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幕間 サグラメント孤児院の兄妹喧嘩③ おめでとう! ロゼは死ね死ねガールに進化した!

 ロゼは右手を突き出す。と同時に触手がレイシンガーの首に伸びる。


「ハッ!」


 レイシンガーの触手が暴力的にロゼの触手を薙ぎ払う。

 だが――


「死ね! ――死ね!」


 吹き飛ばされた触手が、再度レイシンガーに向かっていく。


「ほほ~う?」


 再度吹き飛ばすが、それでもロゼの触手は諦めない。

 ロゼの触手にもロゼの殺意が乗り移っているかのように。


 何度も触手同士の攻防が繰り返される。


 そして――


(今!)


 レイシンガーの触手が振り払われた瞬間に、ロゼは全速力で走る。

 レイシンガーは短剣以外に武器は持っていない。

 近接戦であればロゼに勝機がある。だが――


「浅は~か」


 レイシンガーは冷静にロゼの動きを観察し、触手で攻撃してこようとした瞬間――


「ボケが!」


 レイシンガーはロゼの身体目掛けて触手を振り払う。

 レイシンガーはロゼの接近を許さない。

 触手は本体から離れれば離れるほど弱っていく。

 ロゼ本人を寄せ付けなければ触手はそれほど怖くないのだ。


 これまでもロゼは何度もトライしてきたが、全てが失敗に終わっている。


 だが今回は違った。


(な? なんだ?)


 ロゼは防御しない。

 レイシンガーの攻撃をモロに受け止めた。

 だが殺意に満ちた双眸はレイシンガーを一瞬たりとも逃しはしない。


「ぐふ」


 ロゼは衝撃で軽く吐血する。だがそんなことはロゼにとってどうということはない。

 守備や回避に気を回して攻める機会を失うぐらいなら、いっそ守備など捨ててしまったのだ。


 対するレイシンガーは驚いている。


 守備を捨てたことに?

 確かに守備を捨てたことにも驚いているが、何より――


(吹き飛ばねえ!? なんだ!?)


 思い切り触手で吹き飛ばしたのに、ロゼの身体はその場に留まっている。


 なぜならロゼは触手を周囲の木々に巻きつけ自分自身の身体を固定していた。

 まるで縛りつけられているようだが、実際は自らを拘束しているのだ。


 結果、レイシンガーからの攻撃によるダメージは倍増する。

 何せ身体を固定すればダメージの逃げ場が無いからだ。


 だがそんなことはどうでもよかった。


(間合いはあちらのほうが上! 間合いに侵入する技術も無い!

 だったら自分を犠牲にしてでも踏み込むしかない!)


 全てはレイシンガーを殺すために。


「死ね!」


 右手をレイシンガーに向けて突き出す。

 間髪容れず五本の触手がレイシンガーに迫る。



「チイ!」


 ロゼの触手を思い切り吹き飛ばすが、それでも執拗に迫ってくる。


 そして――たった一本だけだがロゼの触手がレイシンガーの手首に絡みついた。


「クソが! 尾旋びせん!!」


 レイシンガー本気の攻撃がロゼを叩き飛ばす。

 いや飛ばすはずなのだが――


(ふ、吹き飛ばねえ……。体を完全に固定してやがる!)


 周囲の木々に絡みつく触手や、攻撃用の触手。

 ロゼの触手の数は優に20本を超えている。


 触手がロゼを後退させない。

 そしてロゼの殺意も消えない。


(や、やべえな……。これ以上やるとコイツ死ぬぞ?)


 現在、ロゼの肋骨二本、右前腕部の骨が折れている。

 裂傷、打撲多数。


 殺し合いであればそのまま撲殺すればいい。

 だがレイシンガーはロゼを殺すわけにはいかない状況。


 これ以上ロゼ本体を攻撃すれば本当に殺してしまう可能性がある。死を代償にしたロゼの特攻。


 打つ手がないレイシンガーはやむなく逃げを選択した。


 右手に巻き付く触手を斬り離脱しようとする。

 だが――触手はレイシンガーのナイフを巧みに避ける。


「や、やべ! き、斬れねえ!?」


 レイシンガー。

 触手での戦いは圧倒的であるが、ナイフのセンスはゼロである。

 インベントといい勝負だ。



「死ね。死ね。死ね。死ね――」


 ロゼの触手がレイシンガーに巻き付いていく。

 レイシンガーの自由を奪い、そして首に巻き付いていく。


「ちょ、ちょちょ~! やべえやべえ!」


 慌てるレイシンガー。


「し! ね!」


 死ね死ねガールとなり果てたロゼ。


 思い切り触手を締めあげた。




「もういいだろう――」


 ロゼの触手を美しい一閃が斬り裂いた。

 青白く燃える炎を纏った剣。


 表向きは『宵蛇よいばみ』の隊長であるホムラ・ゲンジョウ。

 ホムラはロゼの前に立ちはだかった。


「もう十分だろう。ロゼさんの力はわかったし、レイシンガーはレイシンガーでやりすぎだ」


 軽く首を絞められたレイシンガーはむせている。


 ホムラはロゼをなだめようとするが、ロゼは殺意を抑えることができる状況ではない。


「どきなさいよ! そいつは殺す!」


「ハア……落ち着け。ロゼ・サグラメント」


 殺意の衝動に飲まれそうになりながらも、なんとか理性が働く。


 目の前のホムラは関係が無い。

 殺すのはホムラの奥にいるレイシンガーただ一人。


「死――――ね!!」


 ロゼは全ての触手を一旦体の中に戻し、両腕から10本の触手を伸ばした。

 ホムラを避け、触手はレイシンガーに迫る。


 だが――


「落ち着けと言っている」


 ホムラは剣に纏っていた炎を伸ばし、炎の太刀で触手を斬り裂いた。


 『宵蛇よいばみ』二代目隊長、炎天狗えんてんぐホムラ・ゲンジョウ。


 ホムラは【カノ】のルーンを持つ。

 【カノ】は燃えない炎。周囲を照らす以外に使い道はあまりない。

 だが紅蓮蜥蜴ファイアドレークのように攻撃に使えるようになれば、相手の幽力を削る力がある。


 【カノ】を戦闘利用できるまで鍛えるのは並々ならない努力が必要だ。


 炎を自在に操るホムラは天才であり、表向きの隊長職ではあるものの『宵蛇よいばみ』の隊長を担う十分な器である。


霧灯火むとうか


 密度の薄い炎がロゼに纏わりつく。

 立っているのがやっとの状況のロゼに炎から逃げる術は無かった。


 じわじわと力が抜けていくロゼは、その場にへたり込んだ。

 そして糸ならぬ触手が切れた人形のように倒れ、意識を失った。



****


 医務室で起き上がるロゼ。


「ど、どこ!?」


「ここは医務室だ」


 ホムラが目の前にいる。

 ホムラの横には、『宵蛇よいばみ』の回復担当ケア・ルーガがいる。


 そして更に後方にはレイシンガーが座っていた。


「調子はどうだ? 腕と肋骨が折れていたから重点的に治させた。

 他にもどこか違和感があれば言いたまえ。ケアが全て治してくれる」


「は、はあ」


 事態が掴めないロゼ。


「すまなかったな。君のことはレイに任せていたんだが、レイの暴走は過ぎた行為だったな」


「いや、あれぐらいやんねえと……」


「うるさいぞ、レイ」


「へ、へ~い……」


 レイシンガーはバツが悪そうに黙った。


「まあ、ロゼ。君も君で無茶をし過ぎだ。

 あんな戦い方をすれば命がいくつあっても足りない。

 まったく……同じ孤児院どうしで何をやってるんだか……」


 ホムラが何故全ての事情を知っているのかわからず、困惑するロゼ。

 とりあえず「すみません」と謝った。


「レイ曰く、『ロゼには必要なこと』とのことだったから容認したが……まあいい。

 おい、レイ!」


「は、はーい!」


「レイシンガーチャレンジとやらは成功でいいんだな?」


「ええ! 問題ございませーん!」


 軽薄な敬礼にホムラは舌打ちした。


「ということだ。ロゼ」


「は、はあ」


 レイシンガーチャレンジに成功した暁にはロメロチャレンジに推薦する約束だった。

 だが――


「ロゼ。君は『宵蛇よいばみ』の入隊を望むか?」


 あいだが抜けている。ロメロチャレンジはどこにいったのか?

 ロゼは「え?」と首を傾げた。


 ホムラは再度『宵蛇よいばみ』の入隊意思を確認した。

 それに対しロゼは――「勿論です」と答えた。


「よし。それでは『宵蛇よいばみ』の入隊を認める」


 ロゼは全身がゾワリとした。


「にゅ、入隊?」


「そうだ。不服か?」


 首をブンブンとふるロゼ。


「元々レイシンガーはお前の入隊を推薦していた。

 あんなバカだが、君のことは買っているんだ。だからこその喧嘩腰だったんだよ。

 今後に禍根は残さんように頼むぞ」


 ゲラゲラ笑うレイシンガー。

 意味がわからないロゼ。


「赤いほうのドレークちゃんの死体は見た。

 あのデケエお口を封じられるんだ。実力的には問題ねえと思ったのよ。

 後は……ちょっとばかし教育してやればいいかなってな」


 ロゼは殺したかったと思っていた男が、昔の「レイ兄さん」と呼んでいたころの笑い顔に戻っていることに気付いた。


「どこがちょっとだ。どこが」


 ホムラは突っ込んだ。


「いいんすよ。このオバカちゃんは昔から負けん気だけは一流なんすよ。

 叩けば叩くほど伸びる。変態のドM女なんすから」


 ホムラ、ケア、ロゼ。

 女性陣はドン引きだ。


「まあ馬鹿は置いておいて――そろそろ『宵蛇よいばみ』はアイレドを発つ。

 いつ戻ってくるかはわからん。何かやり残しがあれば今のうちだぞ」


「……特にございませんわ。

 身近な人にだけ……挨拶させてもらえれば。といってもほとんどいませんし」


 孤児であるロゼ。

 挨拶しなければならないと思ったのは、バンカースとインベントぐらいだ。


「そうか。まあ『宵蛇よいばみ』に関しての諸々は別途伝える。

 今はまず療養するといい。さすがにその顔では人前に出れんだろう」


 ロゼの顔はアザだらけだ。

 ケアの【ギルフェ】で回復させたと言っても、アザや腫れが治るのは数日かかる。


「わ、わかりました」


「さて、そろそろ私たちは行く。やることがあるんでな」


 「隊長、隊長。例のアレ。教えてあげたらどうっすか」とレイシンガーが言う。


「ふむ。そうだな」


「ははは~朗報だぞ~ロゼ」


「朗報?」


 『宵蛇よいばみ』に入隊が決まった。

 それ以上に朗報なんてあるのだろうか? ロゼは飛び上がって喜びたい気持ちを抑え込んでいる。


「ふふ。ロゼ」


「は、はい」


「今からの話は極秘だ。誰にも言うなよ。インベント君にもだ。

 『宵蛇よいばみ』に入隊するからこそ教える」


「は、はい」


 ホムラは咳ばらいした。


(もったいつけますわね……。なんでしょう??)


 ホムラとケアは微笑ましく。

 レイシンガーはニヤニヤしている。












「君の隊長――ノルド・リンカースだがな。生きているよ」


 ロゼが『宵蛇よいばみ』入隊よりも喜び、大粒の涙を流したのは言うまでもない。

ロゼ編はこれで終わりです。


後一話で四章が終わります。

主人公が活躍するのは五章からですのでもう少々お付き合いを。


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― 新着の感想 ―
散々舐めた口叩いて負けたんだ 腹切って死ねよ
[良い点] よかったね。同じ隊に入ればレイさんの食事に毒を混ぜることも容易いよ
[一言] たいちょー!!!
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