陵辱されるヒロイン
70話にしてヒロインの登場です!
時を少し遡り、二度目のロメロチャレンジまでの準備期間――
「アイナ。もう一つ用意して欲しいものがあるんだ」
「まだあんのかよ……。
はいはい。なんでも言いやがれコンチクショウ」
ニコニコ笑うインベント。
「小手が欲しいんだよね」
「小手なんてその辺にいくらでもあるじゃん」
小手はアイレド森林警備隊では割とポピュラーな装備だ。
総隊長のバンカースも小手を愛用している。
イング王国では地域によって戦い方のスタイルに違いがあるが、アイレドでは盾よりも小手を好む傾向にある。
「ちょっと重すぎるんだよね」
「筋トレしろ~筋トレ」
「まあ筋トレはわかるんだけど、ロメロチャレンジまでに間に合わないし」
「も~。どんな小手がいいのさ? かったる~」
インベントは絵にかいて欲しい小手を説明する。
イメージはモンブレ世界で何度も見ているのでバッチリだ。
「大事なのは色だよ。黒! とにかく黒く」
「相変わらず変なところにこだわるな。かったるいけどわかったよ。
これなら既存の小手を弄れば作れそうだし」
「ありがとう!」
そして数日後、インベントは手に入れた。
インベントがオーダーしたのは忍者小手だ。
黒を基調にしたデザインで、手の甲の部分には四角い鋼が取り付けられている。
「うほー! かっこいいね! 黒いね!」
「満足か~?」
「うん! これで新技が使えるようになるよ!」
「ほお~新技か。どんなのだ?」
「練習するから見にきてよ」
「ま、暇だしいっか」
アイナはバンカースからインベントのサポートをするように言われている。
インベントのサポートをしていることにすればサボリ放題なのだ。
(こりゃあ役得役得、にひひひひ)
**
「っていつまでやるんだよ!!」
朝から晩まで駐屯地の外れで練習をするインベント。
ロメロが帰ってくるまで残り七日。
アイナは新技をサクっと見せてもらえると思いきや、ひたすら練習するインベント。
「これ結構難しいんだよ。それに収納空間の調整が凄くシビアだし。
それに収納判定が中々よくわからないんだよね~」
「何度も何度も収納空間に腕つっこむだけじゃん!」
「まあねえ。腕というか忍者小手を収納したいんだけどね。
縮地は盾を収納するんだけどさあ~、どうしてもレスポンスがなあ~」
「相変わらずよくわからねえこと言いやがって……。
で? いつものなんだっけ? 縮地ってやつと何が違うんだよ?」
インベントと過ごす時間が増えたため、アイナはそれなりにインベントに詳しくなっている。
インベントはパアっと顔が明るくなった。
逆にアイナは「しまった」と思っている。
(これはかったるいパターンだ!)
そう思った時はもう遅い。
「縮地はさあ~、ピタっと三メートル先に止まるために盾を使うんだよね。
正確さが求められるから盾を使って、同じ力と同じ角度と同じ砂空間を押すのが大事なんだ。
ある意味完成されてるんだけど、縮地! 攻撃! 縮地! みたいな移動攻撃移動みたいな連続移動には向かないんだよね~。
どうしても盾を持たないといけないからさ~。
盾で攻撃するわけにもいかないし……そうすると持ち替える必要があるでしょ?
まあこれまではそれでも良かったんだけど、今回はあのロメロさんじゃない」
インベントが盾を出したり消したり、剣を出したりを繰り返す。
恐ろしい早業であり――
(アタシでなきゃ見逃しちゃうね)
なんてアイナは一ミリも思っていないが、注視しないとまるで盾が剣に化けたように見える。
「縮地がシュバッ!! って感じなら、今考えてるのはシュバババ! って感じ」
インベントが体を使ってやりたいことを伝えようとする。
アイナはインベントワールドをなんとか理解しつつ――
「ふ~ん。こんな感じか?」
アイナは落ちていた木剣を拾い、インベントに斬りかかる。
足の動きで二回、頭を振る動きで一回。合計三回のフェイントを挟みつつインベントの腹部に寸止めする。
まさに流麗な動き。小柄なアイナだからこそ可能な動きだ。
「お、おおお! かっこいい! そうそうシュバッバッバッバって感じ!」
「お前、剣の才能無いもんなあ~、へへへ」
「アイナは凄いよね。ロメロさん並みにセンスあるよねえ。
ん~、どうして――」
インベントは「後方支援やってるの?」と言おうとした時――
「はいは~い。インベント君は自分のことだけ考えましょうね~」
「う、うん」
兎にも角にも、インベントはとにかく忍者小手を、ズボズボと収納空間に入れまくった。
傍から見れば変な子だ。まあ見ているのはアイナだけなのだが。
収納空間に入らないものを入れようとすると反発力が発生する。
当初は、砂の入った空間に剣をぶっ刺すことで反発移動を緊急離脱用の技として使っていた。
ノルドから、「正確に三メートル移動しろ」と言われてからは盾を使い縮地をマスターした。
いずれも武器や盾のように手に持っているモノを収納することで発生する反発力を利用していた。
だが今度は身に着けている忍者小手を収納するフリをしなければならない。
収納空間にもしも感情があるのだとしたら――
(忍者小手って手袋みたいなもんでしょ? 収納対象じゃないじゃん!
え? 今回に限って? もうしかたないなあ……一回だけだよ? 特別だよ?
って一回だけって言ったじゃん!? 何回するつもりなのよお!!)
こんな気分であろう。
身に着けているものと手に持っているの差が、インベントを苦しめた。
……いや楽しませた。
(収納空間が、収納対象なのか手袋なのか何をもって判定しているんだろう?
うひひひ、これは調べ甲斐があるなあ~)
収納空間は悶え苦しんだ。
(や、やめてええ! 何度も入れたり出したりを繰り返さないでええ!!
わたしは収納空間なのよおー! 収納してえ! 収納するかしないかの微妙なラインを攻めないでええ!)
そんなことを思ったかどうかはわからないが、とにかく収納空間はズコバコされまくったわけだ。
取り外している忍者小手はもちろん収納できる。
だが、装着した忍者小手は収納できない。
境界線が不明だった。
結果トライアンドエラーを繰り返す。
収納される場合とされない場合の境界線を導く。
そしてインベントに収納空間の真理をまた一つ解明されてしまったのだ。
「なあ~るほどね」
装備品である忍者小手を、収納空間ちゃんに収納対象だと勘違いさせる方法は――
「ゲートに入れる瞬間に脱力していればいいみたいだよ! アイナ!」
「知らんがな」
手を入れる際に、脱力した状態にしておけば収納空間は忍者小手を収納対象として扱うことを突き止めた。
「多分、あまりにも体に密着している場合は装備品として扱い、あんまり密着していない場合は収納対象扱いするんだね!
その証拠にほら! ガッチガチに紐で忍者小手で縛り付けたら……ほらほら! 収納されない! 反発力も発生しない!」
「いや……だから知らんがな」
「盾もガッチガッチに腕に固定すれば……反発力が発生しないよ!
うほー! 凄いね! 楽しいね!!」
テンションが爆上がりするインベントに呆れながらも、アイナは相槌を打った。
(いつもは冷めてるのにたまにガキンチョみたいになるんだよな~。
ふああ~あ、相変わらず変なやつ。かったる~)
ロメロが戻ってくるまで寝る間を惜しんで新技の練習は続いた。
忍者小手の収納物判定の謎を解き明かしただけではまだ新技は未完成である。
収納空間から発生する反発力は、『収納空間ちゃん』からすればイレギュラー扱いであるため、使いこなすのが難しい。
やはり砂を敷き詰めた空間に、忍者小手を収納を繰り返す。
そして、ギリギリまでトライアンドエラーを積み重ねた結果――
忍者小手収納用の砂が敷き詰められた空間、アルファ空間とベータ空間が完成した。
もちろんアルファやベータなんて言葉の意味をインベントは知らない。
****
ロメロはウキウキしている。
何せインベントはロメロチャレンジの成功を一度放棄してまでロメロチャレンジに再度挑戦を申し込んできた。
勝算があるということだ。
(何が出てくるのかな~? 本当に楽しいな。こんなにワクワクしたのは何年ぶりだろうか)
インベントは少しだけ緊張している。
何せ新技を完成させるのに精一杯で練習する時間が足りなかったのだ。
(ま、なるようになるかな。
なんだろう……最近凄く調子がいいんだよね)
理由がわからないが好調だと感じているインベント。
ぶっつけ本番でも新技を使える自信があるのだ。
「それじゃあ行きますね」
「ふふふ、いつでもどうぞ」
インベントは両手首をグルグルと回す。
忍者小手を収納対象にするために、両腕を脱力させたのだ。
「忍法――――疾風迅雷の術」
メインヒロインは『収納空間ちゃん』です。
これからも弄ばれ続けます。あ~いやらしい。
ノクターン行きにならないように気を付けます!