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紅蓮蜥蜴狩り⑥

日刊ランキング四位ありがとうございます!

そろそろ一区切りです。

 少しだけ時を遡る。


「炎を封じてほしいんだ!」


 インベントが補給部隊の警護を担当していたロゼを見つけて、唐突に言う。

 突然の来訪者だが、ロゼはさほど驚かなかった。

 インベントが無茶苦茶なのはいつものことである。慣れていた。


「お、おい、何言ってんだ? というよりなんでお前がここに??」


 そう言って驚いていたのはデストラーダである。

 デストラーダは森林警備隊初日に行われたオリエンテーションを担当した強面の男だ。

 彼も大物狩りのメンバーだがディフェンダーのポジションなので、警護に回っているのだ。


 大先輩のデストラーダだがインベントは完全に無視して話を進める。


「炎を封じるには口を締めればいいんだ。

 だからロゼにお願いしたいんだ」


 簡潔。簡潔すぎる説明。


「わかったわ。行きましょう」


 でもそれで十分だった。


「お、おい! ロゼ」


 デストラーダはロゼの肩をぐいと引き寄せ制止させた。


「時間が無いのですわ。デストラーダ隊長」


「い、いや……だが……」


 ちなみにロゼが初めて配属されたのがデストラーダ隊である。

 そしてすぐに模擬戦を挑み、ロゼが勝利している。

 デストラーダはロゼの実力を知っている。誰よりも認めている。


「私は今ノルド隊です。失礼しますわ」


 ロゼの凄みに気圧され、デストラーダは引き下がった。


「こっちこっち~」


「ええ」


 ロゼは走り出した。

 走りながら初めての大物狩りに向けて心を整えていったのだ。



****


 ロゼを攻撃するために振り下ろされた紅蓮蜥蜴ファイアドレークの前足を、丸太を使い弾き返すインベント。


 ロゼはインベントなら紅蓮蜥蜴ファイアドレークの攻撃をどうにかしてくれると信じていた。

 だからこそロゼは紅蓮蜥蜴ファイアドレークの炎を封じることだけに集中し、目を閉じたのだ。


「ふう!」


 丸太ドライブで振り下ろされた前足を弾き飛ばした。

 だが紅蓮蜥蜴ファイアドレークの攻撃は止まらない。


終焉暴走バーサクモードだね……これ……」


 モンブレの世界でもHPが一割を切り瀕死状態になると暴れだすタイプのモンスターがいる。

 窮鼠猫を噛むような状況――――といっても紅蓮蜥蜴ファイアドレークは鼠にしてはデカすぎるが。


 ただ紅蓮蜥蜴ファイアドレークの攻撃は単調だった。


 左右の前足を思いっきり振り回すだけだからだ。

 丸太ドライブ零式で問題無く相殺できる。できるのだが……


(ちょっと……やばいな……)


 左右からの攻撃に冷静かつ正確に丸太をぶつけるインベント。

 ゲートを正確に開くのでさえ本来は難しいのだが、インベントにとっては簡単なことである。


 よって相殺するだけなら難しくはない。

 ただ――――


(ま、丸太がもう無いんだよね!!!!)


 この世界の収納空間はサイズが決まっている。

 二メートルの立方体。

 そしてインベントが収納している丸太の数は――15本。



(8! 7! 6! ヤバイヤバイ!!)


 終焉暴走バーサクモードは終わらない。


(5! 4! 3! ど、どうしよう!!)


 手が浮かばない。

 使用した丸太を回収するタイミングも無い


(2! ……これで最後!!)


 インベントは飛び上がり……思いっきり丸太をぶつけた。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの顔が吹き飛ぶ。

 ロゼは衝撃を感じ、触手の縛る力を強めた。


(丸太がドスドスと落ちる音が聞こえるわ。

 さすが……どうにかしてくれているのね)


 ロゼは目には見えなくても、インベントが護ってくれていることを感じ安堵した。

 これで炎を防ぐことに集中できる。


 と思いきや――


「ごめん! ロゼ! 丸太切れた!!」


「え!?」


 インベントの叫びにロゼは狼狽した。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークは吹き飛ばされた顔を思いっきり振り戻し、インベントにぶつける。


「ぐええぇ!!」


 インベントは避けきれず吹き飛ばされた。


「い、インベント!?」


 ロゼは目を開き、周囲の状況を確認する。

 そしてインベントがいないこと、周囲に丸太が転がっていること、そして――紅蓮蜥蜴ファイアドレークが前足を振り上げて待ち構えていることに気付いた。


(ど、ど、どうしましょう!?

 拘束は弱められない!

 で、ですが攻撃を避けないと!

 きょ、距離をとるのはダメですわ! 拘束が弱まる!

 飛び上がる!? しゃがむ!? 受け止める!?)


 思考が纏まらず、ロゼはただただ身体を強張らせた。

 無数にある選択肢がどれ一つ正解だと思えないからだ。


「へ、へ、ふ、ひ、ほ」


 意味の無い言葉が漏れた、


 その直後、紅蓮蜥蜴ファイアドレークは攻撃を決行した。

 振り払われた一撃は確実にロゼを捉えている。


 万事休す。

 それでも口の拘束だけは外さないのはロゼの意地だった。


(も、もうダメだわ!!)


 ロゼは目を閉じた。


 ドーン!!


 ロゼは重く鈍い音を聞いた。

 そして目を開けた。


「ハッ。たいしたことねえな! トカゲさんよお!」


「え?」


 渋い声。ノルドかと思ったがノルドよりも低い声だ。

 ロゼの目の前には一人の男が立っていた。

 見覚えのある後ろ姿。


「で、デストラーダさん!?」


「へッ!」


 デストラーダは先程までロゼとともに後方支援部隊の護衛を務めていた。


「な、なんでここに?」


「可愛い後輩が……命令違反してるんだ。俺もしたくなっちまったのよ!

 オラアアア!!」


 デストラーダは自身の大盾を使い、豪快に紅蓮蜥蜴ファイアドレークの攻撃を受け止める。


「オラオラオラ! 大したことねえな!

 雷鬼らいきのほうが痛かったぞ!!

 オラァ!! 暴風狼ストームウルフのほうが素早かったぞ!!」


 事実、青白い炎さえ封じてしまえば、紅蓮蜥蜴ファイアドレークはそれほど強くない。

 この戦いでも死者は今のところ二名だけである。

 炎さえ封じればアイレド森林警備隊の頑強なディフェンダーであるデストラーダに防げない攻撃ではないのだ。



「切り刻めえええええ!」


 デストラーダの咆哮に呼応し、バンカースの咆哮が木霊する。

 もう紅蓮蜥蜴ファイアドレークは助からないほどの重傷を負っている。

 後はトドメをさせば終わりである。


 両手を振り回す元気も無くなってきたのだろう、紅蓮蜥蜴ファイアドレークは弱弱しく目を閉じた。

 それでもロゼは拘束を弱めない。最後っ屁があるかもしれないからだ。



(――許すまじ)



 大量の血が流れ、勝利は確定している。

 ただ、大物狩りは終わりの判断が難しい。

 死んだふりをして力を蓄えている可能性もある。



「刺せ刺せー!!」


 ここまでくると遠距離部隊の仕事は無くなる。


 剣や槍を使い、モンスターの内部を抉る作業に入る。

 臓物を抉り肉体を完全に死亡状態に追い込む作業だ。


 ただ、頭部はロゼが拘束しているため、攻撃を避けている。

 


「痛ててて」


 インベントは木にもたれ掛かり休息をとっている。

 【ペオース】のルーンは使い過ぎているし、何より紅蓮蜥蜴ファイアドレークに吹き飛ばされたダメージが大きい。


(左腕が動かないし、お腹が痛いな……。ハア)


 紅蓮蜥蜴ファイアドレーク狩りももう終わりだ。

 インベントは念のため紅蓮蜥蜴ファイアドレークを観察してるが、自分の出番は終わったと思い達成感と脱力感の中緩んでいた。



(――許すまじ)




 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの周囲は血の海になっていた。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの身体は緩み、確実に死へ向かっている。


「おーっし! 疲れた奴は休憩しろよー!

 だけど油断するなよー!」


 大物狩り経験者はモンスターが大きければ大きいほど生命力があることを知っている。

 だからこそ、完全に死亡と判断するまで気は抜かない。

 とはいえ……もうまな板の鯉だ。



「チッ」


 ノルドはインベント同様後方で待機していた。

 今回一番の功労者はノルドであるが、身体は限界を迎えていた。


(ガラにも無く全開で動き過ぎたな……。あ~身体が痛え。

 ……明日は休養、というか数日休むか)


 チラとインベントを見た。

 インベントが吹き飛ばされたことは知っているが、無事であることは確認していた。

 無事ならそれでいい。そう思っている。


(アイツもさすがに少し休養が必要だろうしな。

 いい機会だ。アイレドに一旦帰郷させてもいいな)


 ノルドは知らず知らずのうちにインベントのことを考えていることに気付き――

 「ガラじゃねえ」と頭を振った。



(――許すまじ)



**


「よ~し……討伐完了だ!!」


 バンカースは紅蓮蜥蜴ファイアドレークが完全に沈黙したと判断し、勝鬨かちどきを上げた。

 周囲からは歓声が響く。



「ロゼ」


「バンカース総隊長」


 バンカースは笑いながら――


「本当に助かったよ、ありがとう」


「いえ……役に立てて良かったです」


 安堵と疲労からかロゼはよろけた。


「おいおい! 大丈夫か?」


「は、はい」


「拘束はもう解いていいぞ。完全に沈黙している」


「そうですわね」



 ロゼはゆっくりと触手を解いていく。

 一本一本と解くにつれ、ロゼの負担は減っていく。



(――許すまじ!!)



「ロゼーー!! だめーー!! まだ解いちゃダメーー!!」


 インベントの叫び声が聞こえるが、ロゼはもう止めることができなかった。


 触手を解くことで、ロゼは自身が触手によって自立できていたことを知る。

 触手が消えていくと同時に、ロゼは地面に倒れていく。



 そして――

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口が少しだけ開いた。


 意識的に開けたのではない。

 無理やり絞めていた口が、拘束が無くなり少しだけ開いたのだ。


(――あ)


 バンカースは気づいた。

 口の中に青白い炎が残っていることを。

 そして咄嗟に身構え、ロゼを庇う。


 正真正銘、最後の炎。


(くっそ! 護れるか!? いや! 護ってみせる!!)



 盾を持たないバンカースは、腕を交差させロゼの盾となった。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口から炎が噴射される。



(え?)


 バンカースは目の前に炎を遮るように割り込む誰かを見た。


(だ、誰だ? ――――インベント??)


 インベントはロゼが拘束を解こうとした瞬間に走り出し、発射の瞬間にギリギリ間に合ったのだ。



(ゲートシールド!!!)


 収納空間の入り口であるゲートを紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口に向けて開いた。


 ゲートシールドは直径30センチの収納空間の入り口を利用し攻撃を吸収、もしくは反発させてしまう技である。

 ラホイルの足を切断したモンスターが放った光の矢を撃ち返したこともある。


 非常に強力な防御方法なのだが弱点も多い。

 一番の欠点はゲートは直径30センチしかない点だ。


(く!! 抑えきれるか!??)



 ゲートシールドを炎に向けた。

 放射された炎を受け――


 インベントが最後に聞いたのはノルドらしき声が「インベント!!」と叫んだ声だった。

 そしてインベントの頭に声が響いた。




(――――――――許すまじ)




**


「インベント!!」


 インベントは体を揺すられ、名前を呼ばれるので目覚めようとしたが目が開かない。


(これは……ノルドさんの声だ)


 眼は開かないし、意識は朦朧としているがなんとか覚醒しているインベント。


「【ギルフェ】はいねえのか!? 【ウィン】でもいい! とにかくこいつを助けてやってくれ!!」


 この場所に30名近くいるが、【ギルフェ】ルーンを持つ人間はいない。

 スピード特化の人材を集めたため、補助系の人材のほとんどは後方支援に回っているからだ。


「インベント! 死ぬなよ!?」


 ノルドの声で自分自身がかなり危うい状態であることを知った。


 インベントは紅蓮蜥蜴ファイアドレークの炎を受けゲートシールドで顔は護ったもののかなり炎を受けてしまっていたのだ。


(なんか……両手両足が全て無くなったような感じだなあ……。

 でもまあ……意識は問題無いし……大丈夫かな?)


 インベントは冷静に自分自身を分析した。

 そしてどうにか意識があることを伝えようとし――


「だ、だいじょぶでえす」


 と消え入るような声で話した。


「い、インベント!? 意識があるんだな!?」


「ふぁい」


 消え入るような声だがどうにか反応するインベント。

 ノルドが安堵するのを感じた。


「待ってろよ。医療班のところまで運んでやるからな」


 インベントは安堵し、眠る寸前のような意識があるか無いかわからない状態になった。


 だが――


(――許すまじ)


 インベントは憎悪の声を聞いた。

 終わったはずの憎悪の声。


(まさか……紅蓮蜥蜴ファイアドレークが生きている??)


 インベントはノルドに伝えようとしたが、唇はもう呼吸以外を許してくれなかった。

 そして――



「馬鹿な――」

「嘘だろ……」


 騒めきが聞こえる。


 騒めきの中に悲壮感が混じっている。


(やばい……! 紅蓮蜥蜴ファイアドレークを仕留め切れていなかったんだ!!)


 インベントは状況から判断し、紅蓮蜥蜴ファイアドレークが復活したんだと想像した。


 だがインベントの想像は間違っている。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークは完全に沈黙している。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレーク()死んでいるのは間違いない。



 ただ……事態はインベントの想像を超えて悪くなっていた。











 紅蓮蜥蜴ファイアドレークと同等のサイズの濃紺の蜥蜴ドレークが森林警備隊を睨みつけていた。

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