宵蛇とはなんぞや?
「左から順に紹介していこう。
ロメロ・バトオ。『宵蛇』で副隊長を務めている」
「ロメロ・バトオだ。よろしくな」
快活に笑うロメロ。
非常に整った顔をしており、笑顔が若々しい。
インベントは30歳ぐらいではないかと判断した。
「『太陽』とか『陽剣』なんて呼ばれているんだが……インベント君は知らないかな?」
「はい」
インベントは当然知らない。
隣に座るロゼが「あなた本当に知らないの……?」と驚いている。
バンカースとメイヤースも非常に申し訳なさそうな顔をしている。
「ハッハッハ! 構わん構わん。二つ名なんてどうでもいいことだしな」
「どうでもよくはない」
「ハハハ、まあそうだな。ふふふ」
ホムラに窘められ、ロメロは笑う。
インベントはロメロに何か違和感を覚えていた。
(この人……何か変だ……。なんだろう……この違和感)
インベントは覚える違和感がなんなのか全くわからなかった。
微かに感じる勘のようなものだ。
「だったらホムラ隊長の二つ名もしっかりと教えたほうがいいんじゃないか?
ほら、若者にもアピールしておかないと」
「なるほどな。
ちなみに私は『炎天狗』と呼ばれている。炎の天狗だ。
……知らんみたいだな」
「す、すみません」
「構わん。だったら『星天狗』も知らんのだろう?」
「そ、そうですね」
インベントの反応にロメロとレイシンガーは笑っている。
ホムラは睨みつけて二人を黙らせた。
ロゼもバンカースもメイヤースも呆れている。
(う~ん……なんか有名みたいだね。でも知らないものは知らないし……。
あれ? 星天狗ってのは聞いたことがあるようなないような……)
「まあいい。その隣はピット・バトオだ」
「ピット・バトオだ」
(なんか……凄い強そうだなあ~。顔も怖いし。
でも……あれ? ロメロさんもバトオだったね)
「ロメロさんとピットさんはご兄弟なんですか?」
「ああ。ピットは俺の弟だ」とロメロが言う。
「え?」
インベント、ロゼ、バンカース、メイヤースが驚いた。
どう見てもロメロのほうが若い。
ロメロは下手すれば20代に見えるが、バトオはどうみても40代だ。
「兄は若作りなんだ。俺が弟だ」
バトオは言われ慣れているのか、突き放すように言う。
若作りのレベルではないと思ったが誰も言えなかった。
「へ、へえ」
「ちなみに『月光剣』なんて呼ばれている」
「おお~」
インベントは二つ名が好きである。
モンブレの影響もあるが、中二病的な名前が好きなのだ。
(ロメロさんが陽剣、つまり太陽だからバトオさんは月ってわけだ)
その後は淡々と紹介が進む。
『妖狐』、レイシンガー・サグラメント。
『碧天狗』、ネフィリア・フィルディナント。
二つ名があるのは五名だ。
そして
エンノ・シターノ。
デリータ・ヘイゼン。
ケア・ルーガ。
フラウ・ファイテン。
残り四名には二つ名は無いとのことだ。
だが……やはり違和感を覚えるインベント。
ロメロに続きもう一名、違和感を覚えたのだ。
(やっぱりなんか変だな。この隊はなにかおかしい)
一番の違和感。
ある人物をじーっと見つめてしまうインベント。
その視線に『宵蛇』の面々が気付かないわけが無かった。
「ゴホン」
ホムラが咳ばらいをした。
「まあ、『宵蛇』はアイレドの中でも有名である。
憧れている人も多かったりするんだぞ。まあインベント君はそうでもないみたいだが……。
ちなみにロゼさんはどうなんだい?」
「――そうですね。憧れ……よりも目標ですね」
そう言いつつ視線はレイシンガーに向いている。
レイシンガーは興味なさそうに知らん顔だが。
「なるほどな。ちなみに何か質問でもあるかな?
ここからは色々とこちらから伺わせてもらう。何か聞きたいことがあればどうぞ」
ホムラはロゼに向けて言った。
だが――
「あ、質問していいですか!」
インベントが空気を読まず手を挙げる。
ホムラとしては『宵蛇』のことを知りもしない奴が何を聞きたいんだろうと不思議に思った。
「構わないよ」
「ありがとうございます。
二つ名に関してなんですけど」
「ふふ。二つ名か。
二つ名に関してはだな。名誉ある活躍をした者に自然とついた名なんだ。
『陽剣』のロメロと言えば、怪鳥ヒエドラを一刀両断した際に、周りが名付けた。
『月光剣』のピットは、阿修羅コングを切り刻んだ際に名付けられた」
ホムラは饒舌に話す。
まるで用意されたエピソードかのように。
インベントは興味なさそうに「へえ」と答えた後――
「そちらの四人はなんで二つ名が無いんですか?」
「む? ……それは」
言い淀むホムラ。
それに対しバンカースが「おいおい、失礼だろう!」と言う。
インベントは「失礼ですか?」と首を傾げた。
「ハッハッハ! インベント君。別に失礼なんかじゃないぞ」
副隊長であるロメロが口をはさむ。
「エンノ、デリータ、ケアに関しては後方支援寄りなんだ。だから二つ名が無い。
まあ、全員超がつくほど優秀なのは間違いないがな。
そんでもって末席のフラウに関してはまだ入隊して二年。
二つ名をつけられるにしてはまだまだ力不足なのさ」
フラウは軽く口を曲げた。喋りはしないが不満げな顔だ。
インベントは「ふ~ん……そうなんですね」と言いつつ視線は――――デリータと呼ばれる男に注がれている。
バンカースよりも若く見える男。後方支援だからか武器も持っていない。優男にしか見えない男。
何故デリータと呼ばれる男が気になるのか、インベントにもわからない。
だが、ロメロとデリータには何かを感じてしまうインベント。
「ゴホン! ゴホン! さてそれではこちらから話を聞かせてもらいたいんだが、よろしいかな?」
「あ、はい。大丈夫です」
「ありがとう。それでは今回の大物討伐の件に関して話を聞かせてもらいたい」
インベントとロゼは頷いた。
インベントとしてはめんどくさいと思っている。
というよりもモンスター狩り以外に興味が無いからだ。
逆にロゼは――目を輝かせていた。
(これは……チャンスよね? 『宵蛇』に自分の力をアピールするチャンス!
まさかこんなにも早く『宵蛇』と会えるとは思ってなかったわ!)
ロゼはレイシンガーを見た。
(レイ兄さんが『妖狐』と呼ばれるほど活躍していることは知っていたわ。
同じ【束縛】のルーンを持つ神童レイシンガー)
ロゼはレイシンガーのことをよく知っていた。
レイシンガーとロゼはサグラメント孤児院の出身である。
レイシンガーは10年前、15歳の時に『宵蛇』に入隊している。
神童と呼ばれた男。それがレイシンガーなのだ。
それに対しロゼは神童の再来と呼ばれた。
レイシンガーと同じくレアな【束縛】のルーンを持ち、剣術の天才。
神童は神童に違いないのだ。
だがロゼはどうしてもレイシンガーと比べられてしまう。
それがたまらなく悔しかった。
だからこそロゼは願っていた。
『宵蛇』に入隊することを。
そのためにアイレド森林警備隊で出世することを。
大物狩りメンバー入りを画策したのも出世の足掛かりだったのだ。
(うふふ! しっかりアピールしなくっちゃ!
上手くいけば……! 『宵蛇』入りも叶うかもしれない!!)
一人テンションが上がるロゼ。
だがロゼは未だ知らないのだ。
紅蓮蜥蜴との戦いのその後を。
ドレークモンスターが二体いたことを。
そして――
誤字脱字報告ありがとうございます!
非常に助かってます!




