最悪の選択
ライラを森の中に放置した次の日。
穏やかないつも通りの一日。インベントは森に出かけ、モンスターを狩り、幸せをかみしめた。
モンスターとの遭遇率が低いことは気がかりだが、そんな日もある。
しかしそんな幸せな日は続かない。
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さらに翌日。
インベントは朝早くに森へ向かった。
幸運なことに上空からでも目を引くモンスターを発見した。
すぐさま大地に降り立った。
「おほう、これはなかなか素晴らしいぞ」
全身が黄色の鱗で覆われ、白の斑模様。黄土色の宝石のような瞳。
「ヘビさんだ。いいねえ。かなり大きい。存在感がある」
スネークタイプのモンスター。個体ごとに色彩のバリエーションがあり、常にインベントを楽しませてくれる存在。特に明るい色は遭遇確率が低いため、本日は非常にツイている。
「うふふ、黄色かあ。雷攻撃とかしてもいいんだよ?」
インベントはモンスターに語り掛ける。木に体を絡めていたモンスターだがインベントを警戒し臨戦態勢となった。鋭い歯を剥き出しに、インベントを見下ろすようにゆっくりと頭部が上昇していく。
見つめ合う両者。モンスターがぴくりと動いた直後、頭部がまるで鞭の先端のように力強く、そしてしなやかにインベントの眼前に迫った。インベントは間一髪のタイミングで回避。そして愉悦の笑みを浮かべた。
「イイねえ。蛇って本当は臆病らしいね。威嚇って『俺は怖いぞ、だから帰って!』ってお願いしてるようにも見えるよね。ふふ、俺は逃げたりしないけどさ」
インベントの右手にはいつの間にか剣が。モンスターはインベントを警戒してか、頭部を揺らすように動かし始めた。
「ふふ。蛇って感覚機能が優れているんだね。さて、どうしよっかな」
楽しい狩りの時間。ふたりだけの時間。
だが、突然モンスターがビクリと反応し硬直した。警戒レベルを大きく引き上げたのか、頭部が後方へゆっくりと移動していく。下手すれば今すぐにでも逃げ出しそうな様相。
モンスターはインベントではなく、インベントのその先を警戒していた。理由に気付いたインベントは、わなわなと震えだした。
インベントは振り返り、モンスターが警戒する方向をきっと睨んだ。
木々に邪魔されているのか、なにも見えない。だが、確実に近づいている。モンスターを遠ざけるような清涼な――インベントにとっては、腐臭に思える最悪な空気を。
そして恐ろしい速さでインベントたちがいる地点を通り過ぎようとしていくなにかを、インベントとモンスターは同時に発見した。
「あ! いたいた~インベント君」
ライラは甘ったるい声で、艶っぽく、胸を揺らしながら近寄ってくる。その愛情表現が全て忌々しい。
インベントは振り向きもしないが、モンスターは明らかに目の前にいるインベントよりも、後ろにいるライラをひどく警戒していた。インベントの心に広がる嫉妬心。
「何しに来たんだ!?」
インベントは思わず怒鳴った。ライラは気にもせず能天気に、インベントに近づいてくる。
インベントはライラに向けて、収納空間から砂袋を発射した。それをライラは大げさに回避。
「きゃ? なになに~? ってデカぁ! 蛇のバケモノ!?」
ライラは今の今までモンスターの存在に気付いていなかったのか、目を丸くして驚いた。
そして好奇に満ちた瞳で、モンスターを眺めながらゆっくり近づいてくる。
「おい! 寄るな! 止まれ!」
インベントが左手を突き出して、ライラに止まるように命令した。まるでモンスターを守るかのように。しかしライラは気にもせずインベントの近くまでやってきた。
「もー! どっか行けよ! 邪魔すんな!」
インベントは実力行使するわけにもいかず、困惑していた。そんな中、ライラはまじまじとモンスターを観察していた。そして呟いた。
「近くでモンスタ―見るのなんて初めて――――ではないか。近くでも見るのは二度目ね! 一度目はおっきなカエル」
「えっ!?」
インベントは目を見開いた。
「か、かえる?」
「そ、カエル」
「カエルのモンスター? カエルってあのゲコゲコ鳴くカエル?」
「ゲコ? カエルはリビッリビッでしょ」
「は? いや、とにかくカエルなんだね。カエルのモンスターなんて見たことないよ」
「へえ、そうなの。大きくて気味悪かったわ」
「大きさはどれぐらい!?」
ライラは自らの額に手を当てて――
「これぐらいかしら?」
「でけえ!? めちゃくちゃ大きいじゃないか!? ど、どこで見たの!?」
ライラは口を尖らせ「ずっと遠く……かな」と歯切れ悪く答えた。
「いいなあ~。カエルか。う~ん見たいな~いいな~」
『モンブレ』の中ではカエルのようなモンスターが存在する。しかし犬程度のサイズの雑魚であり、人並みのカエルモンスターに想像と妄想を膨らませ笑みを浮かべる。
そんなインベントに対し、『カエルなんかよりオレのほうが凄い』と思った――のかはわからないが、モンスターは一瞬の隙をつき攻撃を試みた。
恐ろしいスピードでモンスターの牙が、背後からインベントに迫る。ライラは「あ!」と声を漏らした。
モンスターの攻撃にインベントが引き裂かれ、吹き飛ばされた――かと錯覚するライラ。
しかしインベントはいとも簡単に回避をした。
背後であっても、インベントは『幽結界』でモンスターの位置を把握していた。
「別に隙なんて見せてないよ。――というか」
インベントは伸びきったモンスターの身体に対し、勢いよく丸太をぶつけた。盛大に吹き飛ぶモンスターを見て――
「スネークタイプは攻撃がワンパターン過ぎるんだよね。突進攻撃しか無いんだもん。雷とかビームとか出してよ。それか尻尾をぶん回しとか、色々あるでしょうに」
妖しく笑みを浮かべるインベント。
そんなインベントを見て、ライラは思った。
かっこいい――と。
そしてライラは、インベントに気に入られるためにある選択した。
巨大な曲刀を――――抜いたのだ。
「フフフ、このモンスターを倒せばいいのねえ」
そう――――
最も間違った選択をしたのだ。
海外ではカエルの鳴き声はリビットリビット。
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