ロメロちゃんは遊びたい
ロメロはなんとも言えぬ幸福感を味わっていた。
(フルプレートによる高速移動に気を取られていたな。
武器の変更はインベント君の得意技だったじゃないか。
しかし中々速い攻撃だった。思わず【太陽】を使いそうになってしまったよ。
ふふ、ふふふ。こんな戦い方もできるのか)
もしもロメロが回避に徹していれば、棍棒は避けられたのかもしれない。
だが、反射的に【太陽】を使いそうになるほど、インベントの攻撃は鋭かった。
【太陽】を使うか迷った時点で、ロメロの負けは決まっていたのだ。
何せこれはただの模擬戦ではなく、ロメロチャレンジなのだから。
「い、痛あああーー!!」
ロメロの木剣を叩き折り、ロメロから一本取ったインベント。
だが、『加速武器』を使った際に、左足を思いっきり捻ってしまったのだ。
転げまわるインベント。
「お、おいー、大丈夫かー!」
駆け寄るアイナ。
だが甲冑のまま転げまわっているのでどこが痛いのかわからないのだ。
悶える甲冑。左足を触りたくても手が届かないもどかしさ。
「ぶはは。なんとも面白い少年だ。
ケア。すまんが治療してやってくれ」
「はーい」
『宵蛇』の回復担当であるケア・ルーガがインベントを回復させる。
甲冑の上からでも問題なくインベントを治した。
痛みが引いた後、インベントは甲冑を全て脱いだ。
座りながら痛みを感じていた足首を擦る。
「うわ~凄いな。痛みと疲れが全部吹き飛んでる!」
「ケアの治癒力は世界一だからな」
「ケアさん、ありがとうございます」
「いいのよ~。面白いものが見れたしねえ~」
「えへへ」
ロメロは地面に座り、インベントと向かい合った。
「やられたよ。インベント君」
「あ~……いやあ、まあ……」
思いの外、嬉しくなさそうなインベント。
(おかしいな? 万策を尽くしての勝利だろう?)
ロメロは首をひねる。
「どうした? 俺が言うのもなんだがロメロチャレンジをクリアしたんだ。誇っていいぞ?」
「う~ん……」
浮かれていないインベント。
何故かわからないロメロ。
「どうしたどうした? 何か不満でもあるのか?」
「そうですね」
「なんだなんだ? 若いのに悩んでいるとハゲるぞ?
ほら、言ってみろ。はっはっは」
「あのお……お願いに関していいですか?」
「ああ、その件か。構わんぞ、モンスターをいつでも狩れるようにだったな」
「それなんですけど……ちょっと違うお願いがありまして」
「ほお~!? まさか『宵蛇』に入りたくなったか!?」
「あ、違います」
「即答か。結構面白いと思うんだけどな。まあいい。なんだ? 言ってみろ」
予測不能のクレイジーボーイ。
何を言いだすのかワクワクしているロメロ。
その答えは、あまりにも予想外な答えだった。
「もう一度ロメロチャレンジを受けても良いでしょうか?」
「うん? うん?? うんー? どういうことだ?」
「さっきの……フルアーマースタイルは……ロメロさんの装備が貧弱であること。
そして――【太陽】を使わない前提で立てた作戦です」
ロメロは困惑した。
ロメロとしてはそんなの当たり前――と思っている。
ロメロが本気を出せば――
もしも木剣でなく剣を持てば――
【太陽】の力を使えば――
目の前の相手は簡単に絶命してしまう。
遊び相手がいなくなってしまうのだ。
「つまり……どうしたいんだ?」
「フルアーマースタイル無しで……ロメロチャレンジを突破したいんです」
ロメロの顔はみるみるうちに笑顔になっていく。
ロメロの弟であるピットは理解に苦しんだ。
勝ったのに、なぜまだ挑むのか理解できないのだ。
「どうでしょうか?」
「ハハハハハハハハハハハハハー!! ハッハッハー! アーッハハッハッハッハー!! イヒヒヒヒヒ」
ロメロは腹が捩れるぐらいに笑う。
突然の大笑いにその場にいる全員が驚いた。
そして――
「いいよいいよ。もちろん構わない。いつがいい?」
ロメロは当然のごとく申し出を受けた。
「お、おい! ロメロ!」
それに対し口を挟んだのは、『宵蛇』隊長であるホムラだ。
「なんだよ? ホムラ」
冷たい目でロメロはホムラを見た。
「水を差すなよ」と言いたげな視線だ。
だがホムラも黙っていられない。
「『宵蛇』は数日後には出発する。ロメロチャレンジは終わりだ」
「断る。俺はインベント君と遊ぶ」
「ば、ばかな! 子供じゃあるまいし!」
ロメロは立ち上がった。
「俺にとっては今、インベント君の挑戦を受けるのが最優先だ。
嫌なら止めてもいいよ。俺を……止められるのならね」
ロメロの両手から【太陽】のルーンが漏れ出している。
ロメロが本気を出せば、徒手空拳で人を殺すのも容易い。
ホムラも理解している。ロメロが本気を出せばホムラを瞬殺できる。
気圧されるホムラ。
「お、おい兄者」
駄々をこねた兄を、しっかり者の弟が諫めようとする。
じゃじゃ馬なロメロという剣を納める鞘――
「ピット。――でしゃばるな」
だがロメロは一言で窘めた。鋭い眼光にピットはたじろぐ。
ピット、鞘になれず。
誰もロメロを止められない。だが――
ロメロはある人物を見た。
デリータだ。
そして数秒後――
「ああ、そうだ。絶対に必要だ」
とデリータに向けて話す。
インベントは不思議そうに見ているが、アイナはデリータが念話を使っていることを見抜いた。
アイナも【伝】のルーンなので、感覚的に見抜けたのだ。
「ちなみにインベント君」
「はい」
「ロメロチャレンジはいつからやりたいんだ?」
「準備があるので10日は欲しいですね」
「そうか、よしよし! ――ホムラ!」
「な、なんだ?」
「15日後、俺はアイレドに戻る。それでいいな!」
「い、いいわけあるか!!」
「うるさい! 俺が決めたんだ。というよりも俺が抜けたところで問題ないだろう。
新しく人員も補充されるんだろ?」
「人員補充に関してはまだ決まっていない!
それに、何を言ってる! お前は副隊長なんだぞ!!
それも『陽剣』だ! アイレドの象徴なんだ!」
「だからどうした? 俺は――俺だ」
絶対に引かない意思。
ロメロは決めているのだ。
インベントと遊ぶと決めているのだ。
ホムラは困っている。
インベントは困っているホムラが、路頭に迷っている小さな少女にしか見えなかった。
そんなホムラの肩をデリータが叩いた。
「まあ、いいさ。とりあえず……少し話をしようか」
「あ、は、はい、デリータた、た、た、ととと」
ホムラは思わず「デリータ隊長」と言いそうになったがどうにか誤魔化した。
デリータはロメロにサインを出した。
ロメロは小さくうなずき、そして――
「インベント君」
「はい」
「ロメロチャレンジは15日後に再開としよう。
少し待たせるがいいかな?」
「もちろんです」
「よっし。それじゃあまたな!」
ロメロは手を振って去っていく。
まるで遊んでいた少年が夕方になったので帰っていくように。
「また明日遊ぼうね」と帰っていくように。
ロメロに続き『宵蛇』はインベントたちの前から消えていった。
タイミングよく、カラスの鳴き声が森の中に響いた。
ぽつんと取り残されたインベントとアイナ。
「なんだったんだ?」
蚊帳の外だったアイナは訳の分からないやりとりに目をパチクリさせた。
「まあ、どうでもいいよ。
そんなことよりロメロチャレンジもう一度やるんだ! 準備手伝ってよ!」
「い、いやいや! そういやあそんな話になってたね! なんで!? 勝ったのに!?」
「あれじゃあ勝ちじゃないよ。大丈夫! 次のスタイル考えてあるんだあ」
インベントとロメロの楽しい時間はまだまだ終わらない。
そろそろ展開が変わる予定なのですが……インベントがおかわりしてしまいました。
そういえば「宇崎ちゃんは遊びたい」がアニメ化しましたね~。
って……パクリやないか!
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まだまだ毎日投稿頑張ります!