おかわりロメロチャレンジ
五章スタートです!
『宵蛇』がアイレドを去り、15日後ロメロだけがアイレドに戻ってくる。
つまり『おかわりロメロチャレンジ』には15日間猶予がある。
「で、どうすんの?」
「ん? 何が?」
「甲冑以外で『陽剣』を倒すんだろ!? どうやるつもりなんだよ!?
あのロメロってやつはニコニコしててとんでもないバケモンだぞ?」
アイナはせっかくロメロチャレンジに成功したのに、なぜか『おかわり』してしまったインベントに呆れつつ怒っている。
「うん。そうだね」
「せっかく甲冑で倒したのに……なんで再戦なんかにしちゃうかねえ!」
「ハハハ。だって【太陽】だと甲冑も斬れちゃうからね。
フルアーマースタイルは、【太陽】を使わないことを前提にしたロメロチャレンジ専用のスタイルだよ。
あれじゃあ勝ったとは言えないよ」
「ハア……もういいよ。オバカちゃんの考えはよくわからん。
で? なんか作戦はあるのかよ?」
「あるよ~。てことでアイナには色々と準備して欲しいんだ」
「まあいいけどさ~。
バンカース総隊長に『インベントのサポートを頼む』って言われてっからな」
「あはは。ありがとう」
「で、何が欲しいんだよ?」
インベントはロメロチャレンジに再チャレンジするための準備を進める。
インベントの頭の中は、ロメロチャレンジをどうやってクリアするかで一杯だった。
それもフルアーマースタイルを捨てて。
(一撃でも喰らっちゃあ負けだ。即死系攻撃だと思わないとね。
即死系なのに……あんなに速いなんて……うふふ~面白いなあ)
インベント・リアルトはモンスター狩り以外興味が無い男の子だ。
それは今も変わらない。
だが、今はロメロチャレンジに夢中である。
理由はロメロというバケモノがインベントにとってはモンスター扱いになっているからだ。
ヒトではない。ヒト型モンスターだと無意識にインベントは認識している。
****
ロメロは約束通り15日後、インベントの元にやってきた。
「さあ、やろうか!」
本来なら自由に動き回ってはいけない人物なのだが、ちょっと一杯飲みに来る感じでやってきたロメロ。
「あ、お待ちしてましたー! 今日でいいんですか?
お疲れでしたら明日でもいいですけど……」
「善は急げだ!」
「了解です! ちょっと準備するので――」
「だったらいつもの場所で待ってる!」
「はーい!」
インベントは急いでアイナの元に向かった。
**
「アイナ! ロメロさん来た! 装備装備!」
『はいはい~、かったる~』
気怠そうに念話で話しつつ、用意してあった装備を渡すアイナ。
おかわりロメロチャレンジのために衣装を準備したのだ。
もちろん衣装を着たから強くなるわけではない。
だがフルアーマーXXスタイルに味を占めたインベント。
戦い方を変えるからには衣装も変えることにしたのだ。
アイナの前ですぐに着替えようとするインベント。女の子の前? 気にしない。
『ちょ、ちょっと待ちい! き、着ていくのか?』
「もっちろん!」
『いや……それはそのお~』
アイナは「恥ずかしくね?」と言いたいのだが、インベントは用意した服装を大変気に入っている。
試作段階の衣装を見せたとき「めちゃくちゃカッコイイね! さすがアイナ!」なんて言われたので、言い難いのだ。
インベントはすぐに着替え、必要な武器を収納空間に入れた。
準備万端である。
「それじゃあ行ってくる!」
「あ、あ~。しゃあないしアタシも行くか……」
お着替えが完了したインベントが駐屯地を走る。
インベントの独特な衣装に他の隊員たちはザワザワしているが、そんなの関係無い。
アイナは少し距離を取ってついていく。
関係者だと思われたくないからだ。
**
「お待たせしました!!」
意気揚々とやってきたインベントを見て、ロメロは口をあんぐりと開けた。
「な、なんだその恰好??」
「えへへー! カッコいいでしょう!」
全身真っ黒な服装。
両腕には忍者小手。
そして足袋。
この世界に足袋なんて無いのだが、インベントはアイナにお願いしてオーダーメイドで作らせたのだ。
そう――この格好は、忍者である。
「奇抜だな。ふふふ面白いなあ相変わらず」
ロメロは大抵のことでは動じないが、さすがに異様すぎる装備に驚いている。
「すんません……うちの子がご迷惑を」
アイナはオーダー通り準備したが、なぜこんな格好なのか皆目見当がつかない。
そもそもこの世界に忍者はいない。
インベントの頭の中にあるモンブレの世界の忍者を出来る限り再現したのだ。
「いや、オセラシアにはこういうヒラヒラした衣装がある。
オセラシア風の着物って感じか」
インベントからすれば『モンブレ風』なのだが、あえて口は挟まない。
「さあ! やりましょう! チャレンジ再開です!」
「ああ! いつでも構わないよ」
インベントはニコニコしている。
(最近……凄~く調子がいいんだよな。
イメージしてたことが、思い通りに出来る感覚なんだ)
インベントは合図代わりに苦無……に見立てた黒塗りのナイフを取り出した。
ちなみに自作である。
「いくで……ゴザル!」
インベントは苦無を投げた。
ロメロは目にも止まらぬ早業で弾き飛ばす。
インベントは反発移動を使い一気に間合いを詰めた。
昔のように制御不能な反発移動ではない。
縮地を酷使した結果、収納空間から発生する反発力を制御する能力は格段に向上している。
ほぼ思ったとおりに直進することができるようになった。
そして幽結界に侵入する一歩手前で縮地を使った。
忍者という真っ黒な塊がロメロに迫る。
だが反発移動の精度が向上したとしてもロメロを驚かすほどではない。
縮地に関しても何度も何度も見ている。
インベントが幽結界に慣れているのと同様に、ロメロも縮地に慣れているのだ。
つまりインベントのスピードが多少速くなったところでどうということは――――
「む!?」
インベントは縮地を使う。だが幽結界のギリギリ入らない右側に高速移動。
続けて再度縮地を使う。
だが方向はロメロの真上だ。ここでも幽結界には侵入していない。
もはや縮『地』では無いのだが、名前の由来も知らないインベントは気にしない。
更に縮地を使い、ロメロの背後に。
つまり反発移動で幽結界の一歩手前まで接近。
一回目の縮地で右側に移動。
二回目の縮地でロメロの頭上に移動。
そして三回目の縮地を使い、ロメロの背後に着地。
三回目の縮地で初めて幽結界に侵入した。
(――三連縮地)
すぐさまロメロの背後から攻撃するインベント――だが。
「あ、やば」
インベントの攻撃のほうがやや遅い。
ロメロは攻撃モーションに入っており、インベントの攻撃は間に合わない。
攻撃を反発移動に切り替え緊急回避する。
ロメロの攻撃はインベントの小手を掠めた。
小手を掠っただけでも、ロメロの攻撃の重さが伝わってくる。
例え木剣だとしても人を殺せる技能が、ロメロにはある。
「……凄いな」
ロメロは素直に感想を述べた。
「いやあ……今のも失敗ですね。当たったら負けですからねえ。
やっぱりロメロさんは凄いや」
「ふふふ。【太陽】だからか?
まあ……今のタイミングだったら【太陽】は使えなかった気もするがな」
インベントもロメロも非常に楽しそうである。
ちなみにインベントとロメロには似た点がある。
それは嘘やおべっかが苦手な事だ。
逆に言えば、彼らの発言は真実しか含んでいない。
「しかしまあ……フルプレートじゃないインベント君とは久しぶりに戦ったが、こんなに動きが良かったかな?」
「ふふふ、忍者ですからね!」
ロメロは別人のように動きが良くなっているインベントに驚いている。
そもそも忍術スタイルはアイナのアドバイスでフルアーマースタイルを考案する前に考えていたスタイルである。
スピードと忍術で翻弄するスタイル。
「移動から移動の繋ぎが圧倒的だな。人間の動きじゃないぞインベント君」
そう言ってロメロは剣を構えながら笑う。ロメロは非常に嬉しそうである。
基本的にロメロは剣を構えたりしない。
構えるだけの価値がインベントの動きにはあったのだ。
「だが攻撃の動きはまだまだってところかな」
「剣術は課題ですからねえ……でも!」
インベントは両手で忍者ポーズを作り「にんにん!」と言う。
「ここからは忍者の本領発揮しますよ~!」