レッツ、ロメロチャレンジ!⑥ スタイルチェーンジ!!
「武器破壊ができりゃあ勝てるってわけよ」
アイナが辿り着いたロメロチャレンジの攻略法。それは武器破壊だ。
『宵蛇』の末席であるフラウも武器破壊でロメロチャレンジを突破している。
つまり実績のある方法である。
「あ~……なるほどね」
「ん?」
インベントの顔が浮かない。
(おっかしいな? 「なるほど! それは凄いー! さすが天才アイナ様ー!」と言うと思っていたのに)
「なんだよ? 武器破壊は嫌いなのか?」
「……いや。まあ勝つためには最善手かもしれないね」
「そうだぜ~。相手は木剣一本だろ? てことは武器を破壊すれば丸腰ってわけよ!」
「うう~ん……なるほどなあ」
インベントはとある理由で乗り気ではなかった。
アイナはなぜ乗り気ではないのかにまで頓着しない。
なぜなら彼女は武器破壊が最善手だと信じて疑わないからだ。
「だけどなあ……武器破壊する手が思いつかねえ」
「ふ~ん」
「武器破壊ってのは結構難しくてよ~、お前の技術じゃあどうやったらいいかわかんねえんだよなあ~。
それにあのロメロの旦那、剣術の腕はピカイチだわ。あの人本気出せば木剣で人を簡単に殺せるね」
「う~ん……武器破壊か~。
武器破壊、武器破壊、武器破壊、武器破壊……ぶき……あ」
インベントは武器破壊と連呼している中でとあることを思いついた。
「もちっと防御が上手けりゃあな~。でもアンタのスタイルって軽装で色々出すスタイルだもんな~」
「なるほど……スタイル……スタイルか!」
これまたインベントはあることを思いついた。
「ねえ、アイナ!」
インベントはアイナの両肩をがしっと掴む。
「お、おわあ! なんだなんだ!?」
「イイコト思いついた。手伝って」
「お、おう。わ、わかったから、は、離せ」
少し赤面するアイナに、インベントはとある作戦を伝えるのだった。
****
それから10日後。
ロメロはインベントが来ないことを少し残念がっていた。
そろそろ『宵蛇』はアイレドを発つ予定だ。
タイムリミットは近づいてきている。
諦めたのか? と思っていたが――
「明日お願いします!」とインベントが自信満々に言ってきた。
10日間を使って何をしてきたのか楽しみで仕方ないロメロ。
更に――『宵蛇』のメンバーがレイシンガーを除き勢揃いしてロメロチャレンジの観戦をすることになった。
あえて時間を使ってでも見る価値があると、『宵蛇』の本当の隊長であるデリータは判断したのだ。
(……ふふふ。それってつまり……そういうことだな。
インベント君は面白い。だけどさすがにロメロチャレンジをクリアするには色々足りないさ)
インベントは何度もロメロチャレンジに挑戦した。
どれだけ工夫してもロメロは全て退けた。
奇襲が効かないロメロはインベントにとって相性が頗る悪い。
さて――
「お待たせしました!」
インベントとアイナがやってきた。
何故かアイナは倉庫用の荷車を引いている。
荷物には布がかぶせられ何が入っているのかはわからない。
(……収納空間に入れればいいのになぜだ?)
他の『宵蛇』の面々は気にしないが、ロメロからすれば違和感。
何せインベントのこれまでの戦闘スタイルは、できる限り何も持たないスタイルだからだ。
インベントほど手持ちの武器に執着しない戦い方は無いだろう。
剣でも槍でもすぐに投げてくる。
そんなインベントが何を持ってきたのか? 気にせずにはいられない。
ロメロはワクワクしている。
「ああ~重い重い~。荷物ぐらい運んでやるなんて言うんじゃなかった~」
「ごめんごめん」
アイナは荷車から手を離した。
荷車からはガシャガシャと金属音が聞こえる。
「準備万端ってところかな? インベント君」
ロメロがインベントに声をかけた。
「ん~まあそうですね」
少しだけローテンションのインベント。
「ははは、自信満々って感じではないんだね」
「あ、自信はありますよ。
今日はとりあえず勝たせてもらいますから」
勝利宣言。
さすがにロメロも驚いた。
「大した自信だな」
インベントとアイナは顔を見合わせた。
「勝てるよね?」
「ああ、絶対大丈夫。ふふふ~」
疲労でへたりこんでいるアイナは不気味に笑う。
「こりゃあ……楽しみだ」
ロメロチャレンジ。
ロメロに一本でも攻撃が決まれば勝ちという非常に相手に有利なルール。
更にロメロは【太陽】のルーンは使わないし、実は相手に怪我をさせないように配慮もしている。
それだけロメロが圧倒的なのだ。
自ら枷をかすことで、スリルを味わうためのロメロチャレンジ。
(何人もチャレンジしてきたが、才能のある奴が死に物狂いでかかってきた。
レイはともかくフラウに関しては敢えて負けたんだぜ。『宵蛇』に入れたかったからな)
ロメロはにこやかな表情は崩さないが、自信満々に勝利宣言をしたインベントに少しだけ――喜びと苛立ちが混ざったような気分になる。
(インベント君では幽結界は突破できないぜ?
武器破壊するには技量不足だ。
さあ、どうするんだい?)
「それじゃあ始めようか?」
「あ、準備があるんで少し待ってください」
「ん? ああわかった」
インベントとアイナは茂みの中に入っていった。
荷車を引いて。
「はて……準備?」
少し胸騒ぎがするロメロ。
****
ガシャン――
金属が擦れる音とともにインベントとアイナは出てきた。
その様子を見て『宵蛇』の面々は驚いている。
何より驚いているのはロメロだ。
「――な、ナンダそれ?」
インベントの風貌に驚愕するロメロ。
「ふふふ~、フルアーマーXXモードです!」
インベントは全身を甲冑で固めていた。
プレートメイルやプレートアーマーと呼ばれる全身甲冑である。
インベントはまるでお金持ちの家にある置物の兵士だ。
「……おいおい。マジかよ?」
ガシャン――
ガシャン――
どて――
インベントはゆっくりとうるさく一歩一歩進み、そしてこけた。
「おいおい、しっかりしろっての」
「う、うん」
アイナの力を借りてどうにか立つインベント。
呆れる『宵蛇』の面々だが、ロメロは真剣な表情だ。
「お、お待たせしました」
「それが君とアイナさんが出した答えというわけか」
「まあ……そうですね」
ロメロは笑った。
「武器破壊を狙ってくるとは思っていたが……こりゃまた年代物の骨董品が出てきたなあ。
だが……まともに動けるのかい?」
ガシャガシャ――
と手を二度振った。
「まともに動けるわけ無いでしょ! 滅茶苦茶重いんですから!!
それに暑いし」
「ははは、まあそうだろうな」
「てことでさっさとやりましょう。着てるだけで体力が消耗するんです」
「ふふ、いいだろう」
想定外の出来事に子供のようにワクワクするロメロ。
あえて構えることはしない。
ただただインベントが攻めてくるのを待っている。
いや――――出撃を待っている。
インベントは大きく息を吸った。
そしていつか言いたかったセリフを言う。
「システムオールグリーン!
インベント。フルアーマーXX、行きまーす!!」




