おや? 変人たちが手を組んだようですよ
※忍術名を『空蝉の術』→『疾風迅雷の術』に名称変更しました
『宵蛇』はアイレドの町からとうの昔に去っている。
『宵蛇』に入隊が決まったロゼも当然アイレドの町にはいない。
だが忘れ物がある。
『陽剣のロメロ』という副隊長なのに、インベントと遊ぶためにアイレドに戻ってきた『陽剣』ならぬ『フリーダムソード』だ。
「い、いや、なんでまだいるんですか? ロメロさん副隊長でしょ?」
「はっはっは、気にするな。ロメロチャレンジをもっとやりたいだろう?」
「も、もういいですよ! というか終わったじゃないんですか!?
いつの間にかロメロさん攻めてくるし……。ロメロさんが本気出したら勝てないですもん!」
「おいおい~、若者が軟弱なことを言ってはいけないぞ~?
もっと努力すればいいじゃないか」
フルアーマーXXスタイルに続き、忍者スタイルでもロメロチャレンジをクリアした。
疾風迅雷の術による空間殺法ともいえる攻撃は、ロメロに幽壁を使わせた。
つまりロメロチャレンジは終わったはずだった。
だがロメロはまだアイレドの町にいる。
インベントと遊ぶために。
「もう!! 俺はモンスターを狩りにいきたいんですよ!!」
「行けばいいじゃないか」
「い、いや、まだどこの隊に属するかも決まってないですし」
「ふむ? そうなの? なんで?」
インベントはノルド隊だったが、今はどの隊にも所属していない。
隊長であるノルドがいないのだからしょうがない。
ではなぜ未だにインベントが新しい隊に配属されていないかというと……。
「ロメロさんがいるからですよ!」
「え?」
「ロメロさんが一緒にいるから、俺が新しい隊に配属されないんですって!」
「なんで?」
「俺もわかんないんですよ!」
インベントが別の隊に配属されない理由は、本当にロメロである。
アイレド森林警備隊総隊長のバンカースからすれば『宵蛇』の副隊長であるロメロがインベントと一緒にいる理由がわからない。
なにか重要な理由か、もしくは非常事態でインベントとロメロは一緒にいるのだと思っている。
バンカースはとりあえずロメロがいなくなるまではインベントをどこの隊にも所属させないことを決めた。
よもやロメロがインベントと遊びたいから一緒にいるとは思ってもいない。
「だったら隊をつくろうか」
「え? そんな簡単に」
「まあ、任せておけ。しかしまあ……俺とインベントだけの隊ってのも面白くないな」
「え? ロメロさんも入るんですか?」
「そりゃそうだろ」
「い、いや、ロメロさん暇なんですか?」
「ハハハ、忙しいけど、インベントにモンスターを狩れる隊をつくってやらないとな。
まあついでにロメロチャレンジをやればいいんじゃないかな」
「ついでって……。まあモンスターが狩れるなら俺はいいですけど」
「ふふ! 善は急げだ! ちょっと行ってくる」
「え? どこへ!?」
「総隊長のところ~」
**
数時間後――
「お~い、インベント」
アイナと一緒にいるところにロメロは戻ってきた。
「ロメロさん」
「隊、つくってきたぞ」
「そ、そんな簡単に……?」
アイナは念話で、『この人メチャクチャだな……』と呟いた。
「いやはや大変だったよ。
アイレド森林警備隊にロメロ隊を作ろうかと思ったんだけど、バンカース総隊長さんが、『勘弁してくれ~』なんていうんだよ」
「へえ~、なんでですかね?」
「いや……『陽剣』がいきなり隊作ったらそりゃ焦るだろ。大騒ぎだわ」
と、アイナは呆れながら、ロメロとインベント両方に伝わるように口頭で話した。
アイナの念話は一人一人にしか使えないのだ。
「仕方がないから『宵蛇』の分隊を作った。
とりあえず……ロメロ隊ってところかな」
「へえ」
「サラっとこの人……とんでもないこと言ってるよ……。
天下の『宵蛇』の分隊なんて、勝手に作っても大丈夫なんすか?」
「ん? まあ俺、副隊長だし大丈夫だろう。
インベントは俺の隊に預かり状態にしておいたぞ。
ちなみにアイレド森林警備隊の所属も継続しているから、いつでも戻れる。
これでモンスター狩り放題だ! やったな」
「そうなんですか!? やったあ!」
状況はまったくわかっていないが、モンスター狩り放題なので喜ぶインベント。
強引に物事を進めるマイペースな『陽剣』。
(だめだこりゃ。変人がコンビ組んじまったよ……。
まあいっか。これであたしはお役御免ってね。
そろそろ本業に戻りますかねえ~)
アイナはバンカースから、「インベントが隊に復帰するまではサポートしてやってくれ」と任命されている。
インベントがロメロ隊に入ったため、サポート期間終了というわけだ。
「それじゃあまあ、私はオサラバするよん。
ロメロチャレンジも終わったみたいだし、倉庫番に戻るとしますかね~、かったる~い」
アイナは腰をポンポンと叩きながら立ち去ろうとした。
「あ、そうなんだ」
「おいおい、なに言ってるんだアイナ君」
「ん?」
これまで「アイナさん」と呼ばれていたのに、「アイナ君」と呼ばれることに少し違和感を覚えるアイナ。
そして悪寒を感じた。
「はっはっは、アイナ君もロメロ隊のメンバーだぞお」
「へ? な、なに言ってんの!?」
「バンカース総隊長には許可をとったぞ?」
「ア、アタシの許可をとってない!」
「ん? 必要だったか?」
「ひ、必要! なんで必要だと思わんの!?」
「ん~、インベントと仲いいし」
「り、理由になってねええー! 天然か!」
「まあまあいいじゃないか。アイナ君が倉庫番なんてもったいないぞ。
そう思うだろ? インベント」
「そうですね~、アイナって剣凄いし」
マイペースロメロと、すっとぼけインベント。
(だ、だめだ! この二人が相手だとまともに会話が成立しねえ!)
アイナは変人ブラザーズの引力に飲み込まれそうになるが、どうにか脱出する方法を探した。
そして見つけた!
駐屯地補給班の隊長であるスピカ・ニアガラが通りかかったのだ。
スピカはアイナの上長にあたる。
「す、スピカ隊長ー!!」
呼ばれたスピカは「あらあら~アイナ~」とニコニコしながら応える。
「た、助けてください―!」
「あら~? どうしたの?」
「こ、このままじゃあ私、補給班にいれなくなっちゃうんですうー!」
泣きつくアイナ。
それに対しスピカは表情を崩さない。
「アイナ」
「す、スピカ隊長ぅ~」
「『陽剣』のロメロさんにお呼ばれされるなんて光栄なことじゃない」
アイナは「うぇ?」と変な声をだした。
(な、なんで知ってるの?)
「はっはっは、アイナ君。スピカ隊長にはもう話してあるよ」
「て、手が早えええなああああ! コンチクショウ!」
スピカはアイナの両肩に手を置いた。
そして「がんばりなさいね~アイナ」とほほ笑む。
「い、いや! そ、倉庫番の仕事は誰がやるんすか!? 補給班だって人手不足でしょ!?」
スピカは表情一つ変えず「アイナ」と語りかけるように言う。
そして――
「あなたは一か月も仕事から離れていたのよ?
あなたのポジションには新しい子がもう入っているわよ?」
「うぇええ!?」
「アイナと違ってサボらないし、いい子よ~」
アイナは思い知る。
しょせん森林警備隊も会社のようなものだ。
空いたポジションには誰かが入る。
アイナは膝を落とした。
アイナ・プリッツ。
ロメロ隊に強制入隊。
変人二人がつくる磁場に、アイナは捕まってしまいました。
アイナが翻弄されるのはまだまだこれからです(笑)
・面白かった
・続きが気になる
そんな方はブックマークと評価をお願いいたします。
※評価は広告の下の☆☆☆☆☆をポチっとするだけです!
毎日投稿がんばってますので、今後ともよろしくお願いいたします!