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【収納空間】を極める男 ~モンスターを狩りたいので誰よりも【収納空間】を使い込んでいたら、色々な事件に巻き込まれてしまう。『俺はモンスターを狩りたいだけなのにぃ!』~  作者: 森たん
第十六章 愛_恋のライバル編

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正々堂々

 ライラと戦う前夜。

 インベントは自宅の倉庫に籠り、たっぷりと時間をかけて収納空間を埋めていく。

 ライラへの必勝の策は思いつかなかったが、有効と思われる手順はそれなりに思いついていた。


 途中、アイナにお願いし、シロたちと話ができるか確認してもらった。が、存在確認はできたが話せる状況ではないようだ。


(明日は、師匠たちの力は借りられないな)


 ライラ相手に万全の状態で臨みたかったが、シロとクロの助力は得られない。

 少しだけ孤独を感じながらも、夜は更けていった。


**


 翌朝、アイナには「軽くけちょんけちょんにしてくるよ」と軽口をたたいて家を出た。


 ライラの泊る宿まで向かい、ライラと合流してからカイルーンの町を抜けて、森の中へ。

 ライラの表情は無表情とまではいかないが、少なくともインベントに好意を向けた表情ではなかった。インベントは、昨日の言葉が影響しているのだと思った。

 特に会話も無く、一時間以上歩いた。


**


「この辺でいいかな」


 インベントに連れられてきた場所で、ライラはきょろきょろと周囲を見回した。

 ライラはなにか見覚えがある気もしたが、森は森であり、特に気にも留めなかった。


 ライラは背負っていた曲刀『カイムーン』を、身体の前に置き、柄頭に肘を乗せて身体を預けた。


「さて、始める? さっそく」


 インベントは待ったをかけた。


「念のためルールを再確認したい」


 ライラは肩を竦めた。


「俺がライラに怪我をさせたら、俺の勝ち」

「いいわよ、それで」

「例えば、ナイフで小さな傷がついたとしても、それは俺の勝ちでいいの?」


 ライラは鼻で笑い、頷き、インベントも続いて頷いた。

 インベントは収納空間から、ゆっくりと一本だけ『死刑執行剣(エクセキューショナー)』を引き抜いた。『死刑執行剣(エクセキューショナー)』は切っ先が平であり、反発力を活かすことに特化した剣である。

 最近は双剣を使っており、『死刑執行双剣(エクセキューショナー)』よりも一回り大きい。

 倉庫から引っ張り出してきたのだ。


「へえ、変わった剣ねえ」

「ま、特注品だからね」

「ふ~ん」

「じゃあ、やろっか」


 ライラは肘掛にしていた剣から肘を離し、ゆっくりと倒れていく剣の柄を掴んだ。

 鞘だけが地面に転がった。


「フフ、やっとね。やっと戦えるのね。『運命の人』」

「そうだね。やるからには正々堂々やろうか」


 ライラは肩幅ぐらい足を開き、だらりと剣を構えた。


「フフ、いつでもど~ぞ」


 インベントはライラをじっと見て、溜息を吐いた。


(余裕たっぷりな感じで、『いつでもどうぞ』か。まったく――――本当にロメロさんみたいだな)


 ライラの態度が、ロメロチャレンジを思い起こさせた。

 インベントは、このタイミングでロメロに関して言うかどうか悩んだが、思いとどまった。


(煽るよりも、余裕こいてるうちに終わらせる)


 インベントは『死刑執行剣(エクセキューショナー)』を仰々しく、上段に構えた。

 ライラは首を傾げる。意味のある構えには思えず、ハッタリにもなっていなかった。


 インベントは『死刑執行剣(エクセキューショナー)』を下方向に突き刺し『反発移動リジェクションムーブ』を発動。ふわりと浮き上がった。

 続けて最大出力で再度『反発移動リジェクションムーブ』を発動。一気にライラとの距離を詰める。


 ライラは嬉しそうに少し剣を引いた。ライラの剣は幽力を纏っていない。

 ふと、今なら剣を交えることができるかもしれないと思ったが、インベントは即座にその考えを捨てた。


(ライラはいつでも【太陽ソエイル】を出せる――いや【太陽ソエイル】のようなやつか)


 結局のところライラのルーンがなにか判明していない。

 インベントはライラのルーンを、複数のルーンが合わさった得体の知れない強力なものと仮定した。


 インベントはライラが剣を振る前に、大きく上昇した。

 ライラは見上げ「眩しっ」と太陽の光から目を逸らした。


 インベントはライラから距離をとって着地し、またもや一気にライラとの距離を詰める。

 が、インベントは途中で急停止し、深く沈み込むような構えをとった。


 睨みつけるような見上げる視線と、呆気にとられた見下げる視線が交錯した。


(そうだ。俺をしっかり見ろよ)


 見つめ合う両者。あともう少しだけ見つめ合っていれば勝敗は決したのかもしれない。

 ライラは異常に気付いて、大きく後方へ飛びのいた。


 その直後、十を超えるナイフがライラの立っていた場所に突き刺さった。


「チッ」


 インベントは舌打ちし、『死刑執行剣(エクセキューショナー)』を収納空間へ。


 ライラは元居た場所に駆け寄った。


「な、なによこれ!」


 インベントは不満げな表情で「もうちょっとだったのに」と嘆いた。


「な~んか奇妙なことばかりしていると思ったら……あ! 上空に飛び上がった時にナイフをあらかじめ準備してたってこと!? え? もしかして太陽が眩しいなって思ったのも計算?」


 インベントはなにも答えない。


「これのどこが正々堂々なのよ!」


 インベントは大袈裟に溜息を吐いた。


「ライラはさ、わけのわからない凄いルーンなんでしょ? 俺のルーンは【ペオース】だよ? こんな理不尽な差があるかい? 俺の正々堂々とライラの正々堂々は違うんじゃないかな?」

「なにその屁理屈」


 インベントは適当に話を続けながら、次の策を考えていた。


(ナイフ作戦は失敗か。どうして気づいた? 野生の勘? これで終わりだったら楽だったんだけどな)


 インベントは再度『死刑執行剣(エクセキューショナー)』を取り出した。


「ま、さっきのは余興みたいなものさ。ここからは正々堂々とやろう」


 インベントの言葉に対し、ライラは半目で疑いの視線を向けていた。


「嘘じゃないさ。本当に正々堂々とやるよ」


 インベントはライラから離れ、先ほどと同じように浮き上がった状態から一気に加速した。

 そして、ライラから五メートル以上離れた地点で、大きく右側に移動した。当然ライラの視線はインベントを追いかける。

 続けて、また大きく右方向へ加速。それを何度も繰り返し、ライラを中心に高速で移動し始めた。


「わあ。すっご」


 目にも止まらぬ速さに、ライラは目を輝かせた。

 インベントは地に足をほとんど着けることなく、周回を続けていた。


「ホント、速いのねえ」


 正々堂々、速さで真っ向勝負をしてくるインベントに、ライラは下唇をぺろっと舐めた。

 ライラはインベントが攻めてくると思い、待っていた。しかしインベントはひたすら高速移動を繰り返していた。


(目も慣れてきちゃったわ。来ないなら――――)


 ライラは一足飛びで前に。するとちょうどよい場所にインベントがいる。剣を振れば当たりそうだ。


「シッ!」


 ライラは遠慮なく剣を振った。インベントが再度加速すれば、自ら剣に当たりにいくことになるだろうと思った。だからこそ、インベントはこのタイミングで違う行動をとるだろうと。

 しかしインベントはライラの剣に向かって加速した。


(――なにを考)


 次の瞬間、ライラの視界からインベントが消えた。


(『縮地・(オン)』)


 インベントはこれまでライラに、収納空間から発生する反発力を利用した移動を度々見せていた。

 ライラの認識では、インベントは不可思議な力で高速移動することができる人物だと思っている。そう思わせていた。


 インベントが隠していたのは、予見し難い予備動作からの高速移動。

 インベントは見事に、ライラの右後方へ移動し、すでに音もなく槍を構えていた。


(ライラでも初見では気付けない。なぜなら――――)


 これまでの情報収集の中で知ったライラとロメロの決定的な違い。それは――――



(キミは『幽結界』を使えないからね)

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