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ノルドのポエム

 『宵蛇よいばみ』に入隊の決まったロゼは、レイシンガー同行のもとバンカースとメイヤースにのみ報告を行なった。


 アイレド森林警備隊の隊員から『宵蛇よいばみ』に入隊が決まったことは喜ばしいニュースなのだが、公表はしないように口止めした。



 報告終わりの帰り道にて――


「なんだ~? 不服か? 目立ちたがりだもんなあ」


「そ、そんなことはありません」


「へ! どうだかな~、まあいいけどよ」


 ロゼは『宵蛇よいばみ』に仮入隊のような状態だ。

 正式に入隊するまで、大々的に公表させない方針である。


「ねえ。兄さん」


「あ? なんだ」


「その……『宵蛇よいばみ』の入隊って兄さんが推薦してくれたのよね?」


「ん? あ~~まあな」


 トントン拍子の展開で『宵蛇よいばみ』入隊が決まったロゼ。

 喜ばしい出来事なのだが、心の整理はできていない。

 特にレイシンガーの変貌ぶりには、ロゼはいまだ困惑している。


 ロゼは聞いてみることにした。


「ねえ。兄さんはどうして私を推薦してくれたの?」


「あ? どうしてって言われても説明しにくいな。

 てか元々アイレドで誰か一人を入隊させることは決まっていたからな」


「え? き、決まっていたってどういうことよ!?」


「アイレド到着前に隊長が、『アイレドで一名隊員が増える気がするな』って言ってたからな」


 レイシンガーが言った『隊長』とはデリータのことを指す。


「た、隊長が?」


 ロゼはホムラ隊長だと勘違いした。

 レイシンガーは気づいていたが、説明も面倒だし面白いので勘違いをそのまま放置した。


「ま、追々わかることだから教えてやるよ。

 隊長の予知ってのはほぼ当たる。だから『宵蛇よいばみ』に入るのはお前だと思ってた」


「そ、そうなのね」


「だがよお~、ロメロ副隊長がインベントちゃんをえらい気にいってただろ?

 このままじゃあインベントちゃんが『宵蛇よいばみ』に入っちまうかもしれなかった。

 まあ俺はどっちでも良かったんだけどよ」


「ふ、二人とも『宵蛇よいばみ』に入隊する可能性はなかったの?」


「それは無えよ。隊長が『一人』って言ってんだから一人で確定だ。

 本命インベント、対抗ロゼって状況だったわけだ」


「そ、そうなのね」


「ま、可愛い妹分が『宵蛇よいばみ』に入りたがってるのは見てわかった。

 優しい兄貴分としては協力してやりたいだろ?

 だからちょ~と可愛がってあげたわけよ」


「なにがちょっとよ……」


 ロゼは治っているが少し痛みが残る折れていた肋骨を擦った。


「しゃあ~ねえだろうが。なにせ本命のインベントちゃんは空を飛べちゃうんだぜ?

 対抗のお前は甘さの残るガキンチョ。本命に勝つには無理やり成長させるしかねえだろ?」


「それがあの酷い仕打ちだと?」


「酷かったか? なんだ、やさし~く手ほどきされたかったか?」


 ロゼは渋い顔をした。

 ロゼもわかっている。

 褒められた方法ではないが、レイシンガーのやり方はロゼを成長させるためには最善だったことを。


「今後のために教えておいてやるぜ。

 【束縛ニイド】のルーンは特殊だ。感情面がモロに反映される。

 怒りでも悲しみでもなんでもいいがとにかく強い感情が、【束縛ニイド】の力を引き出す鍵だ。

 ま、お前にピッタリなのは殺意だったみたいだけどな。怖え怖え」


 死ね死ねガールだった時の記憶が甦り、少し気恥ずかしくなるロゼ。


「とまあこんな感じだけどよ。

 話は変わるが、いいのか? インベントちゃんに会っていかなくて」


「……いいのよ。手紙書いたし」


「ほ~ん。ま、いいけどよ」



****


──────────────────────────

 インベント


 ご挨拶にいくタイミングが無かったから手紙で失礼するわね。

 私、宵蛇に入隊することが決まりました。


 ノルド隊は刺激的で楽しかったわ。

 またいつか隊を組みましょうね。


 ロゼ


 ※この手紙は誰にも見せちゃだめですからね!

──────────────────────────


 シンプルな手紙がインベントに届いた。


 ロゼが『宵蛇よいばみ』に憧れていたことはなんとなく知っていたインベント。

 そんなロゼが『宵蛇よいばみ』に入隊が決まった。


 短い間だったが、ロゼとは同じ隊で切磋琢磨した仲である。

 それにしてはいささか素っ気ない手紙にも思える。

 直接なにか言いにきてもよいのではないか?


 な~んて思うのは一般的な感覚である。


(ふ~ん。そっか)


 インベントは手紙を折りたたみ、収納空間に入れた。

 インベントにとっては些細な出来事である。


 インベントはそれほど興味が無いだろうと思い、ロゼは簡単な手紙で挨拶することにしたのだ。


「あー、しまったなあ」


 ロゼからの手紙を受け取ったことで、インベントはふと思い出した。


「ノルドさんからロゼに伝えてくれって言われてたんだった……どうしようかな……」


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの最後っ屁の炎を浴びた後、インベントは瀕死状態になった。

 その後、ノルドは自らが犠牲となることを決意し、人生最期のつもりで言葉を贈った。

 その中にはロゼに向けた言葉もあった。


「うう~ん……どうしようかなあ」


 インベントがロメロチャレンジに参加している間、ロゼはレイシンガーチャレンジに参加していた。

 つまり二人は一度も出会っていないのだ。

 そして手紙でのお別れ。


 ノルドの最期の言葉。

 一般的な感覚なら、無理をしてでも伝えるべき言葉である。


「ま、いっか!」


 やはりインベントにとっては些細なことだった。


 まあ……実際のところノルドは生きている。

 インベントは知らないが生きているのだ。


 死を覚悟したノルドが残したメッセージなので多少ポエミーだ。

 ポエミーな言葉は、死んだからこそ許される。

 逆に生きていたら黒歴史にもなりかねないポエム。


 ある意味、ノルドはインベントのお陰で助かったのだ。


**


「ああ~。ラホイルには言わないとなあ」


 ずっと忘れていたが思い出してしまったので仕方がない。

 インベントはノルドの言葉をラホイルに伝えることにした。


 一旦ロメロチャレンジが終わり、ロメロがアイレドに戻るまで猶予がある。

 そして今、インベントはアイレドの町にいる。


 森林警備隊の本部に向かい、ラホイルの居場所を聞いたうえで近くにいれば伝えようと決めた。

 逆に言えばラホイルに会うのが難しそうであれば、ノルドの言葉はお蔵入りである。


**


「あ~ラホイル~」


 偶然、今日は非番だったラホイル。

 訓練場にラホイルがいると聞いて会いにきたのだ。


 ラホイルはぼーっとしていたが、インベントに声をかけられ顔がひきつっている。


「い、インベント……やん」


「久しぶり~」


「せ、せやな」


 ラホイルはインベントを避けていた。

 というよりもノルド隊の三名を避けていたのだ。


 ノルド隊に同行した際に、恐怖を植え付けられたラホイル。

 その後、任務中に足が震えるようになりマイダス隊を辞めた。


 実は今、前線部隊から周辺警備部隊に異動している。

 周辺警備は町の周辺の安全を護る仕事であり、前線部隊に比べれば非常に安全だ。


 つまりラホイルは前線が怖くなり逃げたのだ。

 

「ど、どないしたんや?」


「うん、ノルドさんから伝言」


「え!?」


 ラホイルはビクリとした。


(な、なんで俺に伝言? こ、怖いで。なんやねん)


 ラホイルはノルドが死んだことを知らない。

 いや、正確に言えばノルドは実は生きているんだけど、死んだことになっていることを知らない。


 森林警備隊では年に数人死亡する。

 だが大々的に公表しないのが伝統だ。

 身内や近しい人物にのみ伝えられる。


 よってノルドに関してラホイルが知らないのは当然のことなのだ。


「それじゃあ言うね~」


 ラホイルの動揺なんて気にもせず、インベントは淡々と話を続けようとした。


「ちょ、ちょい待てや!」


「ん?」


「な、なんで隊長さんが俺のことなんて気にかけんねん。

 あ、さてはあれやな? マイダス隊長になんか言われたんやろ!」


「マイダス隊長?」


 インベントは当然、マイダス隊長を忘れている。

 顔を見ても思い出せないレベルに忘れている。


「お、お、落ちこぼれの俺をどうにか元気づけようとしとんねやろ!?

 わかっとんねん! でも放っておいてくれや!」


 なにを言っているのかわからずチンプンカンプンなインベント。

 インベントは「なんのこと?」と言おうとするが――


「わかっとるねん。新人のくせに初日から大怪我した俺をみんな気使ってくれとるんやろ?

 甘やかしてくれてんのわかってるちゅーねん!」


「え~っと……じゃあ言わなくていいんだね?」


 ラホイルは少し困り顔だ。


(そこは、「そんなことないよー! ラホイルは頑張ってるよー!」とか言うとこちゃうんかいな。

 まあインベントは天然ちゃんやからなあ)


 天然――というよりは心の底から興味がないのだ。


 インベントは「それじゃあ帰ろうかな」と言おうとした時、ラホイルは遮るように――


「ま、まあ! せっかくやし聞いたるわ!

 隊長さんの言葉を聞かないなんて後々問題になるかもしれんしなあ~」


「そう?」


 インベントはあの時の状況を思い出しつつ――


「え~っとねえ……なんだったかな。

 『ラホイル、お前には眠れる才能がある。ダイヤの原石だ。磨け。

  願わくは俺の遺志を継いで、アイレドを護る獅子になれ』――だったかな」


 ラホイルはポカーンとしている。

 そして――


「ちょ、もう一回言うてくれるう?」


「え? うん。

 『ラホイル、お前には眠れる才能がある。ダイヤの原石だ。磨け。

  願わくば俺の遺志を継いで、アイレドを護る獅子になれ』」


 恥ずかしげも無く言うインベント。

 逆にそれが――


「ぶ、ぶふふふ! な、なんやねんそれ! ぽ、ぽえみーすぎるで」


「え?」


「の、ノルド隊長、めちゃおもろいやん!

 ちょ、真顔でポエムやめてーや! ぶはははは!」


 インベントはラホイルが楽しそうで何よりだと思った。


 こうしてノルドのポエミーなメッセージはポエミーなまま伝わってしまった。



****


 後日、ノルドが死んだことをラホイルは知る。


 そして大粒の涙を流しながら――


「お、オレ! もっと努力しまずぅ!!

 アイレドを護れる男になりまずうううう!!」


 と泣きながら再起を誓った。



 いや、ノルド死んでないけどね。

四章完結です!


インベントメインの展開に戻ります。

感想、誤字報告、その他諸々全てありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >願わくは俺の遺志を継いで、アイレドを護る獅子になれ』――だったかな」 >願わくば俺の意思を継いで、アイレドを護る獅子になれ』」 死を覚悟してのセリフだから「遺志」が正しいのでしょう…
[良い点] さらりと読めるのに深みがあって、面白いです。応援してます!
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