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紅蓮蜥蜴狩り⑤

「けっ。遅いぞロゼ」


「うふふ、そう言わないでくださいな。

 いきなり呼び出されて、『口を封じろ』なんて言われたんですからね」


 ノルドは不満げに話しかけるが、表情は明るい。


 バンカースは事態が理解できていない。


(な、なんでロゼがここに??)


 本来なら総隊長に確認もせず人員を追加することは許されない。

 だが目の前の状況を見れば、納得せざるを得ないだろう。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口はロゼの触手によって封じられている。

 複数の触手が絡まりあい、強制的に口を閉ざしているのだ。



「バンカース!!」


「え?」


 ノルドが叫ぶ。


「炎は封じたぞ!!」


 バンカースの脳に血液が回り始めた。

 勝機――


「ぜ、全体!! 総攻撃を仕掛けろ!! 尻尾は気をつけろよ!!」


 だが長時間待機していた面々は、号令を受けても中々動き出せない。


「続けええ!!」


 そんなことはお構いなしにバンカースは駆けだした。

 そして今日一度も使用していなかった新月剣を抜いた。


「どりゃあああ!」


 新月剣は切れ味の鋭い剣であるものの細く耐久性に乏しい。

 だが【保護エオロー】のルーンで新月剣の強度をアップさせることで、攻撃力と耐久性を両立させている。


 新月剣を対モンスターに使うには【保護エオロー】のルーンを持ち、長年の経験が必要。

 アイレド森林警備隊で使いこなせるのはバンカースだけである。



 肉を削る。鮮血が舞う。

 幽壁に護られているものの、全力の攻撃を全て吸収できるほど紅蓮蜥蜴ファイアドレークの幽壁は堅牢ではない。

 それに紅蓮蜥蜴ファイアドレークも長時間の戦闘でかなり疲弊している。


「つ、続けえ!」


 隊員たちが総隊長に続く。


 多勢に無勢。

 自慢の炎も封じられ、危険なのは振り回している尾のみ。


 大物狩りの面々はこれまでのフラストレーションを解き放つかのように攻撃を繰り出し続けていた。

 ――三名を除いては。



(これは……マズいですわね)


 ロゼ・サグラメントは【束縛ニイド】のルーンを全力で使い、紅蓮蜥蜴ファイアドレークの炎を封じている。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口を閉じるだけの力がロゼにはある。

 だが全力を振り絞らねば口を閉じ続けていられないのだ。



(保つか??)


 ノルドはロゼの傍らで状況を見守っている。

 ロゼに余裕が無いこともすぐに気づいた。


 とは言え平然と立っているが、ノルドもノルドで疲弊している。

 何せ20分近く一人で紅蓮蜥蜴ファイアドレークと戦っていたのだから。



(ヤバイかな……)


 インベントは木の枝に立って状況を観察している。

 ちなみにインベントはロゼのことは全く心配していない。


 彼が懸念しているのはただ一つ、紅蓮蜥蜴ファイアドレークの攻撃パターンの変化だ。



(炎と尻尾攻撃だけだったのに……足の攻撃が選択肢に増えちゃうとマズイなあ……。

 ドラゴンが気付く前に死ねばいいんだけどな~)


 ちなみにインベントはインベントで疲れていた。

 【ペオース】は燃費の良い能力なのだが、リジェクションムーブを始めとした【ペオース】を利用した移動方法は体に負担をかける。

 いつもなら問題無いのだが、今日は使い過ぎている。



「ぐううう!!」


 突然、紅蓮蜥蜴ファイアドレークが首を振り始めた。

 拘束を解こうと必死になっているのだ。


 そして少しだけ隙間が生まれた。

 人間でいえばおちょぼ口のような状況になった。


 ――次の瞬間。


 一筋の閃光が放たれた。


 青い空に向けて青白い炎が一本の筋となって放たれたのだ。


 これに一番驚いたのはロゼだ。


(あ、あんなモノを喰らったら即死ですわ……)


 炎の形状は口の形によって変化する。


 通常の長距離射程の炎は喉からそのまま放たれる。


 広範囲型は一旦口に溜めた炎を解放することによって爆発したかのような形状になる。


 偶発的ながら炎を凝縮し放たれた。

 ロゼは炎の恐ろしさを今更ながらに知る。

 そして炎を封じることがどれだけ重要な仕事なのか肌で体験した。



(うほおお! レーザー! すっげ!)


 ノルドとロゼはレーザーに危機感を覚えていたが、一人テンションが上がるインベント。


 バンカースを含む森林警備隊の面々はとにかくダメージを与えることに躍起になっている。


(あれを撃たせてはいけないですわ!!)


 レーザー状の炎が誰かに直撃すれば、森林警備隊の勢いに水を差す。


 そう思ったロゼは、より一層強い力で紅蓮蜥蜴ファイアドレークの口を縛る。

 だが紅蓮蜥蜴ファイアドレークが振り払おうとするたびにロゼの幽力は減っていく。



「チッ! 俺も攻撃参加してくる。耐えろよ。ロゼ」


 ノルドはロゼが炎を封じている間に紅蓮蜥蜴ファイアドレークを殺すために攻撃参加することを決める。

 ロゼは返事をする余裕も無かった。


「くううううう、ぐうううううぅ……」


 徐々に縛る力が弱まっているのを感じていた紅蓮蜥蜴ファイアドレーク

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークは首を振り、必死になって触手を外そうとしている。


 幽力がガンガン減っていく。

 頭痛と倦怠感でロゼは視界がぼやけだしている。

 だが諦めない。


(炎を封じる! 約束! 炎を封じる! 約束! 炎を封じる! 約束!――――)


 ロゼを支えているのは意地と約束だ。

 先刻、インベントが炎を封じるためにロゼを頼ってきた。

 ロゼはその期待に応えると決めた。


 だが意地ではどうしようもないレベルまでロゼは追い込まれている。

 追い込まれた状況でロゼは諦めることにした。


(インベントは見てるはず。あの子なら……どうにかしてくれる気がする)


 ロゼは瞳を閉じて、首を倒した。

 遠くから見てもわかる。ロゼは紅蓮蜥蜴ファイアドレークを見ることを止めたのだ。

 とにかく縛ることだけに集中したのだ。


 縛ることのみに専念し、縛る力は増す。

 だがロゼは完全に無防備な状態になった。


(私は私の役割を全うするのよ!)


 ロゼは決意をもって紅蓮蜥蜴ファイアドレークの炎を封じる。



**


(見てない?)


 インベントはロゼの変化にすぐに気づいた。


 ロゼはインベントが気付くと確信していた。


(インベントの恐ろしいところは……まあ色々ありますけど何より観察力よ。

 敵のパターンを見抜くのが恐ろしく速いし、それにパターンの変化に気付くのも速い。

 どこかで観察しているんでしょう? だったら私の変化にも気づくわよね? うふふ)


 インベントはロゼの思惑通り、ロゼの変化に気付いた。

 だが眼を瞑ったことで明らかに強まった拘束。紅蓮蜥蜴ファイアドレークもロゼが自身を見ていないことに気づいた。


 インベント、ノルド、そしてロゼ。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの憎しみは最高潮に高まっていた。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレークもボロボロな状態であり、いつ死んでもおかしくない状況には追い詰められている。


 だが――今、紅蓮蜥蜴ファイアドレークが為すべきことは目の前の敵の排除なのだ。


 ロゼ・サグラメントを屠る。


 そのために紅蓮蜥蜴ファイアドレークができることは――


 振り上げた前足。

 無防備な人間を殺すには十分な威力がある。

 まともに喰らえば、ロゼの首は簡単に飛び散るであろう。



 振り下ろされた前足。

 だが、恐ろしい速さで攻撃に飛び込んでいく男が一人。


(丸太ドライブ……零式!!)


 振り上げられた前足をインベントが弾き返した。






 フィナーレはもうそこまで来ている。

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