表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/445

紅蓮蜥蜴狩り②

 上空に舞い上がったインベント。


「インベント! 行っきま~す!」


 某ロボットアニメのようなセリフで出陣するインベント。

 モンブレで一時期はやっていたのでやってみたのだ。

 インベントには気負いは無い。


 下から見上げている面々に対し、決行の合図を出した。

 ノルドはただ見上げるだけだが、ほかの面々は手を振った。


「が、頑張れよ――!!」


 アイナの叫び声に、インベントは笑った。

 そして――飛び出した。



**


「アイツの索敵範囲は100メートル以上だと思え」


 ノルドのアドバイスを胸に刻みつつインベントは接近する。

 警戒しつつ小刻みに進む。


 森林に阻まれて見えないが紅蓮蜥蜴ファイアドレークの居場所はおよそ見当がついている。

 二日前の時点でノルドが事前に確認に行っているし、アイレドに向かってゆっくりと北上しているものの動きは遅いからだ。



 緑の絨毯の中にひと際目立つ赤い点を見つけた。


(――いた)


 索敵範囲外から発見できたことは幸運だった。

 一番不安視していたのは、インベントが気付かないうちに索敵範囲内に入り炎で殺される展開だったからだ。


(いっくぞおーー!!)


 インベントは空を駆けた。

 雲一つない空。

 青いキャンバスに深紅のインベントが駆ける。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークは気づいた。

 空から来る奴は二度目だ。すぐに同じ敵だと気が付いていた。

 

 口腔内が青白く光り、インベント目掛けて正確に炎が撃たれた。


(どうやって気づいてるのかな~?)


 インベントは暢気にそんなことを考えている。

 圧倒的なスピードを誇るノルドでさえも恐怖した炎だが、インベントにとっては怖くないのだ。


(この距離でおおよそ炎が届くまでの時間は5秒。

 自由落下しただけで躱せちゃうんだよな)


 炎はインベントの頭上を過ぎ去り、霧散していった。


 地上では線である炎の攻撃だが、空中だと点を狙う攻撃となる。


(あのドラゴンさん、狙いが正確過ぎるんだよねえ。

 それに…………8……9……よし)


 10秒後、再度発射される青白い炎。


(タイミングもインターバルも正確。

 油断しちゃあだめだけど、これだけ見させてもらえば怖くないよ)


 インベントは紅蓮蜥蜴ファイアドレークが炎を発射する際にできるだけ空中で静止するようにした。

 あえて狙いやすくするためである。


(もうちょっと近づいてもオッケーかな)


 距離が近づけば、炎の到達時間は短くなる。

 それでもインベントは避けられる自信があった。


(うふふふ……楽しいなあ)


**


 一方――


 上空に乱射される炎を見て、大物狩りの面々は多少恐怖感を覚えていた。

 今はインベントが囮になっているが、いつこちらに照準が向けられるかわからないからだ。


「(行くぞ!!)」


 バンカースは自身が率いる小隊の面々に突撃の合図を出した。


 他の部隊も各々状況を判断し紅蓮蜥蜴ファイアドレークに接近する手筈になっている。


 恐怖を感じつつも、新人が囮になっている状況で尻込みするわけにはいかなかった。

 大物狩りのメンバーはとにかく炎の発射地点目掛けて走った。



 紅蓮蜥蜴ファイアドレークとの距離が100メートルを切った時、勘のいい面々は冷や汗をかいた。

 射程範囲に入ったことを感じ、いつ炎が飛んできてもおかしくないと悟ったからだ。



 紅蓮蜥蜴ファイアドレークも人間が近寄ってきていることを感じていた。

 だが見下してきているインベントからターゲットを変更できずにいた。

 ゆっくりと深紅の点であるインベントが近づいてきているからだ。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの無音の咆哮が響き、青白い炎が撃たれる。

 だが一向に炎は当たらない。



 インベントは更に近づいてくる。

 距離は50メートルを切った。

 インベントに下された命令は、空中から注意を惹きつけることなので命令は遂行されている。

 期待以上の囮役をやってのけたのだ。

 もうこれ以上近づく必要など無いのだ。


 それでもインベントが接近を止めない理由。それは――


(これだけ近づいているのに……まだパターンは変わらないのか?)


 インベントは炎のパターンを完全に掴んでいる。

 50メートル以内に接近したとしても、先読みすれば避けられる自信があった。

 逆に言えば、先読みできない攻撃を喰らえば当たる可能性はあった。


(追い込まれればモンスターの攻撃パターンは変わる可能性がある。

 引き出せるなら追い込まれた場合のパターンも把握しておきたいんだよね~)


 アイレド森林警備隊のため?

 いや、インベント自身が知りたいからだ。


 何故知りたいか?

 そこに明確な理由などない。

 言葉を覚えた赤子が「どうして?」と聞き続けるように、インベントはとにかくモンスターに興味津々なのだ。



 インベントは両手を拡げ、さあ撃ってこいとばかりに挑発を始めた。

 赤いモンスターを挑発する赤い少年。


「む!?」


 炎の発射間隔が一秒未満だが速くなった。


「……それだけかあ」


 インベントはひどくがっかりした。


(レーザーみたいになるとか期待したんだけどなあ。

 ――――もうタイムリミットだよ)


「よくやったあ!! インベントオ!!!」


 バンカースの大太刀が紅蓮蜥蜴ファイアドレークの前腕部にめり込んだ。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークのターゲットがバンカースに変更された。

 口腔内で炎を生成し――吐き出された青白い炎。


「ぬるい!!!!」


 バンカースはいとも簡単に避けた。


「続けえええええ!!!!」


 四方八方から大物狩りのメンバーが襲い掛かる。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの死角から飛び出し、斬撃を喰らわせすぐに距離をとる。

 機動力を誇る面々で構成されているので、ヒットアンドアウェイはお手の物だ。


 更に弓で遠距離攻撃が放たれる。


 近接攻撃→回避→遠距離攻撃の波状攻撃だ。



 紅蓮蜥蜴ファイアドレークも応戦してくるが、一番の武器である炎がここまで接近を許してしまったため大した脅威では無くなってしまっている。

 森林を無視して長距離から発射されるからこそ脅威だったのだ。

 口から吐き出される炎は予備動作も大きく、スピードに自信があれば避けることはさほど難しくない。


 現状一番厄介なのは炎ではなく、長い尾を使った攻撃である。


 死角から飛び込み攻撃しようとした隊員が、振り回された尾がクリーンヒットし戦闘不能になった。


「尾に注意しろお!! 側面から狙ええ!!」


 尾の攻撃が想定外に強力だったが、対応できないほどではなかった。

 炎と尾に配慮しつつ刻んでいく。継続すれば森林警備隊の被害は少なく、モンスターにダメージを与えられる。

 大物狩りの面々は、勝利の確信を持ち始めていた。


 このまま継続すれば勝てる――そんな自信を得始めていた。



 現状、脱落者は二名だが、死者はいない。

 重傷を負った二人は、いつの間にか参戦していたノルドが回収していた。


 今回、通常の大物狩りでは招集されない人材も、スピードがある面々が追加招集されている。

 大物狩り初参加の面々も多く、ある程度怪我人が出ることは想定されていた。


 そして炎を直撃すれば死亡する可能性が高いので、戦闘不能の人物が辺りに転がっているとどうしても気になってしまう。


 なのでノルドが怪我人の回収を任されているのだ。


**


(くそ……しぶといな!)


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークには無数の傷が刻まれていた。

 だが傷はジワジワと回復していく。


 紅蓮蜥蜴ファイアドレークの表皮は多少幽壁があるものの攻撃を防ぐほど強力な防御ではない。

 ただ、回復力が高く傷がゆっくりと治っていくのだ。


 一つ誤算があったのは、紅蓮蜥蜴ファイアドレークには不意打ちができないことだった。

 ノルドやインベントが得意とする不意打ちは、意識外からの攻撃であり意識外からの攻撃は、幽壁が発動しない。

 よって不意打ちのダメージは大きいのだが、紅蓮蜥蜴ファイアドレークは敵の位置をほぼ全て把握しているのだ。


 結果、背後からの攻撃であっても不意打ちにはならず、幽壁である程度ダメージが減少させられ、回復力で傷は塞がってしまう。

 そして紅蓮蜥蜴ファイアドレークの幽力はサイズに見合うかなりの量を誇っていた。



 それでも……勝てる。

 バンカースは勝てると判断している。


(幽力は無限じゃねえ! 攻撃を続ければいつかは幽力が切れる!

 そうすりゃあ俺たちの勝ちだ!!)


「いけるぞ!! ジワジワ削れええぇ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ