのおり)』と呼ばれる、モンスター発生率が異常に高い地域。


 モンスター発生率が高い理由はハッキリとはわかっていない。

 一説によれば切り立った崖があるからではないかと言われている。


 普段は誰も近づかないような、危険な場所。

 だがインベントにとっては天国のような場所だ。


 アイナはカイルーン森林警備隊の誰かと会いたくなかったから『緑の檻(みどりのおり)』を選んだ。


「ロメロの旦那」


「なんだい? アイナ君……いやアイナ隊長!」


 アイナは渋い顔をした。隊長なんて呼ばれる柄では無いし、そもそもロメロに隊長なんて呼ばれるのは気持ち悪くて仕方がない。


「ハア~まあいいや。

 モンスターをたくさん狩るんですよね?」


 インベントが「そうだよ!」と声を張り上げるが無視するアイナ。


「でもどうやるんすか? 結局【マン】のルーン無いし」


「そこは大丈夫だ。さあ、フラウ!」


 フラウは首をポリポリ掻きながら「ほんとにやるんっすか?」という。


「お前ほど適正のあるやつはいないだろう? ほれほれ探知してみろ」


「まあ仕方ないっすけど、その代わり約束守ってくださいよ?」


「あ~、まあ気が乗らんがいいだろう」


「約束っすからね! よ~っし」


 フラウは目を閉じて集中する。


 インベントがロメロに「フラウさんって探知出来るんですか?」と聞いた。


「フラウは……【エワズ】と【猛牛ウルズ】のルーンなんだよ」


 【エワズ】のルーンは身体能力を強化する。特に脚力を強化する。

 【猛牛ウルズ】のルーンも身体能力を強化する。特に腕力を強化する。

 そしてどちらのルーンも動物的な勘を得ることができる。


 ノルドは動物的な勘を鍛え上げた結果、広範囲の探知能力を得ている。


「へえ~! 探知にぴったりじゃないですか!」


「まあ、勘のいい子だとは思っていた。ただ探知なんてやったことはないそうだ」


「そうなんですか?」


「探知要員は『宵蛇よいばみ』には優秀なのがいるからな。

 ま、探知なんて基本的には【マン】のルーン以外はやらんさ。

 ノルドが特殊なんだよ」


「そうなんだ」


「ふふふ、探知無しでモンスター狩りするのもオススメだぞ。

 急に現れたモンスターに対し、即座に対応する練習だ。

 死のスリルを味わいつつ、反射神経も磨くことができる」


「ほおお~!」


『その変態は異常者だから真似してはいけませんよ~』


 アイナはインベントに念話で語りかけた。

 インベントは振り向き「そうかな~?」と応える。


『森林警備隊の一番多い死亡理由が不意のモンスターから攻撃だっての』


「そっか~」


「おいおい、俺をのけ者にしているな!? 俺も話に混ぜろ」


 面倒だと思いつつも、ロメロに対して念話を行うアイナ。


『のけ者にする気は無いですけど……私の念話って一人にしか使えないんですよ』


 ロメロはアイナの念話にピクリとした。


「凄いな……なんて明瞭な念話だ。まるで耳元で囁かれているようだ」


『念話のほうが話すのは楽なんですけどね。喋らないでいいから疲れないし』


「ふ~む……そんなものか」


 アイナはこめかみを二度叩いた。

 念話のレベルを一段階引き上げたのだ。


『念話って楽なんですよ。勝手に相手の頭の中に情報を送れるでしょ?

 普段は会話のスピードに合わせて念話してますけど、本気をだせば情報量は増やせます。

 口で喋ると、噛んだり言い間違えたりすることがあるけど念話は絶対に失敗しないし』


「うお?」


 一気に情報がロメロの頭に流れ込んだ。

 凄まじく早口な念話。


『ま、普段は使いませんけどね~』


「ふ~む」


 ロメロは一呼吸置いた。そして――


「正直……アイナ君がポンコツ扱いされるのは不思議だがな」


 アイナはズキリと胸が痛んだ。


『メルペ総隊長から聞いたんじゃないんですか?』


「うん。聞いた」


『あたしゃ~ポンコツなんすよ。少なくとも森林警備隊では使いものになりませんぜ』


 ロメロはアイナがなぜポンコツ扱いされているかを、カイルーン森林警備隊総隊長であるメルペから聞いている。


 理由は二つある。

 一つ目はアイナの念話は一度に複数人に向けて話せないことだ。

 一般的な【アンスール】の認識は、一定範囲内の複数の対象者に念話することが可能だ。

 それに比べてアイナは一人一人に念話する必要がある。


 ただこれは決定的な欠陥ではない。

 なぜなら対象者が複数いたとしても、順番に念話していけば対応可能だからだ。

 アイナがどれだけ努力をしても複数人に対して念話を使うことはできなかった。

 だが、念話対象者の切り替えスピードを向上させ、一度の念話で与える情報量の質と量を向上させた。


 インベントが収納空間に使い込んできたように、アイナもまた、念話をまさに血反吐を吐くまで使いこんでいる。


 だがどうしても二つ目の理由は、どうやっても補うことができなかった。


『あたしの念話の欠点――』


 アイナは念話をしつつ、一歩一歩ロメロから離れていく。


『ま、これでも努力はしたんですけどねえ……』


 ロメロとアイナの距離が三メートル、四メートルと広がっていく。

 そして――


『どう頑張っても、だめだっ――』


 五メートルを離れた時点で念話が切れた。

 アイナは半歩だけ歩を戻した。誰よりも理解しているポンコツの理由の半歩。


『あたしの念話は、対象範囲が短すぎるんすよ』



 アイナの念話は対象との距離が五メートル以内でなければならない。


 インベントが一時期属していた、マクマ隊のマクマ隊長も【アンスール】のルーンを持つ。

 彼の念話は対象との距離がいくら離れていても使える。

 視認さえ出来れば、100メートル離れていようが念話が可能だ。



 【アンスール】を持つ司令塔タイプの隊長は、俯瞰で戦局を見る慧眼が求められる。

 そして念話で的確な指示を出すことによって隊員の連携力を高める。

 もしくはモンスターが死角から強襲してくるような緊急時も、注意喚起することで危機回避に貢献する。


 優秀な【アンスール】使いは、いるだけで価値がある。



 アイナは【アンスール】を持っている。

 そして視野も広く、頭も良い。


 だからこそ周囲の人間は期待した。

 だが一般的な認識の【アンスール】と、アイナの【アンスール】は違った。


 期待は落胆に変わる。

 それでもアイナは努力した。

 元からめんどくさがりのかったる~いガールだったわけではない。


 だけどどうやっても念話の短すぎる対象範囲が足を引っ張った。


 結果――アイナはカイルーンから逃げ出した。

 ちょうど両親が別の町に引っ越していたため、カイルーンの町に未練も無かった



 ポンコツのアイナ。


 だからこそ彼女は思う。

 もう放置してほしいと。

 森林警備隊の前線に復帰する気などさらさら無い。



 戦闘狂のロメロ。


 彼にとって彼女の過去なんてどうでもいい。

 せっかく腕が良いのだから、自分自身の遊び相手になればいいのにと思っている。

 ついでにインベントを成長させてくれればいいのに、なんて思っている。

 自分本位。



 モンスター狂いのインベント。


 まだ見ぬモンスターの姿を想像し、ニヤニヤしている。


(モンスターまだかなあ~。うひうひうひ)



 世間の常識から外れた二人にとっては、アイナの過去なんてどうでもよかった。

 彼らが見ているのは、今なのだ。

 今、楽しいかどうか以外に興味が無い。



 過去の心的外傷――トラウマはアイナに、過去を克服し前進することを止めさせた。

 過去に大きな失敗があった。

 だから、現在も逃げ続けるという、過去の延長で今を選択してきたアイナ。


 だがインベントとロメロは過去ではなく、今どうしたいかを大事にする。

 今のためにもしも過去が邪魔なら、簡単に切り捨てる。

 故に変人なのだ。



 そんな変人二人と時間を過ごすアイナ。

 アイナは少しずつだが感化されてきている。まだ気づいていないけれど。

ちょっと自己啓発っぽい締めになってしまいました(*'ω'*)


次回、やっとインベント念願の時間がやってきます!


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