レッツ、ロメロチャレンジ!④
ロメロさんの幽結界は半径4メートル。
「つうかこれが限界!」
な~んて言わないですよ?
ロメロチャレンジは、『宵蛇』副隊長のロメロ・バトオに一撃でも攻撃を決めれば勝ちだ。
何度チャレンジしてもOKなので、インベントは毎日チャレンジしている。
ただ、どれだけやっても惜しい状態を作り出すことにさえ至らない。
縮地は一度目が一番惜しかった。
二度目以降は縮地の特性である技の『起こり』のわかりにくさが無くなってしまい、ただの高速移動になった。
丸太ドライブは、ロメロが持つ木剣では防ぐことができないが、簡単に避けられてしまった。
「あああ~! くそ~難しい!!」
インベントは地面に大の字になり叫んだ。
「はっはっは。なかなか面白い動きをするなあ~」
ロメロは木剣を握りしめ、寝そべるインベントを笑う。
何度も何度も繰り返しインベントは攻撃を繰り返す。
それでもロメロは簡単にインベントをはじき返した。
幽結界。
フラウが教えてくれたロメロの技。
ロメロは真上を含む全方位の攻撃を察知する能力があることは間違いなかった。
ただ、【人】のルーンのように広範囲を察知するような技ではない。
その距離はせいぜい四メートルといったところだ。
だが、その四メートルが絶望的だった。
(不意打ちを完全に無効化されちゃうんだもんなあ……)
インベントの十八番は不意打ちだ。
武器を扱う技術の拙いインベントは、まともに剣術で勝負するわけにはいかない。
それもロメロともなれば間合いに入った瞬間に終わる。
一度受けることさえもできない。
インベントは理解できていないが、彼の剣技はイング王国でナンバーワンである。
更に【太陽】という超レアルーンを持ち、更に更に素の身体能力にも恵まれた男。
それがロメロ・バトオなのだ。
「ははは、もう降参かい?」
「……まだまだ」
「ふふふ、いいねえ」
ロメロとしては嬉しい誤算だった。
インベントが中々諦めないからだ。
(フラウみたいにどうしても『宵蛇』に入りたいってタイプじゃなかったから、すぐに諦めるんじゃないかと心配していたんだがな。
なかなか、負けず嫌いじゃあないか)
インベントがロメロチャレンジにご熱心なのには二つ理由がある。
一つはモンスター狩り。
現在ノルド隊は事実上の解散状態だ。
次に配属される部隊がマクマ隊のような保守的な部隊になる可能性だってある。
ロメロチャレンジに成功すれば、インベントが望むような隊に入れる。
具体的な約束はしていないものの、ロメロは約束を守る男だと信じている。
だから頑張っている。
もう一つは、インベント自身は気づいていないが、少しずつロメロチャレンジが楽しくなってきているのだ。
対人戦に興味が無いインベントが何故ロメロとの戦いを面白く感じているのか?
その理由はロメロが強すぎるのが原因である。
インベントの中で、ロメロはヒトの範疇を超えた存在扱い。
結果ロメロを『ヒトならざる強い存在=人型モンスター』という認識になっている。
モンスターであればインベントは燃えてくる。
いや……モンスターではないのだけれど。
(……このロメロチャレンジはチャンスだ。
たったの一撃でいいんだ。たったの一撃だ……)
そうたったの一撃で良い。
それが『陽剣』のロメロ相手だとしても。
だからインベントは手持ちのカードを全て駆使して戦い続けているのだ。
**
「……ダメだああーーー!!」
幾度やっても突破口が見えず頭を抱えた。
(スピードでかく乱するにはスピードが足りない。
剣で勝負するには何もかも足りない。
不意打ちも通じない。…………どうすればいい?)
「ハア……」
八方塞がり。
さすがにインベントも手詰まりを感じていた。
「はっはっは! まだやるかい?」
「……やります。やりますけどお……今のままじゃあどうやっても無理ですね」
「ん~、まあそうだな! インベント君は剣が下手過ぎるな」
どストレートな発言にインベントは「ですかねえ~」と落ち込む。
「ちょっと武器を新調してきます」
「わかった。というよりも俺も任務があってね。
二三日出掛けるから、続きは俺が戻ってきてからにしようか」
「わかりました」
**
「――ということがあったんだよ~」
『なあ~にが『ということ』だよ』
インベントはアイナに現状を打ち明けた。
いつも通り念話で対応してくるアイナ。
インベントには友達感覚で喋れる人がアイナ以外いないのだ。
ノルドが亡くなり、ロゼはここ最近見かけていない。
ラホイルには未だに避けられている。
『しっかし……あの『陽剣』サンがインベントと遊んでるとは驚きだわ』
「あ、二つ名でしょ? カッコいいよね~。
それに有名な隊らしいね~。なんだっけ、コイブミだっけ?」
『なんでラブレター出さなきゃいけないんよ……『宵蛇』な。
ほんと常識無えなー!』
「ご、ごめん」
『『宵蛇』って言えば、イング王国の生きる伝説みたいなもんだぞ?
どこまで本当かは知らねえけどね』
「へえ~」
『そういや~アタシの故郷でも、『泥闇猪』とかいう猪を、『星天狗』がぶっ殺したって聞いたな。
童話みたいになってるんだけど……やっぱり本当かどうかわかんねな~』
『泥闇猪』というモンスターの名前にウキウキするインベント。
とは言えやはり『宵蛇』には興味が無い。
モンスターに興味があり、モンスターが倒したいのだ。
『でもよお』
「なあに?」
『お前、なんでそんなその~ロメロチャレンジってやつを頑張ってるんだ?』
アイナは不思議に思った。
モンスター狩り大好きなインベント。
だが対人戦にはまったく興味が無いことをアイナは知っている。
「なんかね~、ロメロチャレンジに成功すればなんでも叶えてくれるって」
『ほほ~! そりゃあいいな。
アタシだったら大金貰って隠居するな~ハハハ』
「俺は、モンスターをいつでも狩れる権利が欲しいってお願いしてる」
「ブハハ」とアイナは声を出して笑った。
『なんだそのツマンネ~お願い~』
「だって、俺の隊無くなっちゃったし……」
『あ~……まあそりゃあな』
アイナはしんみりするが、インベントとしては単に事実を言っただけだ。
湿っぽい感情はそこに無い。
「あ、もしくは『宵蛇』に入隊できるって言ってたけど、入隊しても面白くないよね~。
でも大型モンスターも倒すって言ってたな~」
ポロっと。さらりと。
インベントは話した。
だが――
「――あ? にゅ、入隊!?」
肩肘をついて話を聞いていたアイナは軽くずっこけた。
驚いて念話でなく、普通に話してしまっている。
「うん。なんかロメロチャレンジに成功すると入隊できるらしいよ~。
フラウさんって言う、なんだっけ『宵蛇』の新人っぽい人もロメロチャレンジで入隊したらしいし」
「ほお~……そりゃあ面白いな……くふふ」
「どうしたの? 顔がキモいよ?」
「女の子にキモいとかいうな! まあいいや。ちょっとおもしれえなそのロメロチャレンジ。
なあ、アタシも見に行っていいかな~?」
「ん? ロメロチャレンジを?」
「うん。ちょっと気になる」
「う~ん。わかんないけど、今度一緒に行ってみようか」
「うい~」
アイナはほくそ笑んだ。
(インベントが『宵蛇』に入ったらなんか面白そうだしな。
知り合いに『宵蛇』がいるなんて、なんかイイコトありそうじゃね?)
****
アイナは首をつっこんでしまった。
もしもこの時、ロメロチャレンジに好奇心を持たずにいれば、アイナはアイレド森林警備隊のプリティ倉庫番として生きていったのかもしれない。
だがアイナは――――首を突っ込んでしまったのだ。
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