イング王国直轄部隊『宵蛇』来る
4章『宵蛇と最強剣士』です。
色々な事に巻き込まれる序章です。
インベントは夢を見た。
モンブレの世界の夢。
いつも通りの夢の世界。だが夢の世界は定期的に変化がある。
いわゆるアップデートだ。
だがインベントはアップデートなんて存在は知らない。
夢の世界の人たちはとってもオシャレさんで、定期的にトレンドが変わるのだと思っている。
(おお~!? これは見たこと無い装備だあ!
黒くてカッコいい! 技もオシャレだなあ!
え~っと装備名は――――――…………か)
**
インベントは見知らぬ天井で目を覚ます。
『お、目を覚ましたか?』
頭に響く声に「え?」と声を漏らした。
「アイナ?」
『おう。元気……か?』
普段通りアイナ・プリッツは念話を使って話してくる。
「うん……元気」
『おまえ、三日も寝てたんだぞ』
「……みっか? 三日!?」
『そだよ』
記憶の混濁を感じインベントは首を傾げた。
「おい、インベント」
「え?」
急に念話ではなく、声をかけてきたのでびっくりするインベント。
「とりあえず……立てそうか?」
「ん?」
「か、身体とかに異変は無いか?」
「うん……特には」
「ちょ、ちょっと立ってみろよ」
インベントはアイナに促され立ってみる。
インベントは足に多少の違和感を覚えたので足踏みをしてみる。
「う~ん。問題無いかな」
「おおー! そうかそうか!」
アイナの顔が綻ぶ。
「心配してくれたんだね。ありがとう」
「――――」
少しだけ間が空いて『うるせえ』と頭に響いた。
『あ~……お前が起きたら呼ぶように言われてるんだ。ちょっと待っててくれ』
「待って」
『んあ?』
部屋を出ようとしていたアイナを引き留めるインベント。
アイナは振り返ると、真剣――というよりも普段通りの無表情な顔をしたインベントがいる。
『どうした』
「色々聞きたいことはあるけど……一つだけ」
『――何?』
インベントは努めて冷静に。そして静かに言う。
「ノルド隊長は……無事?」
アイナはゆっくり目を逸らす。
アイナは沈黙する。
アイナは……どうにか言葉を紡ぎだそうと小さく口を開くが、言葉が出ない。
「わかった。大丈夫だよ。ありがとう」
インベントは笑う。
『……ごめん』
アイナはそのまま部屋から出ていった。
(また……逃げちまった。あたしゃあ死ぬまで卑怯者だよ……まったく。
でも……どうして……。
あいつ……どうしてあんなに……)
アイナが出ていった後、インベントは何も考えずドアを少しの間見ていた。
その後、おもむろにベッドに座り、溜息を吐いた。
「これからどうしようかな…………」
インベントが考えることはたった一つだけ。
「モンスター……早く狩りたいな」
**
インベントが一人スクワットをしていると、バンカースが入ってきた。
「お、おお! 大丈夫なのか!? インベント」
「あ、総隊長! はい! もう元気です!」
「そ、そうか……良かった……本当に良かった……」
今にも泣きだしそうなバンカースを見てインベントは笑う。
「ロゼも昨日まで寝ていたが、もう大丈夫だって話だ」
「あ~そうなんですね!」
「アイツは特に怪我も無かったしな。
【束縛】のルーンの使い過ぎで幽力欠乏状態になっただけだったし。
あ~……それと……言いづらいんだが……。昼から重要な会議がある。
それに参加してくれねえか?」
「はい。大丈夫です」
「そうか! すまねえな! 昼になったら使いを寄こすからそれまで休んでろ」
「わかりました」
**
「あら、インベント」
「ロゼ」
インベントはアイレドの町にある森林警備隊本部の一室に連れてこられた。
大きい部屋の中にロゼは一人で座っていた。
「今朝、目覚めたらしいですわね」
「うん。三日も寝てたみたいだね」
「体調はどうなの?」
「うん。大丈夫だと思う」
インベントは掌をグーパーして握力を確かめる。
異常は無さそうだと判断した。
実は何かが変だと思いつつも、具体的に言葉にできる違和感ではなかった。
「その……ありがとうね」
「ん?」
「最後、あなたが庇ってくれたんでしょ?
紅蓮蜥蜴の最後の炎は、私の油断でしたわ」
「いいよ。そんなこと。
いやあ~! 最後に炎を残しているのは意外だったよね~。さすがボスって感じ」
インベントは紅蓮蜥蜴を勝手にボス扱いしている。
大変な戦いであったが、インベントにとっては楽しいモンスター狩りでもあった。
明るいインベントを見て、ロゼは励ましてくれているのだと勘違いした。
「ふふふ、あなたって思ったよりも大人なのね」
「ん? そうかな」
「それはそうとノルド隊長がどうなったかご存じ?
一度もお見舞いに来てくれないんですわよ」
「え?」
「フン! まああの人らしいと言えばらしいですけどね」
「そうかロゼ。君は――」
ロゼは紅蓮蜥蜴を討伐した後、すぐに気を失っていた。
【束縛】のルーンを使い過ぎ、幽力を使い果たしてしまったからだ。
インベントは「紅蓮蜥蜴の後のことを知らないんだね」と言おうとした。
その時――
「待たせたな」
バンカースが総隊長補佐のメイヤースと共に入ってきた。
そして――
「お、彼らが噂の少年少女か~」
「不謹慎ですよ。ロメロさん」
「ははは、すまんすまん。ホムラ隊長」
ズラズラと九名が入ってきた。
インベントは誰一人知らない九名。
ロゼは――一人だけ知っている男がいた。
そして――
「レ、レイ兄さん!!」
レイと呼ばれる男は、ロゼを見て笑った。
「へっ! 懐かしいなあガキンチョ」
「ど、どうして……ここに?」
「ハア? なんだ、何も知らねえのかよ? 相変わらずトロいガキだ」
インベントはポカーンとしている。
(ロゼのお兄さん?? それにしては全然似てないな。
ロゼは赤黒い髪だけど、お兄さんは灰色の髪だし……顔つきも全然違うし。
そもそもこの人たち誰だろう?)
「レイシンガー。個人的な話は後にしろ」
「了解でっす。まあ話なんてありませんけどね」
レイことレイシンガーはホムラ隊長と呼ばれる人物に諫められた。
全員が着席し、インベントとロゼ二名に対し、11名から取り調べられるような雰囲気だ。
(この人が隊長なんだ。ホムラって名前なんだね。
でも……なんていうか……凄く小さい人だなあ~)
ホムラは身長150センチしかない。
赤毛のショートカット。眼力が凄まじいが年齢はインベントと同い年ぐらいにしか見えない。
「バンカース総隊長」
ホムラの呼びかけに対しビクリと反応するバンカース。
バンカースは緊張しているのだ。
「は、はい」
「私から話を進めさせてもらってもよろしいですかね?」
「か、構いませんが、二人とも病み上がりなんで状況も理解していないと思いますが……」
ホムラはチラリと誰かを見た。そして――
「構わない。私から話しましょう」
「で、ではお願いします」
ホムラは立ち上がった。
「突然呼び出してすまないな。
私はイング王国直轄部隊、『宵蛇』の隊長を務めるホムラ・ゲンジョウだ」
インベントは「ヨイバミ?」と呟き、首を傾げた。
「む? 『宵蛇』を知らぬか?」
「はい」
「そ、そうか……結構有名だと思うんだが……」
当てが外れたのかホムラは少し困った顔をした。
「も、申し訳ありません。こ、コイツちょっと世間に疎いっていうか……変わり者なんで」
バンカースが焦りながらフォローする。
『宵蛇』のメンバーのうちレイシンガーを含む二人が笑っている。
「いや、『宵蛇』ももっと精進せねばならんな。
そちらの――ロゼさんだったかな? ロゼさんはご存じかな?」
「ええ……勿論です」
と答えるが、視線はレイシンガーに向いている。
「きみはインベント君だったな。『宵蛇』に関して簡単に説明させてもらおう。
『宵蛇』はイング王国の精鋭を集めた部隊である。
遅くなったが軽く自己紹介させてもらおうか」
ホムラがクイと手を上げると『宵蛇』の全員は立ち上がった。