レッツ、ロメロチャレンジ!③
ロメロさんの実年齢は51歳です。
見た目は32歳です。
落ち着きの無い最強おっさんです。
ちなみに弟のピットさんは45歳です。
見た目も45歳です。
「さあさあ! もう降参かい?」
ロメロは余裕綽々だが、インベントは考えていた。
何せ一歩たりとも、ロメロが立っている場所から動かすことさえできていないのだ。
まるでバリアに突撃しているかのような気分に陥っていた。
(動きが素早い……なんてレベルじゃないよね?
『間合いに入ったら全て止めちゃう』なんて言ってたけど……この人の周りはなんかヤバイ)
インベントはロメロの周囲に渦巻くナニカを感じ取っていた。
見えないが見えるナニカを。
「ちょっといいっすか?」
そこにフラウが割り込んでくる。
「どうした? フラウ?」
「ここに私がいる理由ってのは、この子にアドバイスするためっすよね?」
「まあそうだな。インベント君が勝てば、フラウにもご褒美を与えよう。
アドバイスはじゃんじゃん言ってあげていいぞ」
「……ハア。正直絶対勝てないと思ってますけどね。
まあいいっすよ。ねえアンタ」
インベントは「はい」と答える。
「ロメロ副隊長には幽結界って呼ばれる絶対無敵の領域がある。
アンタは曲芸が得意みたいだけど、ロメロ隊長に不意打ちの類は効かねえってことっすよ。
真後ろからでも真上からでもね」
自慢げに話すフラウ。
インベントは首を傾げた。
「そのカクリ結界ってどういうものなんですかね?」
「え? そりゃあその……なんかスゲエ技なの!」
インベントはとても残念な顔をした。
ロメロも「なんかすまんな」と謝った。
インベントは「どうも」とフラウに会釈した。
「不意打ちが……効かないんですね」
「ははは。まあそうだな」
インベントは大きく息を吸い込んだ。
(幽結界ってのはよくわからないなあ。
不意打ちが絶対に効かない能力……? なんだそれ)
インベントは考えるのを止めた。
色々試すことにしたのだ。
(本当に不意打ちが効かないのか確かめないと!)
インベントは相手の死角に入るのが得意であり、不意打ちはインベントの強さの生命線の一つだ。
対人戦において、どれだけ剣術の技量に差があったとしても、後ろから攻撃できれば基本は勝てる。
完全に不意打ちが封じられるとなると、インベントの手札はかなり減ってしまう。
インベントは煙玉を使い、ナイフを投げた。
そしてすぐに上空へ。
ナイフはいとも簡単に防がれた。
(上空から一気に!!)
縮地で上空から加速し、ロメロの脳天目掛けて槍で攻撃を決行する。
成功すれば確実にロメロは死ぬ。
だが成功しない確信があった。だからインベントは決行したのだ。
音も無く接近し、突き刺す。
だが――
インベントはロメロの幽結界に入ったことを本能的に感じ取った。
そして――凄まじいスピードでロメロは剣を振い、インベントの体勢を崩しながら、槍を叩き折った。
インベントは肩から地面にぶつかり転がる。
「い、いたたたた」
「はっはっは! 面白い攻撃だったぞ。少しだけヒヤリとした。
だけど……おいフラウ!」
急に呼ばれフラウは「え?」と驚いた。
「お前がインベント君をしっかり見てたから場所がわかっちゃったじゃないか!」
「え? あ、す、すんませんっす」
「もうー! 敢えて見ないようにしてスリルを楽しんだけど、面白さ半減だよ。まったく!」
インベントはゆっくりと立ち上がり、ロメロを見た。
(とんでもない人だな……。あんなに速く剣って振れるんだ)
人間は頭上からの攻撃に弱い。反応するのが困難だからだ。
それに頭上からの攻撃を想定している人も少ない。
だがロメロはインベントの頭上からの攻撃を敢えて見ずに対応し完璧に捌いた。
インベントは得体のしれない幽結界も恐ろしいと感じたが、いとも簡単に頭上からの攻撃を木剣で捌くロメロの技量に感服した。
インベントは今、世界最高峰の剣術を体験している。
(俺がどれだけ練習しても、ロメロさんの領域には辿り着けないんだろうな。
ロゼと戦った時も思ったけど……俺って剣の才能無いんだろうな)
インベントには決定的に剣術の才能が無い。
練習すれば上達はするが、才能がある者たちからすればしないで良い努力をせねばならない。
筋肉は時間をかければ得ることはできるが、剣術のレベルに関してはどれだけ努力しても越えられない壁がある。
(……どうしよっかな)
インベントはロメロに唯一対抗できるかもしれない策を思いついていた。
だが、初見という大きなアドバンテージを失ってしまうのもまた事実。
今後のために保留しても良いのだが……
「やってみるか」
インベントは止まらない。
出し惜しみをするタイプではないし、好奇心には勝てないのだ。
インベントは武器を収納空間に仕舞う。
そして――ゆっくりとロメロに近づいていく。
その距離ロメロから五メートル。
(幽結界ってのに範囲があるとすれば……恐らく四メートルぐらいだと思う。
なんとなくだけど……四メートルだと思うんだよね)
インベントはこれまでの数回の攻防と、勘で幽結界の有効範囲に目星をつけた。
「ほお」
ロメロは感心していた。
(幽結界の有効範囲をもう見極めたのか?
勘か? なかなか恐ろしい子だ)
インベントは幽結界のギリギリの地点に立っている。
だが無防備な状態。
仮にロメロが一歩前進し攻めてきたら簡単に負けただろう。
だがこれはロメロチャレンジ。
(さあ。どうするんだい?)
ロメロはワクワクしていた。
ギリギリの位置から何かをしでかそうとしているインベントを、心の底から楽しんでいるのだ。
インベントは――
(盾!)
盾を投げる。
幽結界内に入った瞬間、吹き飛ばされる。
ロメロはインベントを注視している。視覚に頼らず無意識レベルで盾を弾き飛ばした。
アドバンテージは全くとれていない。
インベントもそんなことは想定済みだ。
ロメロに剣を振らせただけで十分だからだ。
(縮地の一歩先!)
インベントは縮地を使う。
縮地は本来、超高速で三メートル先に着地する技だ。
だがインベントはあえて、着地するタイミングを一歩先に延ばした。
これで幽結界の有効範囲と、縮地の距離はほぼ同等。
着地は失敗するだろうが、幽結界に侵入さえできればよいと考えた。
このトライの目的は勝つことではない。
幽結界の有効範囲内に入れるかどうかだった。
「ごはあっ!!」
インベントが声を漏らした。
ロメロは地面に剣を突き刺し、インベントの縮地による突進を防いでいた。
だが――
(幽結界の中に入ることは……できたね)
インベントのいる場所は、ロメロから見て二メートルの地点だった。
インベントは縮地の初見のアドバンテージを失った。
だが幽結界はバリアのような超常現象ではないと確信した。
もっと速く動けばどうにかなるかもしれないと確信を得たのだ。
ロメロは笑う。
(これほど早く幽結界の中に入ってくるとはね!
いや、面白い! 面白いよインベント君!!)
ロメロチャレンジは始まったばかりなのだ。
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