森林警備隊入隊試験④
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「あ~あ。何やってんですか」
「……うるせえ」
医務室には横たわるインベントと、バンカース。
そして受付をやっていたフェルネがいた。
「まさかバンカース総隊長ともあろう人が、新人を本気でぶちのめしちゃうなんて~」
「う、うるせえ! 本気じゃねえ!」
フェルネはニヤニヤしている。
「ほんとですかぁ~?
お腹の傷、結構やばいですよ~?」
「……う」
実際問題、バンカースはインベントにイライラさせられた結果、インベントの腹部に斬撃を喰らわせてしまった。
すぐに事の重要性に気付いたバンカースは、インベントを医務室に運びフェルネに処置をさせ今に至る。
(クソ……。フェルネには弄られるのわかってたから頼みたくねえんだが……。
【癒】のルーンを持つフェルネに頼むのが一番だからな)
【癒】のルーンは文字通り、人体を癒すルーンだ。
インベントの身体は完全に回復し、後は意識が戻るのを待つだけの状態になっている。
「そういやフェルネ」
「はい~?」
「お前、こいつに試験内容の説明してないだろ?」
「……あれ~? そうでしたっけね。
まあ、こんな華奢な子ですし、総隊長が優しくわからせてあげると思ったんですけどねえ~?」
噛みついたつもりが噛みつかれたバンカース。
「チッ」
「でも意外ですね~」
「あ?」
「こんな弱そうな子がバンカース隊長に本気を出させたんですか~?」
「ほ、本気なんて出してねえから!!」
フェルネは真顔でバンカースを見た。
「だったらどうしてこんな事態になっちゃったんですかね~?
メイヤースさんがこのことを知ったら怒りますよね~絶対」
「ぐむむ……。い、言わないでくれ~」
「ふふふ、どうしましょうかね~」
メイヤースとはバンカースの右腕である女性だ。
優秀ではあるが規則に厳しく、バンカースも頭が上がらない人物だ。
ちなみにフェルネはチクらないが、後々バレて大目玉を喰らう。
さてバンカースはインベントから顔を背けつつ、バンカースはインベントの戦い方を思い出す。
(どうしてこんな事態になっちまったんだろうな……。
動きは素人のソレだった。一つ一つの動きは下の下。
剣の振り方ひとつとってもお世辞にも褒められたもんじゃねえ。
だけど……なんだったんだコイツは?)
「魔術師みてえな野郎だったな」
「よくわかんないんですけど~結局強いんですか?」
「強くはない……と思う。
だが翻弄されたのは確かだ。というか未だに何をされたのかよくわからねえ」
「へえ~、ルーンはなんだったんですか?」
バンカースは大きくため息を吐いた。
「……わかんねえ」
「わからない?? 知らないルーンってことですか?
まさか、あの神童ちゃんみたいにレアなルーンだったってこと?」
「……いや……なんだったんだろうか。
モノを透明にするルーン……いやそんな馬鹿な」
バンカースは森林警備隊の総隊長であり、大抵のルーンは知っているし見たことがある。
そんなバンカースでもインベントのルーンを特定するには未だ至っていない。
まあ、インベント自身はルーンを秘匿する気が無いので、この後サラっと教えてくれるのだが。
「ふ~~ん。でもどうするんですか? この子」
「ん??」
「この子、入隊させるんですか?」
「ん? んん~」
バンカースは悩んだ。
(正直、俺を唸らせたのは今年二人だけだ。
俺を翻弄した奴なんてここ最近いなかった……。だとすれば……)
「入隊させるしか……ねえだろうな。
落とす理由が……わからねえよ」
「こんなにヒョロヒョロなのに?」
「だああー!! うるせえな!! しゃあねえだろ! わかんねえんだから!!」
「うるさいのは総隊長ですよ~。病人の前です。
あ、目が覚めそうですね」
バンカースはびくりとした。
目覚めることに対しての安堵と、気絶させてしまったことに対しての罪悪感。
「んあ……」
「おお~い、少年~? 聞こえる~?」
「ん? あれ? 受付の??」
目の前にフェルネの笑顔。
インベントは状況が理解できず顔を右往左往させた。
「どこか痛いところあるかしら~?」
「痛いところ……お腹……は痛くない……な」
腹部に違和感があるものの、擦ってみても痛みが無いことを確認した。
「そう~良かった」
インベントは上半身を起こした。
「え~っと……入隊試験……でしたよね?」
「そうよ~。入隊試験中にうちの総隊長がねえ~」
フェルネはバンカースに視線でパスした。
「いや……まあ……そのお~……すまなかったな。
ちょっとばかし熱が入っちまって」
「何がちょっとばっかしよ」というフェルネを無視し、バンカースは話を続けた。
「体調は本当に大丈夫か?
まあフェルネがしっかりと看病してくれたから問題ねえとは思うが……」
「はい。大丈夫です」
「そうか。そりゃあ何よりだ。あ~~~そのお~なんだ……」
バンカースは考えがまとまらないが――
「とりあえず……インベント。そういや~お前はなんで森林警備隊に入りたいんだ?」
「モンスターを狩りたいからです」
一切淀みのない返答。
会話のきっかけにしたいと思っていたバンカースは面食らう。
「そ――――そうかあ。
しかしお前……貧相な体してるからな。苦労すると思うぞ~?」
「あ~皆さん強そうですもんね。俺も鍛えないとだめですね」
「森林警備隊ってのは危険も多い。少なからず毎年死傷者も出る。
親御さんは反対してねえのか?」
「ええ! 凄く協力的なんですよ!」
インベントの両親、リアルト夫妻はインベントが落ちると信じて疑っていないので協力的なのだ。
「そ、そうか……うえ~っとだな~……」
言い淀むバンカースを見かねて――
「総・隊・長」
とフェルネが低いトーンで呟いた。
「総隊長なんだから堂々としなさい」というメッセージである。
「あ~。ゴホン!
それじゃあインベント」
「はい」
「森林警備隊の入隊を希望するか?」
「はい!」
「わかった! これからよろしくな!」
「よろしくお願いします!!」
こうしてインベントは森林警備隊の入隊が正式発表前に決まったのだった。
****
森林警備隊、入隊者発表後――
「あんた!!」
「……はい」
「あの子! 本当に森林警備隊に受かっちゃったじゃないの!! どういうことよ!!」
「……うう~ん」
インベントの母、ペトラはカンカンに怒っていた。
インベントの父、ロイドは頭を抱えていた。
インベントが入隊試験から帰ってきた日の夜。
食事をしつつロイドは現実に直面し落ち込んでいるであろう我が子を慰めようと思っていた。
だがインベントは「合格だよ」と自信満々に言った。
ロイドは強がっているのだと思った。
そもそも試験結果は後日発表なので、結果を知っているはずが無いと思っていたのだ。
ペトラは心配したが、ロイドは「大丈夫だ」と言い合格発表を待った。
そして合格発表当日――
インベントは「どうせ合格だよ」と自信満々だったが、ロイドは信じず入隊対象者が貼り出された掲示板を食い入るように見つめ我が子が合格していることを知り愕然とする。
そして怒られているわけである。
(あの、ゴルゲウス君が補欠合格したって聞いたが……うちの子が普通に合格してしまった……)
ゴルゲウスは見るからに屈強そうな少年であり、ロイドは余裕で森林警備隊に合格するだろうと思っていた。
そしてインベントは箸にも棒にも掛からず落ちるだろうと思っていた。
「なんで……あいつが合格しちゃったんだろう……」
「後継ぎどうすんだい!!」
「う、ううう~~~~ん」
ロイドは知らない。
インベントは運び屋の仕事を手伝いつつも、まだ見ぬモンスターを倒すために色々試行錯誤をしていたのだ。
バンカースは収納空間の使い方の片鱗を見ただけに過ぎない。
もはや、収納する空間ではなくなっていくのだが、それはもう少し先のお話。
インベント待望のモンスターがそろそろ絡んできます。
と言ってもゴブリンとかスライムのような王道モンスターは出ませんが。
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