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紅蓮蜥蜴狩り①

 決戦の朝。


 日が上る前に作戦は始まっていた。

 大物狩りを行う精鋭部隊29名は9部隊に分けられ、紅蓮蜥蜴ファイアドレークの射程範囲外から包囲する陣形をとった。


 そして更に後方に医療班と物資補給班が簡易的なキャンプを展開する。

 今回はディフェンダーと呼ばれるモンスターの攻撃を受ける役割の面々は大物狩りに参加しない。

 よって通常であれば大物狩りのメンバーに名を連ねる面々が医療班や物資補給班の護衛に回っている。


 守備は万全である。

 そしてその中に、ロゼもいた。


(……先を越されましたわね)


 今回、インベントが大物狩りにおいて重要な役割を担うことはすでに聞いていた。

 特殊な事情ではあるものの、大物狩りの最前線に参加する実績は大きい。


(インベントの特殊性と有用性がしっかり認められれば、今後も大物狩りメンバーに追加される可能性は大いにあるわ。

 ……なんというか、悔しいものですわね)


 インベントの実力を一番認めているのはロゼ自身である。

 だから大物狩りにインベントが加わることは何も異論は無い。


 ただそこにあるのは、嫉妬以外の何物でもないことをロゼは理解していた。



**


(……なんか変な感じだな)


 今回の大物狩りにおいて先陣を切るインベントは、三日前から小高い場所に陣取っていた。

 ――というよりもVIP待遇を受けていた。


 森の中にはインベント専用のテントが張られ、中にはベッドも用意された。

 野営というには待遇が良すぎるのだ。


 そもそも森の中でキャンプをするのは自殺行為であり基本的には安全区域以外では行わない。

 ただ、今回はメンツが豪華である。


 周辺警戒にはノルドと【マン】のルーンを持つ人材が一名配備された。

 更に護衛としては大物狩りに名を連ねる二名が配備されている。

 そして物資の面では駐屯地補給班の隊長であるスピカ・ニアガラと、助手としてアイナ・プリッツが参加している。


「アイナちゃ~ん。料理の準備は終わった~?」


『は、はい!! も、もう少しですー!!』


「アイナちゃ~ん。ちゃんと言葉にしましょうね~」


 スピカに諭されて、アイナは「はいぃ!!」と返事した。

 アイナは涙目である。


(な、なんで私がこんな目に……かったる~)


 この非常に豪華なキャンプにおいて一番の下っ端であるアイナはシャカリキ働いていた。

 普段はサボりがちな彼女であるが、こんな場所でサボれるほど彼女は図太くない。


(くそお~。インベントと仲がいいからってこんな場所に呼ばれることになるとは……!!)


「アイナちゃ~ん? もうすぐ定期連絡の人が来ますよ~」


『は、はい!』


 スピカが優しく睨む。


『あ、ちゃんと返事しないと……かったる~……ハッ!?』


(って、念話で不要なことまで言ってしまってるじゃん!!)


「は、はいいい! 準備します!!」


 アイナは絶賛バグり気味である。


**


「インベント。例のモノが届いたぞ」


 インベントはあからさまに嫌な顔をした。


「うわ~……派手派手ですね」


 インベントは真赤な服を受け取った。


「あの紅蓮蜥蜴ファイアドレークが色を識別できるかは判らねえがな。

 囮である以上、目立ったほうがいいだろう」


紅蓮蜥蜴ファイアドレークかあ……。絶対、蒼炎紅蓮滅龍ブルーファイアスカーレットドラゴンのほうがいいのに」


 インベントは命名されたモンスターの名前にやや不満を持っている。


「それに……なんですかこれ? 臭いですよ?」


『臭くねえよ馬鹿野郎!! それはいい匂いって言うんだよ! ボケエ!!』


 アイナが念話でツッコミを入れた。

 フラストレーションがたまっているのだ。


「何かのハーブの匂いらしい。俺は詳しくないがな」


「ふ~ん……まあいいですけど」


 インベントは真赤な上着に袖を通した。


「いつもは目立たないことを意識しているのに……変な感じですね」


「ハッハッハ、似合っているぞ」


 ノルドは柄にもなくインベントを褒めた。

 ノルドとしてはインベントに気負わせないように配慮しているのだ。


 新人が大物狩りに大抜擢。

 更に先陣を切る重要な役割を与えられている。

 当の本人は全く緊張しておらず、周りの人間のほうが緊張している状況だ。


『お~いいじゃねえか~。紅蓮蜥蜴ファイアドレーク殺しっぽいぜ?』


 アイナの念話に反応する。


「ええ~? そうかな? ドラゴンキラーって良いよね~」


『それを言うならドレークキラーだけどな』


 相手によって装備を変えるのはモンブレの世界でもよくあることだ。

 紅蓮蜥蜴ファイアドレーク殺しと言われて、インベントはテンションが上がる。


「ア~イ~ナ~??」


「すんませんすんません!!!」


 スピカに睨まれ、アイナは仕事に戻った。


「今日は好きなもの食べていいからな」


「……ノルドさんにそう言われると、なんか気持ち悪いですね」


「ハッ。美味いものを食って活力になるならそれも良しってことだ」


「まあ、いつもの団子でいいですよ」


 ノルド特製の激不味健康団子に、少しアレンジを加えた団子を頬張るインベント。



「ハ~、まだですかね~」


「もうそろそろだろう。予定では日の出二時間後だ」


「ふ~ん」


「お? 噂をすれば――」


 二人組がやってきた。


「伝令です!!」


「あらあらご苦労様です。ほらアイナ、お茶をご用意して」


「は、はいー!」


 二人組は緊張感を持った面持ちだ。


「申し上げます!

 バンカース総隊長より、『インベント隊員の準備が整い次第、決行せよ』とのことです!」


 インベントは「よ~し!」言ってズボンの埃を払った。


「もう行くか?」


「はい」


「よし。スピカさん、狼煙を頼む」


「は~い」


 手際よくスピカが狼煙をあげる。

 風も無く狼煙は真っすぐ空に向かう。

 煙を追うようにインベントは空に舞い上がった。


 ノルドは雛鳥が巣立つような気分でインベントを見つめていた。


「ノルドさん」


「ん?」


 護衛役の男、ボドルがノルドに声をかけた。


「彼は……大丈夫でしょうか?」


「いつも通りだな」


「それは……問題無いってことですか?」


 ノルドは一呼吸おいて――


「囮役……、問題無いと思う。

 あいつは緊張するタイプではないし、今日もいつもと変わらんかったからな」


「囮役、ですか?」


「まあ……そうだな」


 含みのある言い方にボドルは眉を上げた。


 今回のインベントの役割は、上空から紅蓮蜥蜴ファイアドレークを挑発し、炎を撃たせることにある。

 その隙に、大物狩りの精鋭達が接近する手筈になっている。


 つまり精鋭たちが接近すればインベントはお役御免となるわけだ。


(囮が終わったらさっさとこの場所に帰る。それで終わり。

 ……なんだけど、そのまま帰宅するような奴じゃねえんだよな。ハァ……。

 まあ……大丈夫……だろ)


 ノルドは心配しつつも、一旦インベントのことを忘れ集中する。

 ノルドはノルドで大物狩りで重要な役割を担っているからだ。



 今、紅蓮蜥蜴ファイアドレーク狩りが始まる。

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