表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

429/446

発想の転換

『ねえねえ、フミちゃん』

『あん? なんだよ、こっちは忙しいんだ』

『うん、忙しいのはわかるんだけど、聞いて』

『後にしろ、後に!』


 シロとクロは小さな部屋で生活している。

 行き来することは可能であり、会話することもできる。それ以外にもチャット形式で呼びかけることも。


 クロの視界に突然文字がずらずらと並ぶ。『き・い・て!』がエンドレスに。


『おわっ!? な、なにすんだよ! 戦闘中だぞ』

『逃げてるだけだし大丈夫でしょ』

『い、いやまあ、そうだけど』

『私、思いついたの』

『あん? なにを?』

『あのモンスターを殺さずにどうにかする方法』


 クロはかじりつくように『青猿アオザル』を見ていたが、口をへの字に曲げてからシロを見た。


『随分と強い言葉を使うじゃねえか』

『え? 別に強い言葉なんて使ってないよ?』

『あ~へいへい。で、なんだよ? 殺さずにどうにかする方法?

 あんな暴れん坊を無力化できる策を思いついたってのか?』

『えっと……うんと……。

 昔、一緒に見たアニメでね、なんか暴走しちゃった人……バーサーカー? だっけ?』


 クロは思わず結論から言え――と言いそうになるがぐっとこらえた。


『あ~はいはい。バーサーカー、狂戦士ね。どのアニメの話だ?』

『そ。バーサーカー。暴走しちゃった男の人を、聖なる魔法みたいなので正気に戻すシーンがあったと思うんだけど……。あれ? エルフの口づけだっけ?』

『いや、まあ、古今東西その手の話は色々あるが――ん? シロ、まさか』

『うん、そう』


 クロは察して天を仰ぐ。


『なるほどな。アレを人間に戻しちまうってことか?』

『うん』

『確かにアレは人間らしさを色濃く残してる。というか町中では人間だったもんな。

 そっか、正気に戻ればベン太郎を襲う理由も無くなる……かもしれねえな』

『うんうん。それにあの人だって元に戻りたいと思うんだよね』

『ま、他に妙案もないし……やってみっか!』


 シロは理解してもらえたことが嬉しくてうんうんと頷いた。


『じゃあどうしよっか? 叫ぶ?』

『あん? 叫ぶだぁ?』

『正気に戻って! あなたは人間よ! みたいな?』


 クロはせせら笑う。


『カカカ、相変わらず頭お花畑だな~。モノノケ姫じゃねえんだから』

『むう。だったらどうするのよ?』

『へっ、こういうのは本能に訴えかけねえとな』


**


「あ~困ったな」


 インベントは西へ西へと向かう。

 遠くに故郷アイレドの町が見えた。なぜか無性に故郷が恋しく見える。


「いっそ……アイレドの町に戻っちゃえば、『青猿アオザル』から逃げれるんじゃないかな?

 なんかもうそれでいい気がしてきたよ。うん、目いっぱい遠くまで連れて行こう。それからアイレドに戻ろう」


 逃亡プランが固まった。そんな時――


『カカカ、ベン太郎ベン太郎。応答せよ』

「はーい」

『逃げるのもいいんだけど、ちょ~っと試したいことができた。なんとシロの発案だ』

「ほほう?」

『もう一回地上戦をやってみてほしいんだけどいけるか?』

「そりゃあ……まあ」

『よ~し、そんじゃあ着陸だ!』

「はあ」


 インベントは首を傾げながらも、急停止し、そのまま真っすぐ降下していく。

 『青猿アオザル』は当然追従してきた。


「で? どうするんですか?」

『とりあえず……アイツに剣を渡せ』

「へ!?」

『大丈夫だ。剣を渡すんだよ』

「で、でも」


 ここで話し手がクロからシロに切り替わった。


『ベンちゃん』

「は、はい」

『私ね、そのモンスターを、人間に戻してあげたいの』


 インベントはシロの発言に耳を疑った。

 硬直するインベントに迫る『青猿アオザル』。インベントはハッとしつつ回避し、とりあえず逃げた。


「人間に? 戻す? モンスターを?」

『うん。だって、さっきまでその人、ジンって人だったでしょう?』

「い、いや、それはそうですけど……モンスターですよ? モンスターは動物には……」

『それはそうかもしれないけど、その人はちょっと特殊な気がするの。

 だってアイナちゃんと一緒にいた時は人間だったじゃない。多分なんだけど、こ~心が昂ったりするとモンスターになっちゃうんじゃないかな? ほら狼男的な』


 クロが『狼男の話はわかんねえだろ』と突っ込みを入れた。


『あ、え、あ、そっか。でもでも、元に戻る可能性ある気がしない?』


 動物が変異しモンスターになる。だがモンスターが動物に戻ることは無い。それが常識だからだ。

 物理的にモンスターをどうにかしようとしていたインベントにとっては、まさに寝耳に水の提案。


「で、でもどうやって?」

『うんうん、だからまず、剣を渡してみよう』

「何――で?」

『さっき、剣を持った時、喋りだしたでしょ? 多分人間の時の記憶が蘇っていると思うの。

 元々、警備隊けーびたい? の人なんじゃないかな?』


 クロが『ありゃ剣がメインウエポンの動きだな』と解説を挟む。


「それは――そうかもしれないけど……」


 先ほどまで、インベントはどうにかして『青猿アオザル』をモンスターだと思い込もうとしていた。

 ここにきて真逆の発想――『青猿アオザル』は人間であり、人間の部分を引き出そうという展開。


 抵抗感はある。が――インベントはシロの策に乗ることにした。

 インベントは剣を二本取り出し、巨木の前に立った。

 すぐさま迫ってくる『青猿アオザル』を華麗に回避し、その場に剣を投げ落とす。


 『青猿アオザル』は巨木に激突したもののダメージは無く、きょろきょろと周囲を見渡した。

 そして――二本落ちていた剣のうち、長いほうの剣を手に取る。


(長いほうが好みか。二刀流ではないよね)


 インベントはじっと『青猿アオザル』を見ていた。


 モンスターを人に戻す――そんなことができるのか半信半疑。

 だが、どうすればいいのかわからない状況に比べれば、目的が定まっているほうがまだ動きやすかった。



「さあ来いよ『青猿アオザル』――いや、ジン。このクソ人間」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ