オイルマン部隊①
森林警備隊は一小隊四~五人で構成される。
インベントはオイルマンが率いる部隊に所属することになった。
自己紹介は済ませており、本日が初任務である。
オイルマン隊はアイレドの町から少し離れた場所に移動していた。
「新人は少し待機!」とのことでインベントは、まだ見ぬモンスターを妄想しつつ待機している。
幸せな妄想タイム。だが――
「いや~前線希望してるのが一人じゃなくて安心したわ~!」
そんな中、インベントに対して饒舌に話しかけてくる男。
その名はラホイル・オラリア。
細い目と常ににやけた顔。軽薄そうな印象の男であり、印象にたがわず軽い男だ。
本年の新人20名の中で前線部隊を希望したのは三人。
一人はインベント・リアルト。もう一人は『神童』、ロゼ・サグラメント。
そして最後の一人がラホイルである。
「インベント君って、なんで森林警備隊になろうと思うたん?
あ、僕はね~、まあお金やね~。僕んとこ貧乏なんよ~」
一人で勝手に喋るので、インベントは適当に放置することにした。
ラホイルは一人話し続ける。
「森林警備隊ってなかなか儲かるでしょ?
特に前線はお給金ええからね~。僕ちょっとだけケンカ強かったんよ。
この仕事しかないわー! って思たんよ。
でもインベント君ってケンカ強そうなタイプに見えへんよね~。
あ~でも試験合格してるんやしやっぱ強いんやろうね~」
ラホイルに比べるとインベントの肉体は貧弱だ。
というよりも現状インベントは戦えるレベルの肉体ではない。
(ハア~。筋力アップは課題だな~。みんなと比べると俺だけ子供みたいだもんなあ)
インベントは収納空間の使い方ばかりに気を配っていたが、肉体強化も必要だと痛感している。
道具の使い方も大切だが、道具を扱う肉体の強化も必要だと感じていた。
「おい! お前たちうるさいぞ!」
オイルマン部隊長が吠えた。
「も、申し訳ございません!」
ラホイルがすぐに謝る。
インベントは一言も喋ってないのだが、仕方なく「すいません」と言った。
「ふん! 欠員が出たからと言って新入り二人も入れるのは割に合わん」
オイルマン部隊はインベントとラホイルを入れて六名体制となっている。
基本的には部隊は五名までだが、欠員がでたオイルマン部隊に新人二人が組み込まれた形だ。
二人で一人扱いというわけだ。
「ご、ごめんな~インベント君~」
ラホイルが申し訳なさそうに謝る。
インベントは苦笑いをしつつ――
(黙っててほしいなあ)
――と、溜息を吐いた。
**
「注目!!」
オイルマンが号令をかけた。
全員がすぐさま集合し、直立する。
インベントとラホイルも倣って同じように振舞った。
「今日から新入りを交えて、周辺探索を行う!
……今日はそうだな! 南西部の滝まで向かうぞ!」
部隊唯一の女性隊員であるレノアは「え?」と驚きの声を上げた。
男性隊員のドネルとケルバブはニヤニヤしている。
「新入りはとにかくついてこい! 以上!」
インベントは少し嫌な予感がした。
**
出発後、すぐに嫌な予感は的中した。
全員が物凄い速さで走り出したのだ。
インベントは少し油断していた。
男性隊員は筋骨隆々な感じなので走るのは速そうだと思っていたが、女性隊員のレノアも滅茶苦茶速いのだ。
そして同じ新人であるラホイルもかなり速い。
難なくベテラン隊員についていく。
(このままじゃ置いていかれる)
インベントもとにかく全力で走る。走るのだがこれでは確実にダメだとすぐに痛感した。
ただでさえ体力不足。そして森の中を走るのは慣れが必要。
このままでは確実に10分もせず部隊を見失うだろう。
(仕方ないな……あんまり使いたくないんだけど……)
インベントは反発移動を使うことにした。
反発移動は収納空間に入りきらないモノを入れた際に発生する反発力を利用した移動方法だ。
移動方法と言っても、反発移動には癖があり真っすぐ進むのは難しい。
開けた場所ならまだしも、森林地帯を進むときに使うと危険である。
(でも仕方ない。置き去りにされるよりはマシだ)
緊急回避用に収納空間の中に砂を入れている。
インベントは収納空間から剣を取り出し、中の砂を突く。
すると反発移動で身体が急速に加速する。
何度も反発移動を繰り返し、突き進む。
だが数回に一度木にぶつかったり、蹴躓いたりする。
(反発移動の練習しないと……。
というか体力アップは火急にやらないといけないな~)
と思いつつ、部隊に追いつくため必死に走るのだった。
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オイルマン視点
やるじゃねえか…………新人。
恒例の「地獄の森林マラソン」をクリアするとは思わなかったぜ。
疲労困憊にして森の中に放置すりゃあ、大抵のガキどもは従順になるんだけどな。
ラホイルのやつは子供っぽさが抜けてねえが、身体強化系のルーンだな。
走るのがとにかく速い。
恐らく駆けっこでもしたら俺たちの部隊で一二を争うだろう。
前線部隊ってのは素早く移動することが求められるからな。
思ったよりも向いてるかもしれねえな。このラホイルって男。
そんでもって意外なのはインベントだ。
すぐに音を上げると思っていたが、なんとかついてきやがった。
傷だらけになりつつもどうにか追いついてきた。
どうすりゃあ走るだけであんなに傷だらけになるのかはわかんねえがな……。
これは予想外だ。
なんで合格したのかわからねえぐらい細い……というか華奢って言っていいレベルだ。
だがバンカース総隊長が取り仕切っている入隊試験を合格したんだもんなあ……。
さすが、バンカース総隊長は見る目があるぜ。
しかし……これじゃあ森林警備隊の先輩としての威厳が保てねえな。
新人いびりをする気は無えが、序列をしっかり認識させることは大切だ。
う~ん……どうしたもんかな。
今日はキャンプをしつつ、新人二人に教育して帰るだけにしようかと思ったが……
もうちょっと森林警備隊の恐ろしさを教えてやるとするか。
「へへへ」