表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/445

幕間 サグラメント孤児院の兄妹喧嘩①

ロゼ編です(全三話予定)

ロメロチャレンジの裏で起こっていた出来事です。

 ロゼは泣いた。


 隊長であるノルドが死んだことを唐突に知らされた。

 更にレイシンガーに口撃され、ロゼの精神はズタボロ状態だ。


 何もする気が起きず、アイレドの町にあるワンルームの小さな部屋で丸一日泣き続け、涙も枯れた。


 そして……怒り出した。沸々と。


「やっぱり……私は悪くないわ」


 ロゼは自分自身に甘さがあったことは認めている。

 もっと力があればノルドは死ななくて済んだのかもしれない。


 憧れであった『宵蛇よいばみ』が目の前にいたため浮かれていたのも事実。

 だがレイシンガーに執拗に責められるほど悪いことなどしていないと、一日経過して結論付けた。


 ロゼは立ち直る。

 そして総隊長室に向かった。

 ノルド隊は事実上消滅してしまったため、今後に向けて身の振り方を決めなければならないからだ。


 後、取り乱してしまったことを謝罪するために。


**


「失礼します」


「おお、ロゼ! まあ座れよ」


 バンカースに促され、ロゼは着席した。


「あ~……大丈夫か?」


 バンカースは心配そうにロゼの様子をうかがっている。

 ロゼは泣き続けたために目の下は腫れているのだ。


 ロゼは努めて明るくし、笑顔を作った。


「もう大丈夫ですわ。今後のこともありますし」


「そうか。まあ次の配属先が決まるまではゆっくりしてくれていいぞ」


「そうもいきませんわ。いつでも前線復帰できるように備えませんと」


「ははは、強いなロゼは。

 まあロゼの実力ならどこの隊でも引く手あまただろうさ」


 ロゼは愛想笑いをしつつ、ふと思い出した。

 インベントはこれからどこの隊に行くのだろうと。

 インベントとロゼは同じような境遇だからだ。


「あの総隊長」


「なんだ?」


「その……インベントはどこの隊に行くんですか?」


 インベントが今後どうなるかロゼは見当もつかなかった。

 実力は誰よりも認めているが、インベントは特殊だ。

 実力も性格も予測ができない。


「ああ……インベントなあ。あいつはちょっと変なことになってるんだ」


「変なことですか?」


「そうなんだよ――――」


 バンカースはインベントが『宵蛇よいばみ』のロメロに連れられてロメロチャレンジに参加してることを話した。

 チャレンジに成功すればロメロが願いを叶えてくれることも話した。

 そう、願いを叶えてくれるのだ。


 話を聞き終わり、ロゼは目を丸くした。


「つまり……インベントがそのロメロチャレンジとやらに成功すれば『宵蛇よいばみ』に入隊するってことですか?」


「ん~。どうなんだろう。インベントって『宵蛇よいばみ』さえ知らなかったからな。

 『宵蛇よいばみ』に興味無えんじゃないか?」


 ロゼはプルプルと震えた。


(じょ、冗談じゃないわ!

 なんでインベントが『宵蛇よいばみ』に入っちゃうのよ!!

 は、入りたいのは私だってのに!!)


「――総隊長」


「ん? どうした?」


「私、少しお休みをいただきます」


「え?」


「急用ができましたの! 『宵蛇よいばみ』のホムラ隊長はどちらにいらっしゃいますか?」


「え? ああ、駐屯地に行くことになってるぞ。

 もしかしたらまだアイレドの町にいるかもしれねえけど、っておい!?」


 ロゼは総隊長室から飛び出した。


(インベントがロメロチャレンジとやらに参加する権利があるのなら、私にだってあるはずよ!)



 お願いすればロメロチャレンジに参加させてくれるかもしれないと思い、ロゼは走り出した。


(ホムラ隊長に直接話せばいいのかしら?

 それとも『陽剣のロメロ』に直接お願いしたほうがいいのかしら?)


 ロメロは有名人だ。

 イング王国で『陽剣のロメロ』は、子供が真似をするぐらいの有名人。

 知らなかったインベントがおかしいのだ。



 ロゼはロメロの柔和な顔を思い出す。

 立ち居振る舞いは剣豪のソレだったが、とっつきやすそうな顔だった。


 と同時に――


(あの人には……会いたくないですわね)


 『宵蛇よいばみ』で一番会いたくない人物。

 それは――



「ヨオ~。クソガキ」


 一番会いたくない人物。


 レイシンガー・サグラメントが息を切らして走るロゼに声をかけた。



**


 ロゼは心の中で舌打ちした。


「レイ兄さん」


「ハッ! ヒデエ顔だなあ~オイ」


「うるさいですわ」


「まいいけどよ。で? 何してんのさ」


「……なんでもいいでしょう」


「ウキウキ走ってるからよお。なんだ~? 彼氏でもできたか? 色恋にうつつぬかしやがって」


「違いますわ! ホムラ隊長を探しているだけですわ!」


「は? なんでホムラ隊長探してんだよ」


「そ、それは……」


「ま、隊長ならいねえよ。カイルーンの町に行ってるからな」


 ロゼはホムラがいないことを知り、口をへの字に曲げた。


「だったら……ロメロさんはどちらに?」


「ロメロ副隊長~? な~んでお前が副隊長探してんだよ?」


「い、いえ……そのお」


「なんだ~? 怪しいなあ~。ロメロ隊長は別件で近くにいるけどよお」


「ど、どこなの!?」


「理由もわからねえのに言うわけねえだろ、バァ~カ」


 ロゼは眉間に皺を寄せる。

 話したくなどないが、レイシンガーに思ってることを話すことにした。


「ろ、ロメロチャレンジに参加したいのよ!」


「は? なんで?」


「よ、『宵蛇よいばみ』に入りたいからよ!」


「ハハハ、半人前のオメエがかよ? 寝言は寝て言えよ」


「う、うるさいわね! いいから教えなさいよ! ロメロさんはどこなの!?」


「教えねえよ。てかオメエはロメロチャレンジに参加できねえよ」


「そんなの聞いてみないとわからないじゃない!!」


「ロメロチャレンジってのは推薦が必要なんだよ。

 『宵蛇よいばみ』隊員が推薦したやつじゃねえとロメロチャレンジには参加できねえ。

 あのインベントってガキはロメロさんに直接誘われてたけどな。

 ロメロさんが誘うのなんて初めて見たぜ」


 ロゼは顔を歪ませた。


(またインベントなの!? なんなのよあの子は!

 それにロメロチャレンジには推薦が必要って何よ!)



 どうしようか悩むロゼ。


 そんなロゼをにやけ顔で見るレイシンガー。

 そして「おい、クソガキ」と声をかけた。


「何よ?」


「俺様が、ロメロチャレンジに推薦してやろうか?」


「え?」


 ニコニコ笑うレイシンガー。

 願っても無い提案。

 だがレイシンガーがそんな優しい男ではないことをロゼは誰よりも知っている。


「……何が目的なのよ」


「べっつにい~。可愛い妹分が困ってるんだ。助けてやるのが当然だろう~?」


(どの口が言うのよ。このサディストが!)


 おどけるレイシンガーが「へへへ」と嗤う。


「まあ、実力があるならロメロチャレンジに推薦してやる。

 だがな、ロメロチャレンジの前に、レイシンガーチャレンジでもやってもらおうか」

読んでいただきありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ