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シロちゃんは思いついた

 インベントはもう『青猿アオザル』をモンスターとして見れなくなっている。

 生い立ちもなにも知らないが、『青猿アオザル』はジン・ハルゲートという人間として認識してしまった。


『お、おい、変わろうか?』


 インベントの頭にクロの声が響く。

 ルベリオとの戦いで通常時でも多少会話をすることが可能になっていた。

 その後、ラジオの周波数を合わせるように調整し、みるみる会話品質は向上していた。


 インベントは間を開けて――


「大丈夫……です」

『お、おん、そうか』


 インベントの動きは明らかに精彩を欠いているため、声をかけたクロ。

 インベントは、『白猿シロザル』の時のようにクロに任せてしまいたいと思った。


 『青猿アオザル』の強さは恐らく『白猿シロザル』と同程度と見積もっていた。

 クロならば華麗に『青猿アオザル』を葬ってくれる可能性は非常に高い。そんなことはインベントは重々承知していた。しかし――


(アレは殺せない。師匠が殺したとしても、それは俺が殺したのと一緒だ。

 だから任せられない。殺せない。あんなのでも……人間だ)


 人間を殺してはいけない。

 そんなある意味当たり前の価値観がインベントの思考を鈍らせる。

 だったらどうする? 殺せないならどうする?


 ひらりひらりと回避しつつも、『人型モンスター』はこれまで底なしの体力と耐久力だったことから『青猿アオザル』も休むことなく攻撃してくることは容易に想像がついた。


『お、おい。どうすんだよ。ベン太郎』

「う、う~ん……どうにかします」

『どうにかってなんだよ、どうにかって……』


 う、う~ん、と悶えながら真面目に考え、出した答えは――


「拘束……」

『んあ!? 捕獲するってのか?』

「……無理ですよねえ」

『カカカ、殺すのだって一苦労なんだぜ? 捕獲なんて無理無理。そもそも捕獲ってなんだよ。檻にでも入れちまうか?』

「むぅぅぅ。だったら……無力化とか」

『無力化ァ~? それこそどうやんだよ』


 沈黙する二人。肉薄する『青猿アオザル』。


『ちょっと! 真面目にやってよ!』


 シロが吠え、クロは受け流し、インベントは謝った。


『カーッ! 無力化ってことは縄で縛りあげるか!? 無理だわな。

 だったら~、四肢全部をもいじまうか。手足が無けりゃ……』

「そ、それは……う~ん」

『クソ難易度たっけえけど、無力化するならそれぐらいしかねえぞ。

 睡眠弾や麻痺弾なんて都合のイイもんは無いんだからよ!

 う~む、無効化ってんなら、まずは目玉潰すか。

 てかアレの生命力なら首チョンパしても生きてるんじゃね? お、それなら無効化できる!』


 クロは真面目に考えているのだが、インベントからすれば主語が違う。

 モンスターの目玉ではなく、人間の目玉を潰し、人間の首を――。


 想像し暗~い気持ちになるインベント。

 

「ハア……とりあえず、遠くに行こうかな」

『あん? 遠く?』


 インベントは南を見た。はるか遠くにはオセラシア自治区が広がっている。

 インベントは次に西を見た。これまたはるか遠くにダエグ帝国が広がっている、と聞いている。


「西に行こうかな。ず~っと遠くまでアイツを連れ出して」

『つ、連れ出してどうすんだよ!?』

「それは……わからないですけど」

『なあ? 始末しちまったほうがいいって。ずっと遠くに逃げたとしても町に戻ってきちまうかもしんねえ』

「それも……その通りですけど」


 人型も、殺してしまえ、やっちまえ。

 人型は、殺したくない、どうしよう。


 嚙み合わないインベントとクロ。

 ずるずると西へ西へと飛んでいく。


**


『もお~』


 シロは肩を落としていた。


(いがみ合ってないで、はやくどうするか決めてほしいなあ)


 どこか他人事のシロ。


(殺したくないってベンちゃんの気持ちわかるな~。

 アイナちゃんのお友達みたいだし、殺したくないよね。

 アイナちゃん悲しむもんね。


 でもフミちゃんの言う通り、殺しちゃうのが一番だよねえ。

 家バレしてるから、また訪ねてきたら怖いもんね。ストーカー怖~い。


 ベンちゃんも一思いにやっちゃえばいいのに……。

 って思っちゃうのは私――私もフミちゃんもあっちの世界の人間じゃないからか。

 どこかゲーム感覚に思っちゃうのもわかる。ゲームの中なら人を殺しちゃっても罪悪感無いし。

 スプラッタは苦手だけど……)


 インベントを通してみる世界はリアルでありながらも、どこかゲームの世界に思えてしまう感覚。

 シロは肩肘ついて、そんなことを考えつつ――


(結局……殺しちゃうしかないのかなあ)


 シロとしては、後日インベントが寝ている間に殺されてしまうような事態にならなければ、どのような結末を迎えても構わないと思っている。殺そうが無力化だろうがなんでも構わない。

 しかし現実的に考えれば、無力化は殺すことより数倍難しく思えた。少なくともシロは方法を思いつけない。


(う~ん。縛る? 磔にしちゃう? 穴に埋めちゃう? 無理だよねえ。

 無力化かぁ~……封印? むか~しなんかのゲームでクリスタルを集めて悪い人を封印してたっけ。

 なんだったかなあ、ドクラエ? エフフエ? 忘れちゃった) 


 インベントとクロが言い合いをしている最中、やはり他人事のまま、じっと『青猿アオザル』を見ていた。

 そんな時、ふと思った。なんか可哀そう――と。


 『青猿アオザル』が人だったことは明らか。

 さらに『黒猿クロザル』や『白猿シロザル』に比べて人らしさを色濃く残している。


(ラーエフって人が改造したのかなあ。

 人間がモンスターになっちゃうのってどんな気分なんだろう。

 モンスターになっちゃったらお家にも帰れないもんね。なんかせつないなあ。

 どうにか……してあげられないかなあ)


 なぜかジンに感情移入してしまうシロ。

 気まぐれの優しさ。


 インベントもクロも力には力で対抗するしかないと考えている。

 だが、シロは全く別のアプローチを閃いた。



 そんな閃きが――残酷な未来への扉を開くことになる。


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