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少女の心の壊し方

ちょっと鬱展開ですが、この話だけですので我慢してね!

紅蓮蜥蜴ファイアドレークの炎を封じるためにロゼさんを呼んだんだったな?」


 ホムラの質問に対しインベントが「はい」と言う前に、「そうですわ!」とロゼは答える。


「インベントが紅蓮蜥蜴ファイアドレークの炎を封じるには私の力が必要だと。

 急がないと隊員の皆さんが危ないと! ですので急いで現場に向かいましたわ」


(俺……そんなこと言ったかな? まあいいけど)


 ホムラは「なるほどな」と呟く。


「現場に到着しましたら、ノルド隊長が孤軍奮闘しておりましたわ。

 早く助けなくてはと思い、すぐに紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口を【束縛ニイド】で封じました。

 私が炎を封じている間に、隊員の皆さんが紅蓮蜥蜴ファイアドレークを倒しましたわ」


 ロゼが何を言いたいのかと言えば――


(つまり私のお陰で紅蓮蜥蜴ファイアドレーク討伐は成ったということですわ!)


 ロゼは早く称賛されたいのだ。

 承認されたくて仕方がない。


 今の彼女を動かすのは出世欲と承認欲求に他ならないのだから。



「はは~~ん。なるほどなあ~、そいつは凄いな~」


 茶化した言動でレイシンガーが発言する。続けて――


「ホムラ隊長(た~いちょ)」


「なんだ? レイシンガー」


「ちょっとばかし気になることがあるんで、俺から話を聞いてもいいですか?」


「……構わん」


「ありがとうございま~す」


 レイシンガーは「ははは」と笑いながら、眉間の皺に指をあて皺を伸ばした。


「そんじゃまあロゼよ。質問するぜ」


「……なんでしょう」


 不気味さを感じるロゼだが、自信は揺るいでいない。

 賞賛されるべき女であるという自負。


「今の話を聞いた感じだと、一人で炎を封じていたみたいに聞こえだんだけどさあ、本当に一人で封じられたの~?」


「どういうことかしら?」


「いやさあ、【束縛ニイド】のことはよくわかってるつもりなんだけどさ。

 【束縛ニイド】って自分自身が動いちゃうと強度がかなり落ちるんだよね。

 それに対象との距離が遠くなるほど強度が落ちると思うんだよね~。

 少なくとも俺はそうなんだよね」


「それは……そうですわね」


「だよねえ~? いや~俺だけかと思って心配になっちゃった! そっかそっか!

 で? 炎を一人で封じたってことはさ、大型モンスターの口を封じつつ他の攻撃も華麗に避けたってことかな~?

 それともかなり遠くから炎を封じたのかな~?

 どっちだとしても、そんなことができたら凄いことだと思うんだよね~」


 ロゼは眉間に皺を寄せながら――「いえ」と小さく答えた。


「ん~? 違うの~? 違うよねえ~? 恐らく誰かに護ってもらいつつ炎だけを封じていたんだよね?」


「それは……そうですわね」


「そっかそっか~。とりあえずインベント君みたいに一人で囮役を完璧にこなしたわけじゃないってことがわかったよ。

 なるほどなるほど~」


 ロゼは歯ぎしりをした。


 悪意。


 不穏な空気が流れる。

 だが『宵蛇よいばみ』の面々は平然としている。

 まるで示し合わせていたかのように、レイシンガーの発言を容認しているのだ。


 バンカースとメイヤースは困っているが口を挟める雰囲気ではない。


 インベントは、どうとも思っていない。平然と話を聞いている。

 事実は事実として聞いている。


「何が言いたいのかしら?」


「別に何も。単に事実を知りたいだけだ。

 この場は事実を知るために設けられた。何も間違っちゃいないだろ?」


「そ、それは」


「ま、いいよいいよ。ひとりじゃ炎も封じられない半人前ってことは分かった。

 それよりも知りたいのは、炎を封じたって自慢げに言ってるよな?

 だったらなんでインベント君は炎を浴びちまったの?」


 ロゼは「え?」と言う。

 そして理解した。


(この男……! インベントが炎を受けたことを私の責任だと言いたいのね!)


 レイシンガーの意図を知り、ロゼは怒る。

 黙っているロゼを無視し、レイシンガーは話を続ける。


「いや~炎を封じたはずなのにインベント君は三日も寝込む重傷だったわけだろ?

 死んでもおかしくない状況だったわけだ。でもおかしくないか~?

 炎は誰かさんが封じていたんだろ~? あれ~? どうしてインベント君が炎を受けちゃったのかな~?」


 いたたまれなくなりバンカースが助け舟を出した。


「あ、あの! 俺が拘束を解いていいって許可を出したんです!

 完全に沈黙したと判断したんで、もう大丈夫だと……」


「なるほどなるほど。でも炎が見えたんなら再度拘束すれば良かったんじゃないの?」


「い、いや。あの時、ロゼはもう……そのお……」


「あ、もしかして疲労困憊でぶっ倒れた? ハハハ! マジかよ!

 唯一任された炎を封じることさえできなかったわけだ! ひでーな」


 ロゼはキレた。


「そ、そこまで言われる筋合いございませんわ!!

 私はできることを一生懸命やりましたし、紅蓮蜥蜴ファイアドレークも倒せたじゃない!

 確かに……一人では炎を封じられませんでしたし、インベントに怪我をさせてしまったのは認めます。

 ですが……! 私は……!」


 レイシンガーは目の前にあった机を蹴り飛ばした。


「だから私は悪くねえ……ってか? 甘ったれたクソガキが」


「ッ!?」


「お前がちゃんと役割をこなしていれば、犠牲は出なかったんだよ」


「ぎ、犠牲!? 私のせいで誰が犠牲になったというのよ!」


 レイシンガーは心の底から侮蔑し、大声で笑った。


「ハッハッハハハハハハー! ヒヒー! こりゃあ傑作だなあ、オイ!」


 ロゼは意味がわからない。

 褒められることはあっても貶される筋合いなど一ミリも無いからだ。


 笑い疲れたレイシンガーは、軽く目を擦り――


「お前さ。そもそもなんで俺たち『宵蛇よいばみ』がここにいると思う?」


「え? それは……」


 ロゼは少し考え、「モンスター討伐するため……」と言う。


「そ。アイレドから要請を受け参上した。

 そんでもって、()()()()()()()()()トカゲ野郎をぶっ殺してきたよ」


「は? 紅蓮蜥蜴ファイアドレークは森林警備隊が……」


「ハッハッハ。本当に何も知らねえんだな。

 森林警備隊が殺したのは赤いドレークだ。

 そんでもって俺たち『宵蛇よいばみ』が殺したのは紺色のほうだよ」


 ロゼは知らない。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークを殺した後に濃紺のドレークが現れたことを。


「まだわかんねえって顔してやがるな。

 赤いドレークの近くには青いドレークがいやがったんだよ」


「う、嘘……」


「テメエはすやすや寝てたんだろ? お気楽なことだ。

 お前がちゃんと炎を封じていれば、インベント君は少なくとも動けたはずだ。

 つまりお前のせいでアイレド森林警備隊は優秀な駒を一人失ったわけだ」


(へ、屁理屈ですわ……)


 思っても言えない。そんな圧力。


「インベント君がいれば、二匹目のドレークをどうにかできたかもしれねえ。

 空を飛べるんなら、囮になって逃げることもできるだろうしなあ。

 犠牲は全部テメエのせいなんだよ。クソガキが」


「わ、わたしはわるくない!! わるくないわよ!」


 今にも泣きそうなロゼ。


 そんなロゼに対し、レイシンガーは「バァーカ」と言う。


「ま、いいけどよ。よく頑張りましたね~。それでいいんじゃね」


 怒りに震えるロゼの眼をしっかり見ながらレイシンガーは言い放つ。


「こ~んなバカの尻拭いをさせられた()()()()がただただ可哀そうだな~」



 ロゼの思考は正常な状態ではない。

 それゆえレイシンガーの発言をすぐには理解できなかった。


 だがレイシンガーの言葉を何度も何度も反芻した。


 そして――


「……たいちょう??」


 何も知らない少女。無知で無垢な少女。


 そんな純粋な少女を壊すのは簡単だった。


「犠牲になったのはテメエの隊長さんだよ」


「え? 隊長?」


「確か……ノルド隊長だっけ? 他の隊員を逃がすために一人囮になった」


「う、嘘」


「ノルド隊長は犠牲になったんだよ。

 出来の悪いクソ部下のせいで、死んだんだよ。ご愁傷様」


 ロゼはその場に崩れ落ちた。

10話先で、この話の裏が明らかになります。

ちなみに200話以上先で、この話の真相が明らかになります。

……遠い未来ですね!

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― 新着の感想 ―
肝心な時に現場にいることすらできてない無能がベラベラ語ってて草 手遅れになってから駆けつけたウスノロが理想論語並べ立てても滑稽にしか映らないんだよなぁ・・・
[一言] 要請があってから、随分遅くに駆けつけてきた者たちが、遅れてきた自分たちの立場を棚に置いて、随分好き勝手に言ってますね。遅れてきたことをうやむやにする意図があるのでしょうね。
[気になる点] すげー気になる 何の目的があって弾劾裁判されてるのか そしていつのまにか倒されている紺色ドレイク
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