残酷なインベントのテーゼ
『青猿』は右手に剣を持つと、不思議と姿勢が良くなっていく。
綺麗な二足歩行。堂に入った構え。
「確かに……人間らしくなっていく」
インベントは気味が悪いと思いつつも、狙い通りの展開であり納得した。
合図などなく飛び掛かってくる『青猿』に対し、両手に剣を構え応戦するインベント。
「カタキ! コロス!」
「ぐぬ、ぬぬ」
剣術対決は『青猿』優勢で進む。
アイナが多用する回転切りのような派手な技は無いが、手足のように剣を扱い、インベントの二刀流をあしらってくる。
しかし不思議とひやりとするシーンは訪れない。
(手を抜いている……わけじゃない。コイツ……守備的だ)
剣を持った『青猿』は守備的な戦い方をしていることに気付いた。
右手に持った剣は、受け流しを多用するし、幽力を纏った左手は守りに専念している。
(模擬戦だと勘違いしている? 殺すって言いながらそんなわけないか。
これが『青猿』の――ジンとかいう人の戦い方――いや――)
インベントは飛びのきながら、収納空間からあるものを取り出し、『青猿』の足元へ投射した。それは盾と手甲。
『青猿』はじっとそれらを見つめ――盾を手に取った。
左手に盾、右手に剣。『青猿』の構えはとてもしっくりとくる。
心なしか『青猿』も嬉しそうに見えた。
(これが……ジンってやつの本来の装備か)
インベントが斬りかかると、『青猿』は盾を剣を巧みに使い攻撃をいなしていく。
特に盾の扱いは剣以上に巧みであり、インベントの想定外の方向へ受け流され、体勢を崩される。
それでも積極的に攻撃には転じてこない。
(剣も盾も、コイツにとっては防具なんだ。なるほどなるほど。
無理して攻撃してこないのは、攻撃しなくてもよかったから。
だって、仲間がいる――仲間がいたから)
ジンがモンスターの攻撃を受け止め、仲間がその隙に攻撃する。
極々自然な森林警備隊での戦い方。
「ハハ。ってことは俺がモンスターに見えてんのか? 馬鹿馬鹿しい」
『青猿』からは、インベントがモンスターかつ仇に見えているのかと思うと無性にイライラした。
インベントは瞬時に大剣に持ち替え、一刀両断する勢いで薙ぎ払う。
急な攻撃の変化に『青猿』は驚いているし、クロも驚いた。
しかし『青猿』は盾と剣を交差させインベントの攻撃を防御し、身体を旋回させることで攻撃を華麗に受け流した。
「チッ。攻撃を受け流したところで――追撃してくれる仲間なんてオマエにはいないのに」
『青猿』はインベントの発言を聞いたからかわからないが、ビクリとして背後を見た。
『青猿』の視界には一面森林が広がっている。もちろん仲間なんていない。
『こ、これだっ!』
クロは思う。『青猿』を口撃するなら仲間の存在しかないと。
『ベン太郎! いけるぞ! 精神攻撃のチャンスだ!
罵れ! 罵倒しろ! 暴言をまき散らせ! 一人ぼっちのモンスターもどきだと教えてやれい!』
『え、愛のある言葉で人間に引き戻すんじゃないの?』
『あ~ん? 愛してない相手に愛のある言葉なんて伝わらねえよ! 絶望の淵に落として、お、俺は人間だったのか! って思い出せばいいんだよ』
『な、なんか違う気がするよ! あなたは人間! 正気に戻って! とか』
口撃方法が食い違う両者だが――インベントは更に妙案を思いついていた。
より――残酷な方法を。
仲間がいないことに戸惑っているように見える『青猿』を一笑に付し、インベントは走り出した。
『青猿』に向かってではなく、明後日の方向へ。
『お、おい! どこ行くんだよベン太郎』
せっかくのチャンスなのになぜ逃亡するのかわからず、慌てるクロだが、インベントは『青猿』を見ていた。ついてこいと促すように。『青猿』は目論見通り追いかけてくる。
だが全速力ではない。一定距離を保ったままインベントを追いかける『青猿』。
『青猿』は理解してるのかもしない。インベントの企みに乗ってはいけないことを。
だが、追わずにはいれない。それはモンスターの本能なのか? それとも仇としての執着心か。
五分ほど走った先でインベントは停止した。
インベントは笑っていた。とても嬉しそうに。
『青猿』は警戒しているのか構えたまま立っている。
「俺さ、人間って殺したくないんだよ。だから悩んでたんだ」
インベントは語り掛ける。
「でもさ、勘違いして欲しくないんだけど、オマエが死んだとしても全く悲しくない。
むしろ勝手にくたばってくれたら最高だよ。なんで町中になんて来たんだ、忌々しい。
人間のくせにモンスターになんてなるんじゃねえよ。恥を知れ恥を」
インベントの口撃。だがそれは『青猿』には効果がなさそうだ。
心配になるシロとクロ。
『なんか方向性間違ってねえか?』
『うん。ただの恨み節?』
しかしインベントは口撃する気などなかった。ただの八つ当たりである。
本番は――これからである。
「ハハ、オマエは防御が得意みたいだな。確かになかなかの腕だよ。
だったらさ――」
インベントは剣を一本取り出し、後方へ投げた。続けてふわりと浮き上がり、自身も大きく後方に飛び跳ねた。
『青猿』は追いかける。追いかけている途中で、ピタリと足を止めた。止めざるを得なかった。
なぜならば――
「ずっと防御してろよ――モンスター相手にさ」
『青猿』の目の前には――大型のボアタイプモンスターが鼻息荒く待ち構えていた。
『青猿』が攻撃してきたのだと思っているのだろう。
「ハハハ、バトンタッチだ。
本当ならば俺が狩りたいけどさ。しょーがないから譲ってあげるよ!
ねえ先輩!? 森林警備隊なんだろ? お手本見せておくれよ!」
タイトルは適当です。
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