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ドラゴン偵察② 場違いな会議

(うほお~! ファイアドラゴン!!)


 深紅のドラゴン――もとい深紅のドレークタイプのモンスター。

 ノルドが狙われてる隙に、空中から近寄ってドラゴンの観察をするインベント。


(いや~! でかいね! ブレスかっこいいね!)


 モンスターを見ながらうっとりするインベント。


 うっとりしつつも、じっくりと観察する。


(しかし……凄いブレスだな。というか……あれで人が死んだらしいけど……。

 木々はまったく無傷だし、炎というよりかは……光っぽいな。

 あと……インターバルが結構あるな……1……2……3…………10秒ぐらいか)


 ノルドからすれば脅威の炎なのだが、空中から見ることによってインベントはモンスターの炎をじっくりと研究することができた。


(おっと…………さすがに疲れてきたな)


 インベントはリジェクションムーブで空を飛んでいるが、無限に飛んでいられるわけではない。

 収納空間を使うたびに、幽力を多少使用しているからだ。


 とは言え幽力は回復が早く、過度に使い続けなければ切れることは無い。

 インベントは多少の欠乏感を感じつつ、そろそろ退避しようかと――――


(も、もうちょっと……近くで……でゅふふ)


 冷静と情熱(偏愛)の間で揺れ動くインベント。

 だが――


「あ……」


 まさかの事態。

 バレた。


「やっば!!」


 急遽発射される青白い炎。

 ――とはいえ。


(空中だと360度逃げ場があるからなあ~。それほど怖くないかも)


 あえて自由落下することで回避するインベント。


(……8……9……うん、インターバルも10秒みたいだ。タイミングを計れば避けるのは難しくないかな)


 インベントは難なく逃げることに成功した。

 そしてインベントがターゲットになったお陰でノルドも難を逃れたのだった。



**


(……やばいかな)


 インベントはノルドと予め設定していた待ち合わせ場所にてヒヤヒヤしていた。


(調子に乗って接近しすぎた……。どうもテンション上がっちまった……。

 命令違反……かな? そういうのにノルド隊長はあんまり厳しくないけど……うう~ん)


 頭を抱えるインベントのもとにノルドがやってきた。


「あ、隊長」


「インベント……か」


 ノルドの顔は怒っていない様に見えたので、少し気を緩めるインベント。


「……」


「……(なんで沈黙?? やだ、怖い)」


 ノルドは頬をぽりぽり掻いて――


「助かった」


「へ?」


 予想外の一言に固まるインベント。


「お前がモンスターの注意を惹きつけてくれたおかげで助かった」


「――――あ、ああ~! そ、そうですか! よ、良かった~!」


 ノルドを助ける気などまるで無かったインベントは驚きつつも、好都合な展開に安堵した。

 ノルドはなんとなくインベントが助けるつもりなど全く無かったことに気付いたが、実際問題助かったことには違いが無いのでスルーした。


「まあいい。とにかく駐屯地に戻るぞ。急ぎ報告しないとならん」

「はい」



**


 翌日――


 昨日の段階でエンボスには報告が済んでいたが、近況報告は今日するようにエンボスから命令が下る。

 理由は総隊長であるバンカースが駐屯地までやってきたからである。


「入るぞ」


 ノルドはぶっきらぼうにドアをノックし、会議室に入った。

 中には駐屯地司令官のエンボス、アイレド森林警備隊総隊長のバンカース、そしてメイヤース副隊長の三名だ。

 バンカースは緊急事態だと判断し、最低人数で状況を把握するための時間を設けた。


 ノルドはスタスタと歩を進め、椅子に座る。


「ちょ、ちょっと待て」


 バンカースが慌てて言う。


「なんでインベントもついてきてるんだ??」


 バンカースとしては場違いな新人が、アイレド森林警備隊の超重要会議に当然のように入ってきたので困惑していた。


「え?」


 インベントはインベントで困惑している。

 昨日も呼ばれたので、今日も呼ばれるのが当然だと思っていたからだ。

 そして事実、エンボスとノルドから参加するように命令されていた。


「おい、エンボス」


「む、そういえば説明するのを忘れてましたな」


 ノルドは「言っておけよ」と不満を露わにした。

 エンボスは「すまんすまん」と応えた。


「インベントは私が参加するように指示しました」


「は!? なんで!?!?」


「モンスターの状況を一番知っているのが……彼だからです」


「へ??? いや……どゆこと?」


 バンカースとしては、またインベントか……と思っていた。

 それになぜインベントが関わっているのか理解が全くできない。


「おい、バンカース」


 と呼び捨てにしたノルドをきつく睨むメイヤース。


「あ~っと、バンカース総隊長殿」


「なんだよ」


「状況報告していいか? ダラダラするのは好きじゃないんでな」


「あ~……まあそうだな」


「聞いてると思うが、今回のモンスターはドレークタイプだ。

 かなり遠くからしか見れていないが、平常時でも俺の身長ぐらいの高さはある。

 全長は……6メートル程度ってところだ」


「尻尾が長かったんでもう少しじゃないですか?」


「あ~そうか。だったら7から8ってとこだな」


 サラっと注釈を加えるインベント。

 バンカースとメイヤースは眉間にしわを寄せた。

 二人とも同じことを考えた。


(なんで……インベントがそんなことを知っている??)


 と。話は続く。


「色は赤い。非常に目立つ色だ。一目見れば判る。

 とまあここまではエンボスが話しているだろうな。

 一番大事なのはあの炎に関してだろうな」


 バンカースは頷いた。


「炎について話す――――その前に一つ嫌な話をする」


「なんだと?」


「あのトカゲさん…………恐らく探知能力がある」


「探知……だとお?」


「150メートル付近から近寄りにくいと感じていたが……、100メートルを切った段階で完全に位置がバレていた」


「……マジか」


「なんて……厄介な」


 バンカースとメイヤースは事の重大性に気付いている。


「そんでもって青白い炎だ。

 あの炎を間近で体験して気付いたが、恐らく動物以外には効果が無い。

 木々をものともせずに撃ってきやがったが、木には全く影響が無かったと思うし、遮蔽物に隠れるのも無理だと思う」


「チッ……まじかよ……」


「そして炎の射程は100メートル以上。

 つまり、100メートル近くに接近すれば――」


「バンバン撃ってくるってか? どうしようもねえじゃねえか」


 バンカースは自らの頭を叩いた。


「エンボスにも言ったが、『宵蛇よいばみ』を呼んだほうがいい」


「クッソ……『宵蛇よいばみ』かよ」


 インベントは「ヨイバミ?」と呟いた。

 インベント以外は知っているのだ。


「『宵蛇よいばみ』ってのは、イング王国直轄の戦闘集団だ」


 ノルドが解説する。


「おお~精鋭ですか?」


「ああ。とはいえ……あいつらも多忙な身。今から要請しても遅いかもしれねえがな」


 バンカースは唇を噛んだ。


「『宵蛇よいばみ』の要請は検討する……というよりもすぐに使いを出す。

 メイヤース。頼む」


「分かりました」


「とは言え……出来る限りこちらで対応してしまいたい。

 ちなみに……その……誘導はできないのか?」


「恐らく厳しい。

 探知範囲が俺とほぼ同じである以上、昔みたいに領の外に連れ出すのは……至難だ」


 ノルドの探知能力とスピードがあれば、場合によってはモンスターを誘導し、領地内から連れ出すことはできる。

 過去にAランクのモンスターが発生した際、二度実行し成功している。


 とはいえ、ノルド頼みになる作戦なので、バンカースとしては心苦しく思っている。


「……自然消滅してくれねえかな」


「フン……弱気だな」


「ハア……弱気にもなる。

 炎とやらが防御不可ってことは、ディフェンダーが全く機能しないってことだ。

 機動力のあるメンツを揃えて、全方位から接近する……にしても被害は甚大だろうし」


「【大盾ソーン】の奴が炎を喰らって一命はとりとめたって話だし、盾役は利用価値はあるだろう」


「死ぬかもしれねえけど、盾になれってか? さすがにそんなクレイジーな奴はいないぞ」


「だとしてもアタッカーを裸のまま接近させるのか?

 そんなクレイジーなアタッカーこそいないだろうが」


 ノルドとバンカースは喧嘩腰だ。


「まあまあ、お二人」


 そんな二人をエンボスが窘める。

 作戦と言えない作戦が練られていくが……インベントは一人考えていた。


「あのお」


「……なんだインベント」


 イラついているバンカース。


「あの炎ってそんなに怖いんですか?」


「ハア?」


「確かに飛距離は凄かったけど、それほどスピードは無かったし……」


「へっ! 何を言ってやがる!

 ノルドさんでも避けるのがきつい炎だぞ!? 他の奴らは避けられねえ! そんで一撃でドボンだ!」


 バンカースからすれば新人の向こう見ずな発言。

 だが――


「……そうか。お前にとっては……」


 ノルドは気づいた。


「そもそもなんでインベントがここにいるんだ! 新人は部屋で自粛してろ!」


「待て、バンカース」


 メイヤースの額に皺が寄るがノルドは無視した。


「なんすか!」


 バンカースは子供っぽく応える。

 そもそもバンカースは大人ぶっているが、元々血気盛んな若者だったのだ。

 立場上、大人っぽく振舞っているが、本質的には落ち着いたタイプではない。


「もしも平地であのモンスターと戦うんだとすれば、俺一人でそこそこ遊撃できる」


「は? だって近づく前に炎喰らって終わりでしょ!?」


「平地なら――だ」


「平地……?」


「あの炎の恐ろしい点は、木々をすり抜けてくる点だ。

 100メートルも先からだとどうしても木々が遮蔽物になっちまって反応が遅れる」


「ハッ。だったらどうするんだよ?

 駐屯地周辺に木々がない平地なんてどこにも無い!

 それともなにか? オセラシアのほうまで連れてくってのか? ハハハ」


 自嘲気味に笑うバンカース。


「その通りだ。遮蔽物が無い場所なんてこのイング王国にはほとんど無い」


「だったら意味ねえじゃねえか」


 ノルドは嗤った。

 そして立ち上がり、インベントの両肩に手をかけた。


「だが……コイツなら炎を避けられる」


 自信をもって言うノルド。

 それに対しバンカースはキレた。


「馬鹿言うんじゃねえよ!!

 そのガキが100メートル先を探知できるのかよ!?」


「できねえよ」


「だったら無理だろうが!」


 キレる大人を見てインベントはドン引きしている。

 メイヤースとエンボスは押し黙る。


「今から証明してやるよ」


「は!?」


「お前が考えるより、コイツはすげえんだぜ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] インベントww僕は関係ありませんみたいな顔でドン引きするなw
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