宵蛇はややこしい
総合評価がまもなく10000ポイントです!
ありがとうございます! 日間総合ランキングも39位でした!
『宵蛇』の三名が集まり、緊急会議が開かれた。
「ろ、ロメロ先輩!! どういうことなんですかあ!!」
口火を切ったのはホムラだ。
表向きはホムラが『宵蛇』の隊長であるが、今は『宵蛇』隊長の仮面を脱ぎ捨て、『ホムラちゃん』モードである。
「はっはっは。すまんすまん」
ロメロは笑って誤魔化した。
「謝ってすむことじゃありませんよ! 完全に私が隊長だって忘れてたでしょ!?」
「ああ~、まあそういうこともあるさ」
ちなみにホムラが隊長である理由は三つある。
まず家柄が良い。
ホムラは先代の『宵蛇』リーダーである『星天狗』こと、クラマ・ハイテングウの親類である。
伝説の威光を利用するにはもってこいな家柄である。
もう一つは目立つことだ。
ホムラの二つ名は『炎天狗』であり、【灯】のルーンを使う。
戦い方は非常に派手だ。つまり目立つ。
目立つことは『宵蛇』にとって非常に重要である。
ちなみに二つ名は、目立たせるために敢えてつけている。
自然とついたのは『陽剣』のロメロぐらいだ。他の面々は意図的につけられている。
『宵蛇』は目立たなければならないのだ。
その理由は――隠すためである。
「まあいいじゃないか。ホムラ」
そして三つ目。
デリータ・ヘイゼンがホムラの肩にそっと手を乗せた。
「で、デリータ隊長」
「ははは、まあロメロの考えは理解するのが難しいからね」
「むう……」
「とは言え、ちゃんと説明してくれるんだろう? ロメロ」
デリータ・ヘイゼン。彼こそが本当の『宵蛇』のリーダーである。
この事実を隠すために、『宵蛇』は他の面々を目立たせている。
「勿論話す……つもりなんだが、俺もよくわからん」
「んな!」
「怒るなよ、ホムラ。ちゃんと話すつもりではあるんだ。インベントに関してだろ」
「私はてっきり『宵蛇』に入れるんだと思ってましたよ」
「適任ではあるよな。何せ空を飛べるなんてクラマのおっさんの再来だ。
ある意味、ホムラよりも隊長職は適任かもしれん。
だがなあ……アイツ……『宵蛇』に興味が全く無いんだ」
デリータが優しく笑う。
「『陽剣』のロメロのことも知らなければ、『宵蛇』さえ知らなかったもんな。
面白い子だね」
「まあな。『宵蛇』に興味が無いやつを『宵蛇』に入れるのもおかしな話だろ?
というよりも……インベントは『宵蛇』と合わない気がする」
「それは何故だい?」
「モンスター以外に興味が無いんだよ。
モンスターを狩ることがアイツのモチベーションなんだ。
ロメロチャレンジだって本当は興味が無いんだ。単にモンスターを殺すために……あれ?」
ロメロは話していて疑問に思った。
「だったら何故ロメロチャレンジを再度やろうとしたんだろうか?」
「いや……私たちに聞かないでくださいよ」
「ははは、そうだな。しかしなんでだろうか……」
インベントはロメロを人型モンスター扱いしている。
だからこそロメロチャレンジに没頭しているのだ。
やはり、相も変わらず対人戦には興味が無い。
デリータが「まあそれはいいよ」と言う。
「そうだな。
俺が何故アイツを構うかというとだな……う~ん……」
「あの子と戦うのが面白いからだろ?」
ホムラが「そ、そんな理由で!?」と口をはさむが、ロメロは無視した。
強すぎるロメロにとって遊び相手は貴重なのだ。ロメロにとっては大きな理由になりえる。
「う~ん……それはそうだな。俺が想定しない手を考えてくるのは楽しいな。
それにあの甲冑での戦い方が不本意だったってのは、ちょっと頭にくるぐらい面白い。
アイツ……【太陽】有りの俺と戦う想定をしているらしいな。クックック」
「だが、面白いだけで副隊長のお前を『宵蛇』から離れさせ、遊ばせるわけにはいかんぞ」
「その割によお。反対してねえじゃねえの? デリータ」
「ふふふ、まあ……な」
「悪い風は吹いてねえだろ? あの子は育てといたほうがイング王国のためになる気がする……」
「確信は無いんだろ?」
「無いね。インベントの行動は読めない。
とはいえ……圧倒的な強さを持てる可能性がある……と思うぞ。
剣の持ち方一つとってもお粗末すぎる。だがロメロチャレンジをクリアしている。
それに向上心が強い。いや……違うな。これまでのスタイルを簡単に手放せる発想力か?
くふふ、これからどう成長するのか楽しみだろう?」
「ふふふ。そうか」
ロメロとデリータの会話にホムラの理解は及ばない。
彼らの間でしかわからない感覚があるからだ。
ちなみにインベントが『宵蛇』に覚えていた違和感。
様々な要素があるのだが、その一つにロメロとデリータの特異性がある。
彼らは『宵蛇』の中でも更に特別な存在である。
**
デリータはホムラを退席させた。
デリータとロメロの二人は軽く酒を嗜みながら話を続ける。
「――もう、あまり時間が無いかもしれない」
「ハハハ。そうかもしれないな。
明らかに大型モンスターは増えている。自然現象なのか……それとも……。
そういえばクラマのおっさんは元気そうだったな。濃紺のドレークも一人でぶっ殺してたし。
まあ、クラマのおっさんは国境周辺を念入りに探ってるみたいだが、何も見つけられていないみたいだし。
やっぱりオセラシアは無関係なのかねえ?」
「わからないが……オセラシア側から何かしらの嫌な風は感じる。
まあ、俺は姉さんほど感受性が高くないからな。なんとなくでしかわからん」
「ふふふ。十分だろうさ」
ロメロは目を細める。
「クリエさんが来てくれればなあ。全てが解決するだろうに」
「姉さんは絶対に来ないよ。姉さんは俗世を捨てた人だ。
俺が最後に会ったのは10年前かな。
ふらっと現れて、『森がざわついてる。なんとかしろ』だもんな」
「その頃からイング王国に侵入者が増えだしているしな。さすがだよ」
「そうだな」
ロメロは欠伸を一つ。
「まあ、インベントがどうなるかはわからん。
だけど……彼には何か期待してしまうんだよ」
「確かに磁場のようなものは感じる。何かを引き寄せている感じはする。
いや……自ら引き寄せられているのか?」
「ふ~む」
「正直……彼には愛の感覚が薄く感じるな」
インベントはモンスターに対しての執着が異常に強い。
だがそれ以外に関しては凝り性ではあるものの、執着は薄い。
「う~ん、その感覚は俺にはわからん」
「そうだな。この国や仲間がピンチだとしても、彼は燃えないタイプに思えるってことかな」
「それはまあそうかもな。ノルドはあいつの隊長だったんだろ?」
「そうみたいだね。ノルド・リンカースか。
『宵蛇』に誘ったのは七年前だったかな。断られてしまったけどね」
「ハハハ、中々縁がある。まあそれは置いておいて。
隊長が死んだって言っても、インベントはほとんど動揺していなかったしなあ」
「事前に死んだことは知らされていたんだろう。
ロゼさんは知らなかったようだが」
「ま、知らなかったとしても、あいつはあんまり驚かなかった気もするけどな。
逆に……いやまだあの件はインベントには言えねえか。インベントが口が堅いかわからねえし。
しっかしまあ、15歳にしては妙に落ち着いている気もする。だが妙に子供っぽい気もする」
「ふふふ、子供っぽいのはロメロに似ているけどね。
しかし危うく感じるなあ。堕ちていかないか心配だ」
「悪には染まるタイプじゃないさ。正義を振りかざすタイプでもないがね。
まあ~どうなるかはわからんが、それなりに導いてやる必要はあるだろう」
「その役が、ロメロ・バトオだと?」
「力不足かな? ハハハ」
「はは。世界最強が力不足か」
「世界最強――ね」
ロメロはつまらなそうに笑う。
そして――
「まあ、どれぐらいになるかわからんが時間はくれ」
「かまわない。人員の補充もできそうだし、まだ時間に余裕はあるだろう」
「迷惑かけるが頼むわ」
そう言ってロメロは席を立つ。
思い出したかのようにロメロは「あ」と言う。
「なんだ?」
「俺がインベントを気になる理由の一つだけどな」
「うん?」
「インベント――なんでかクリエさんと被るんだよな」
「姉さんと?」
「浮世離れっていうか、ちゃんと繋いでやらねえと……どこかに行っちまいそうな感じが似てるんだよな」
「そう……か」
人知れず心配されるインベントであった。
☆評価、誤字脱字報告、ご感想、全てありがとうございます!
継続して毎日更新がんばります!




