収納空間技能の無駄遣い(すべてはロマンのために)
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「いくでゴザルー!」
インベントは収納空間から丸めた紙屑のようなものを投げつけた。
ロメロは不思議に思いつつも、弾き飛ばそうとした。
だが、ロメロに届く前に、紙屑は解け紙吹雪状態になった。
「喰らえー! 火遁! 焔吹雪の術ー!!」
インベントは紙吹雪に向けて火がついた松明を投げつけた。
松明の炎は紙吹雪を燃やし――
「うおお!?」
紙が一気に引火し、ロメロの前で燃え上がる。
発火性の高い綿花を混ぜて作られた、主に祭事などで使われる紙。
ダメージは無いが、さすがにロメロも驚いた。
インベントは「にんにんー!」と言いながら接近する。
縮地を使用せず通常スピードで幽結界に侵入。
当然ロメロは結界内から追い出すように剣を振う。
ロメロの木剣は捉えた。手ごたえあり。
だがインベントかと思いきや――
「む!?」
丸太である。
「木遁!! 変わり身の術ー!」
インベントは幽結界に入った瞬間に、丸太を瞬時に出した。
丸太を出す速度も上がっている。
だがリスクを冒してまで変わり身を決行する必要はない。
ロメロの攻撃スピードに対し、どれだけ素早く丸太を出したとしても成功確率は五分五分といったところだろう。
単に木遁がやりたかったのである。
この戦い唯一のギャラリーであるアイナは、目の前で起きている状況が理解出来ずにいた。
「な、なんだこの戦い……」
インベントが空を飛べるのはアイレド森林警備隊の中では有名である。
空を飛ぶだけでも異常事態である。
だが、忍者スタイルのインベントの戦い方は、一気に常人離れしてしまった。
空中でいとも簡単に移動。
そして火を使い、木に入れ替わる。
誰も見たことも考えたこともない戦い方。
当然である。
インベントの戦い方は、モンブレの世界からインスパイアされているからだ。
本来なら雷遁や水遁もやりたいのだが、さすがに雷を出すことはできないし、水で攻撃するのは難しい。
だからどうにか実行できそうだった火遁と木遁を繰り出しているのだ。
「ハッハッハ! 面白いけど……それは曲芸だぞ?」
「まだまだあ!!」
インベントは鍛冶屋に無理をいって作らせたものがある。
それは――手裏剣だ。
「にんにんー!」
手裏剣を投げる。
だが、明後日の方向に飛んでいきロメロには届かなかった。
「ふふ。剣を振ったり、武器を投げるのはまだまだだな。
ははは、少しお粗末すぎるんじゃないかな~? インベント君」
「く……だけど――!!」
インベントは両手を合わせ忍者ポーズをとる。
インベントはどうしてもやりたかった忍術がある。
炎で燃えた手裏剣を投げたかったのだ。
なぜならカッコいいから。それだけだ。
手裏剣に油を塗り火をつけることで燃える手裏剣『焔手裏剣』を作ることはできる。だが持てないし投げることもできない。
だが『焔手裏剣』を収納空間に入れることは可能だ。
そして収納空間内に収納しているモノは同じ状態を維持する。
暖かい食べ物は暖かいまま。冷たい飲み物は冷えたまま。
『焔手裏剣』も炎を維持したまま収納空間に入れることはできる。
あとは飛ばすだけだ。だが手で持てない。
だったら収納空間からそのまま飛ばしてしまえばいい。
収納空間は二メートルの立方体。
収納空間の端に収納すれば、収納空間内に二メートル分の発射距離を用意することができる。
収納『空間』から『投射』する『砲』。
インベントはこの技術を『空間投射砲』と名付けた。
もちろんモンブレからパクっているし、電磁投射砲とも全く関連が無い。
そんなことはどうでもいいのだ。カッコよさが全て。
(『空間投射砲』に『焔手裏剣』装填!!)
収納空間内を『焔手裏剣』が高速移動する。
収納空間内で物体を動かすことができる人はほとんどいない。収納するだけなら不要な技術だからだ。
そして高速で動かすとなると、インベントでもかなりの集中力が必要。
さらに相手に向けてゲートを開くのも集中力が必要だ。
ある意味、『空間投射砲』はインベントの技能の集大成といってもいい。
「いけえ! 火遁! 焔手裏剣!!」
焔手裏剣がロメロにめがけて発射された。
燃える手裏剣はロマンの詰まったおしゃれかつカッコいい技だ。
「ほほおー! これは凄いな!」
ロメロは驚いている。
燃えている手裏剣なんて金輪際、ロメロは見ることは無いだろう。
だが、所詮ただの手裏剣である。
スピードも『空間投射砲』にしては速いのだが、投げたのと同レベル。
結果、燃える手裏剣をロメロはいとも簡単にはたき落とした。
ロメロに届くはずもない。
だがインベントは満足している。
忍術を使えたことに満足している。
(う~んカッコいいな! これはこれでいい)
「アイツ……何がしたいんだ?」
アイナは呆れていた。
焔手裏剣がカッコいいのは認めつつも、ふざけているようにしか見えないからだ。
というよりもアイナとインベントは事前に作戦会議をしていたが、火遁や木遁に関しては一言も話していなかった。
「ふふふ。手品はもう終わりかな?」
「まあ、ここまでは序の口ですよ」
なぜインベントが『焔手裏剣』にこだわったのか?
その理由はロメロが【太陽】のルーンを持っているからである。
ロメロチャレンジ中は【太陽】を使わないルールだ。
フルアーマースタイルは【太陽】を使わないロメロを仮想敵として考案したスタイル。
だが【太陽】のルーンで強化した剣は防御不可の攻撃となる。
フルアーマーだろうが大盾だろうがなんでも斬り刻める。
インベントは【太陽】有りの本気バージョンのロメロを倒すためにどうすればよいか考えた。
インベントが導いた一つの答えが遠距離攻撃である。
幽結界と【太陽】のルーンがあるロメロに対し、接近戦はどう頑張っても分が悪い。
一撃でも喰らえば即終了のクソゲー。
よって考えたのが遠距離攻撃である忍術である。
だが――
(モンブレの世界レベルの遠距離技が使えれば、ロメロさんでも倒せると思うけど、俺の考案した忍術では無理だな)
モンブレの世界にはライトニングボウガンという凄まじく強力なボウガンがある。
巨大モンスターに大ダメージを与えれる代物なのだが、この世界にそんな強力な遠距離武器は無い。
弓でさえまともに扱えないインベントには、焔手裏剣が精いっぱいなのだ。
「ここからは……本当に本気でいきますね」
「ほ~う。それは楽しみだ」
インベントがもう一つロメロを倒すために考案したのが、縮地の進化だ。
縮地は収納空間から発生する反発力を利用する移動法であり、反発移動を洗練した技である。
モーションの起こりがわかりにくく、瞬間的なスピードも速い。
眼で追うことができないほどの速さ。結果、ゲームでいうところの『無敵時間』を得られたと思っていたインベント。
だが幽結界を持つロメロ相手では縮地の『無敵時間』はなくなってしまった。
どれだけ早く動いても、ロメロは幽結界内に侵入した瞬間に反応し、反応後恐ろしい速さで対応することもできる。
(三連縮地は多少なりともロメロさんの反応を遅らせることができた。
だけど移動と攻撃の繋ぎが甘いから一本取るには至らない。が――方向性は悪くない)
ダメ元での遠距離攻撃の時間は終わりである。
インベントは新技いや――新忍術を披露する。
次回、急遽ヒロインが登場?
初登場で凌辱されちゃいます。
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